上 下
85 / 108
一章

その頃地上では

しおりを挟む
 ブランは大荷物を持って、ダンジョンの出口に出た。
「あれー、真夜中でやんす」
 海の匂いと細波に戻ってこれたとホッとする。
「おかえりなさい」
 ギルドの職員が声を掛けてくれた。
「あら、〈屋根裏の指人形〉の子よね?一人?」
 入場記録はパーティ五人で、帰ってきたのが一人じゃ何かが起こったと判断して当然だ。

「あ、わっちはブランと言うでやんす。わっちは八階層でゴブリンの群れに遭遇して数が多くて捌ききれないとなった時に仲間に囮としておいて行かれたんでやんす」
「なんですって!!」
 ブランはビクッとちょっと飛んだ。

「あ、これは助けてくれたジェイルさんに受付に渡すようにと言われて・・・」
 ジェイルからの手紙を読んだ受付はとんでもない憤怒の顔で自分の手の拳をダーンと机にぶつけた。
 またしても飛んでしまいブランはちょっとちびったかと焦る。

「〈伝心鳥〉」
 受付は通信用魔道具でギルマスに連絡を入れる。伝心鳥にギルマス宛の手紙を渡してくれた。
「三十分も掛からぬうちに飛んでくるわ」

 受付の人エニスは暖かいミルクを出してくれた。

 ブランも仲間たちも救援依頼は頼んでない、転移の魔道具も持ってないことから、救助はしない方向だけど、犯罪を犯してるとなると話が変わるのだと言われた。

「生きてれば身柄拘束の上、裁判。全員のパーティ資金の没収、この場合ブランが慰謝料で総取りね」
 パーティ資金はほぼ残高がないだろうけど、宿に置いてる予備の防具や剣は売れるなぁとぼんやり思う。

 しばらくお話ししていると船が結構なスピードで進んできて、大柄なおじさんたちが降りてきた。

「おう、ジェイルに助けられたってぇ?」
「あああっ!ししししんんんげげげげっつつつのののラライイイコココウウウウゥ」
 ブランが壊れたおもちゃのようになって、それを見たドットたちはブランの頭を撫で回した。

「アイツに気に入られたんだね。ジェイルは人に深入りが苦手なんだよ。ダンジョン内自己責任でスルーしても文句は言われないのにちゃんと報告とブランの送り出しまでしたのはだいぶ優しい」

 他の仲間のことはスパッとスルー決定してたし、ブランもそう言う物だと認識してる。あの状態なら八階層のセーフゾーンに置いてくれるだけでも御の字だ。

 ギルマスがエニスと情報を擦り合わせて、ブランに話を聞いて、やっぱり全滅の可能性が大きいけれど犯罪者なので、死亡確認を取らないとってことで〈新月の雷光〉がダンジョンに入ることになった。

「俺たちは攻略済みだからゲートで五階層から行くから気にするな」

 死亡確認なんて遺体が消えちゃうダンジョンでどうするのかとブランは不思議に思ったが、ギルドにはキルドタグの反応を探知する魔道具があるんだそうだ。

「・・・はっ!!船酔いの実と発酵きのこくらげを預かってるでやんす!!」
 ギルマスと〈新月の雷光〉宛のお土産があったとブランは思い出して焦った。
 これからダンジョンに入るのに渡してもっと気付き、ワタワタと混乱した。

「全部俺が預かっておくから心配ない」
 ギルマスがブランの頭に手を置いて落ち着かせた。

「「「「じゃ行くわ」」」」
「おう」
「行ってらっしゃいでやんす!」

 〈新月の雷光〉はダンジョンの中に入って行った。

「かー、ジェイルは一日で十階層行ったか」
「びっくりでやすよねー」
「お前は残念な目にあったがラッキーだったな」
 命があったのも奇跡で、ダンジョン外に五体満足で戻れて、お土産いっぱい持ってるのはもうあり得ない幸運だ。

「アイツらなら朝飯前に戻ってくるだろうからここで待つか」
 ギルマスはこれでも忙しい身なんだと言いつつ、ここ最近のダンジョンの記録を見ている。

 ブランはエニスにダンジョンの品を売りたいものがあれば出すように言われて荷物を崩した。

 一階層から七階層までのドロップ品と収穫物は大したものはないし、ほとんど失ってしまったけれど、ジェイルといた九階層十階層で得た果物やドロップ品、ボス部屋の宝石などは結構な物だった。

 いくつかの宝石は彼女と母と妹、祖母に持ち帰り、一個はジェイルとの出会いの記念に、取っておくことにして、ポーション数本は帰路の保険に残して、あとは売ることに。
 ブランにはマジックバッグがないので、果物はお土産にできないし、大荷物は盗賊に狙われるので身軽が一番なのだ。

「はわぁ、わっちが今まで手に入れて金額を超えるでやんす」
「メンバーで頭割りじゃなかなかねぇ」
 エニスが苦笑すると、
「わっちは荷物持ちなので端数だったでやんす」
とブランが答えたので、エニスはまたテーブルをズガンッと叩いた。
 ブランが今度こそチビっちゃったかもと思わずズボンを確認した。

「おい!エニス!ウルセェぞ!!」
「だまらっしゃい!!」
 エニスがオーガのような様相になっているのを見てギルマスは、何だよと話を聞く体勢になった。

「あんだと!?」
 エニスとギルマスが言うには正式なパーティメンバーに登録していたら、報酬は等分に、雇われの形ならば最低賃金と危険手当を合わせた日給を保証しなくてはならないと、ギルド規則で決まっているらしい。

「全く今時そんなアホな真似をする奴がいるとはなぁ」
「新人いびりと一緒で巻き上げは淘汰できませんよ」

 ブランは自分が不当な扱いを受けていたことを知って、いやなんとなく分かってはいたけれど戦闘に向かない自分には妥当な扱いだと思い込んでいたことを思い出した。

「奴ら死んでいてもむしり取ってやるからな」
「死んでたら無理でやんすよ」

 怒ってくれる大人がいて、ちょっと嬉しいブランだった。



しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

モブです。静止画の隅っこの1人なので傍観でいいよね?

紫楼
ファンタジー
 5歳の時、自分が乙女ゲームの世界に転生してることに気がついた。  やり込んだゲームじゃ無いっぽいから最初は焦った。  悪役令嬢とかヒロインなんてめんどくさいから嫌〜!  でも名前が記憶にないキャラだからきっとお取り巻きとかちょい役なはず。  成長して学園に通うようになってヒロインと悪役令嬢と王子様たち逆ハーレム要員を発見!  絶対お近づきになりたくない。  気がついたんだけど、私名前すら出てなかった背景に描かれていたモブ中のモブじゃん。  普通に何もしなければモブ人生満喫出来そう〜。  ブラコンとシスコンの二人の物語。  偏った価値観の世界です。  戦闘シーン、流血描写、死の場面も出ます。  主筋は冒険者のお話では無いので戦闘シーンはあっさり、流し気味です。  ふんわり設定、見切り発車です。  カクヨム様にも掲載しています。 24話まで少し改稿、誤字修正しました。 大筋は変わってませんので読み返されなくとも大丈夫なはず。

スキルポイントが無限で全振りしても余るため、他に使ってみます

銀狐
ファンタジー
病気で17歳という若さで亡くなってしまった橘 勇輝。 死んだ際に3つの能力を手に入れ、別の世界に行けることになった。 そこで手に入れた能力でスキルポイントを無限にできる。 そのため、いろいろなスキルをカンストさせてみようと思いました。 ※10万文字が超えそうなので、長編にしました。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

処理中です...