ミャーはネコマタなのにゃ!ケット・シーじゃにゃい!

紫楼

文字の大きさ
上 下
2 / 9

ママが用意してくれたお家

しおりを挟む
 元飼い猫のナツは草原に立っていた。

「ミャーは知ってる。ここは原っぱっていうにゃ」

 うんうんと頭を振ってから、目の前の家を見る。

「これがミャーの家!お庭が広い一軒家ってやつにゃね?」
 家は木造の可愛らしいデザインの大きなだった。
 ナツは走り出そうとして気がつく。二本足で立っていたことに。

「ネコマタって人間みたいに歩くにゃ?」

 ナツは「まぁ良いか」とそのまま走って行くことにした。

 門を開けて進むと、可愛らしい花壇と奥には畑、洗濯干し、木に二人乗りブランコ、お外でご飯の時のテーブルセットといろいろ揃っている。

「ミャーのお家にゃ!!」
 ナツは興奮を抑えきれずに扉をバァンと開く。

「お帰りなさいませ」
「誰だにゃ?」
「このお家の管理とナツさまのお世話を仰せつかまっております、シルキーにございます」

 玄関でメイド姿の妖精が出迎えた。

「ミャーのお世話!これはありがとうと言う時にゃんだな」
「お使えする者に礼はいりません」
「ママが誰かに何かしてもらったらありがとうって言うのが気持ちいいと言ってたにゃよ」

 シルキーはナツの純粋さに嬉しさ、楽しみ、少しの心配が心に生まれた。

「ナツさま、お家の中を確認なさいませ」
「にゃ!ミャーのお家」
 ナツは一階のキッチン、お風呂、トイレ、ご飯の棚をチェックする。

「ミャーのご飯!!カリカリもウェッティもささみもあるにゃ。ニャールとニャルカン、ニャンプチ!!またたびもにゃ!」
 ご飯はずっと補充されるのだと言うから神様はすごいとナツは思った。

 居間には暖炉があって、壁にはキャットウォークや壁掛けの猫ベット、家具にはキャットタワーや猫ちぐらがある。

「ママがミャーに買ってくれたベッドにゃ」

 ナツのためにいろいろ買っては「なぜ使わないの?」とガッカリされたり、「これは?可愛いでしょ?」と自信満々に並べてくれた思い出が蘇る。

「ミャーは使うよ!ママ!」
 ナツは猫ちぐらに入ろうと背を丸めて突進した。

「????」

 神様が用意したものは普通の猫サイズだった。今のナツにはかなり小さい。

「ナツさま。ナツさまは以前のお身体よりかなり大きくなっておられます」
 シルキーがナツの前に姿見を用意してくれた。

「ミ"ギャーーーーー!!!」
 ナツは得体の知れない見たことのない姿にビックリして毛を逆立てて威嚇した。

「!!??」

 なぜか目の前の生き物は自分の動きをトレースしているのをナツは理解出来なくて、鏡に手を出してみる。
 鏡向こうの生き物も手を出してお互いの手がくっ付いた。

 ナツは感じたことのない不気味さに思わず身震いしたけど、ふとママを思い出す。

「ナツー、可愛い可愛い!ほら見て~、ママとナツー!」
 ママはニコニコとミャー両手を持って「にゃんにゃん♪」と鏡にナツの手をくっ付けて喜んでいた。

「・・・あの時ママが抱っこしてたのはミャーで鏡に映っていたのがミャーとママ・・・」

 ナツは鏡に手をつけたまま、首を傾げる。同じように動く鏡向こうの誰か。

「・・・ミャー?これはミャーにゃのか?」
「そうですよ」
 シルキーがナツの隣に立つと鏡の向こうにシルキーが映る。

「ナツさまはケット・シーですので人間の子供ほどの背丈で二本の足で立っておられますこのお姿になられました」
「ミャーはネコマタにゃ!」

 ナツは自分の姿をマジマジと鏡で確認する。

 ママが大好きなハチワレでオッドアイ。毛皮もふわふわさらさら、お腹もぽっこりでママが大好きなもっふり感なのを確認。
 神様がくれたバッグにブーツにフード付きハーフマントはママが知らないものだけど、これならママが見てもナツだってわかるだろうと安心した。

 尻尾も二本。ママが言ってたネコマタの特徴だ。ナツは自分がちゃんと「ネコマタ」になれたと嬉しくなった。

「あちらの家具などはナツさまの使用できるサイズに変更されますか?」

 シルキーの言葉にナツは少し考える。
 このサイズ用で壁やキャットタワーを置くと邪魔そうだし、壁を歩いたり、猫ちぐらやキャットタワーで遊んだら天井に頭をブツけそうだと思った。

「ミャーはママみたいに大きなベッドで寝るにゃ」
「それがよろしいかと」

 二階は寝室と客室が三部屋、一部屋は日光浴ができる大窓の娯楽室になっている。

 ナツが寝室に入ると、ママと過ごしたあのお家のいつもいた部屋のような作りで、ママのショールと膝掛け、クッション、電気ケトルなどが置いてあった。
 壁にはママとナツが一緒に写った写真が並ぶ。

