辺境の村の少年たちが世界を救うまでの長いお話

川上とむ

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第三十八話『許可証の作り方』

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 ゼロさんを先頭に歩みを進め、月の神殿に併設された小屋の扉を叩く。少しの間をおいて、無精髭を生やした白髪交じりの男性が出てきた。

「……なんだゼロか。また何か押し売りに来たのか?」

 どうやら管理人らしいその男性はゼロさんの顔を見るなり、ため息混じりに言う。どうやらこの二人、顔見知りみたいだ。ゼロさん、どこまで顔が広いんだろう。

「今日は別件だよ。ちょいと、月の神殿の内部を調べさせてもらいたい」

「最深部までか? それだと、王都発行の許可証が必要だ。持ってるか?」

 それを聞いたゼロさんが「おっと。そういやそんなもん必要だったな」と呟いて、「ちょっと待ってな。鞄の奥底に入れてあるからよ」と続けて、俺たちを連れだって小屋から離れた。

「えーっと、国王のサインはここで……証明印がここと、ここ……」

 そして鞄から一枚の紙を取り出すと、慣れた手つきでその上に羽ペンを走らせ、印鑑を押していく。あっという間に立派な書類が完成した。

「……よし。こんなもんだろ。おーい、あったぜ!」

 その書類を持って男性の元へ戻る。できたてほやほやの許可証を渡された男性は「本物かこれ……?」と、訝しげな表情をしていたけど、どうやら信用してくれたみたいだ。「鍵を取ってくるから、少し待っていてくれ」と言い、小屋の中へと戻っていった。

「さすが王様だね。許可証をその場で書いちゃうなんて」

 男性の姿が見えなくなった後、ルナが笑いながら言う。「おうよ。本物であることに間違いはないだろ」と、ゼロさんも自慢顔で返していた。確かにそんな芸当、ゼロさんにしかできないけどさ。

「ありゃ!? 鍵がない!?」

 ……その時、小屋の中から声がした。ゼロさんがひと声かけてから扉を開け、中へと飛び込むと、男性は紐のついた巾着袋を手に慌てふためいていた。

「鍵がないって、どういうことだ?」

「ああ……間違いなくここの袋に入れておいたはずなんだが……」

 男性は持っていた袋をひっくり返す。中からはよくわからない道具や、お弁当らしい包みが転がり出てきたけど、鍵らしいものはない。

「……他にも似た袋があるけど、こっちには入っていないんですか?」

 必死の形相で中味を確認する男性に対し、ルナが別の袋を指差す。確かに、壁には他にも似たような袋がたくさんぶら下がっている。

「こっちは俺の弁当で、こっちは工具が入ってるんだ。鍵は常に右端の袋に入れていたんだが、袋ごとなくなってるんだよ」

 男性の指し示す場所には、袋をかけるための釘の頭が出ているだけだった。近くに窓があったので、そこから外に落ちてたのではと思い見てみるも、何かが落ちている様子はなかった。

「……もしかして、さっきの奴だったりするか?」

 窓から視線を戻し、一列に並ぶ袋を見ていた時、ある考えが頭をよぎった。さっき俺とぶつかった奴の手に、これと同じ袋が握られていたような気がする。

「ひょっとして、何か心当たりがあるのか?」

 先程とは打って変わって期待に満ちた視線を送ってくる男性に、俺たちが来る前に人が来なかったかと聞いてみる。

「いや、今日ここに来たのはあんたたちが初めてだよ。普段、ほとんど人の来ない場所だからな。それがどうかしたのか?」

 ……その言葉を聞いて、俺の考えは確信に変わった。十中八九、神殿の鍵はあの赤髪の奴が持って行ったんだと思う。

「もしかしたら俺、犯人の姿見たかも」

「本当か! 頼む。鍵を探してきてくれ! 国が管理する鍵を無くしたなんて国王陛下に知れたら、どんな目に合うか……!」

 縋りつく勢いで懇願する男性に対し、ゼロさんは「いや、別に何もしねぇと思うが……」と呆れ顔だった。この人、国王陛下にどんなイメージを持ってるんだろう。

「と、とりあえずさ。さっきの奴を探しに行こうぜ」

 一応犯人の目星もついたし、俺たちは素早く動くことにした。犯人らしき人物の姿は俺しか見ていないけど、特徴的な赤髪だったし、街を出てさえいなければ、すぐにわかるはずだ。


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