「お猫さまは環境が変わるとよろしくないと神様がナツさまのために用意してくださったのです」

 ナツはママの膝掛けの上に寝転んだ。
 ママの匂いはしないけれど、ママのお膝に抱かれた日々を思い起こす。

「うにゃん。ぅう・・・ママ・・・」

 ナツはしばらく動かなかった。
 あれだけ可愛がってくれたママと離れ離れで、もうママの香りもママの声も温かいぬくもりも全部が幻になってしまった。

「ママ、ミャーはいい子にするよ。ママがしてくれたことをミャーみたいな目に遭ってる子いたら助けるよ。ミャーは頑張るんだにゃ」

 ナツが下に降りていくとシルキーがご飯を用意してくれた。
 そして一人お客さん?
 テーブルについてシルキーが話し込んでた。

「ナツさま、お加減はいかがですか?」
「だいじょぶ」
 シルキーがミャーの席の案内してくれた。

「ナツさま、こちらの方は神様の依頼で、ナツさまがこの国、この街に暮らして行くためのお勉強などをお手伝いしてくれる冒険者のシェルスさまです」

 ナツは目の前のとても美しい人間に驚いた。耳が長い人間は初めてみたけど、ママが好きな映画にそんな人間がいたかもと思い出した。

「僕はルシェエリュス・アルス・ジェルサリューンと言います。長いので普段はシェルスと名乗っています」
 シェルスは銀の髪をキラキラ揺らしながら挨拶をした。
「ミャーはニャツ!ネコマタだにゃ!」
「ニャッツ?さてネコマタとは?」
 
「ニャッツじゃない!!ニャッツにゃ!!」
「ニャッツ?」
 ナツは一生懸命名乗ったけれどシェルスにはニャッツとしか聞き取れない。ナツは「ナ」の発音が苦手だった。
 
 シルキーが「ナツさまです」とシェルスに教えると少し考えてから、
「ナツは言いにくいようですからナッツと名乗るにはどうですか?」
と提案した。
「ミャーはママの付けてくれたニャツがいいにゃ!」
 本猫は必死だけど、どうしても「ナツ」が言えない。

「ニャッツ・・・ニァチュ・・・?ナッチュ、ぅぅぅ」
 ナツはとても悔しいけど、少し思い出した。
 ピッピちゃんママがナツに会いにきては、
「ナッツゥウ!!なっちゃぁん!ナチュナチューー」
などと言っていたことを。

「んんーにゃ、ナッツ、ナッツだと言えるにゃ」
 「ナ」はダメだけど「ナッ」は何とか言える気がした。

「ママが呼んでくれた名前はママだけ、ならいいかにゃ」
「あら?私もナッツさまと呼ぶべきですか?」
「シルキーはナッチュでいいにゃ」
 早速噛んで、ナツはちょっぴり凹んだ。

「うふふ、ナッツさまにしておきましょう。お可愛らしいので良いと思いますよ」
 生まれ変わったので心機一転ですねってシルキーはナツ改めナッツを慰めた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

京都式神様のおでん屋さん

西門 檀
キャラ文芸
旧題:京都式神様のおでん屋さん ~巡るご縁の物語~ ここは京都—— 空が留紺色に染まりきった頃、路地奥の店に暖簾がかけられて、ポッと提灯が灯る。 『おでん料理 結(むすび)』 イケメン2体(?)と看板猫がお出迎えします。 今夜の『予約席』にはどんなお客様が来られるのか。乞うご期待。 平安時代の陰陽師・安倍晴明が生前、未来を案じ2体の思業式神(木陰と日向)をこの世に残した。転生した白猫姿の安倍晴明が式神たちと令和にお送りする、心温まるストーリー。 ※2022年12月24日より連載スタート 毎日仕事と両立しながら更新中!

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

猫の私が過ごした、十四回の四季に

百門一新
キャラ文芸
「私」は、捨てられた小さな黒猫だった。愛想もない野良猫だった私は、ある日、一人の人間の男と出会った。彼は雨が降る中で、小さく震えていた私を迎えに来て――共に暮らそうと家に連れて帰った。 それから私は、その家族の一員としてと、彼と、彼の妻と、そして「小さな娘」と過ごし始めた。何気ない日々を繰り返す中で愛おしさが生まれ、愛情を知り……けれど私は猫で、「最期の時」は、十四回の四季にやってくる。 ※「小説家になろう」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

王族に婚約破棄させたらそりゃそうなるよね? ……って話

ノ木瀬 優
恋愛
ぽっと出のヒロインが王族に婚約破棄させたらこうなるんじゃないかなって話を書いてみました。 完全に勢いで書いた話ですので、お気軽に読んで頂けたらなと思います。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…

三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった! 次の話(グレイ視点)にて完結になります。 お読みいただきありがとうございました。

処理中です...