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第三十三話『ルナの倹約術』
しおりを挟む食堂での騒ぎから数日後、ゼロさんから城に呼ばれた。
城に行くなのは王都に来た日以来だし、何事だろうと思っていたら、門のところにアグラスさんが待っていてくれた。
「君たち、元気そうで何よりだ」
先の時とは違い、すっかり明るくなった俺たちを見て安心してくれていたし、ここぞとばかりに色々な話をした。
そして案内された玉座には、王族の衣装に身を包んだゼロさんがいて、「おー、来たか」と、すごい砕けた感じで話しかけてきた。
「まぁ、奥で話そうぜ」というゼロさんから私室へ通されると、ソファーに腰掛けるよう促された。相変わらずふかふかのソファーの座り心地を楽しんでいると、ゼロさんは机の上に大きな紙を広げる。これ、この大陸の地図だ。
「お前ら、ちょっとこの地図を見てくれ。ここがラグナレク王国だ。で、こっから川沿いに街道を通って南に行くと、でかい湖があるんだが、そこの湖畔にアレスって街がある」
ゼロさんはまず、その中央を指差す。次にその指を動かして、下の方を差し示した。そこには『湖畔の街 アレス』と書かれていた。
「ここは豊かな水資源を利用した染物や観光業で成り立っている街なんだが、その観光の中心に、月の神殿という場所がある」
「月の神殿?」
「おう。月の巫女と、月の神殿。なんか関係性がありそうじゃねぇか?」
『月の巫女』という単語に、ルナの目が見開かれた気がした。
「……俺なりに調べた結果だが、ここに何らかの手掛かりがあると踏んでる。お前らも元気になったし、調査に行ってみないか?」
ゼロさんは真剣な目で俺たちを見てきた。どうやら、俺たちの精神的なダメージが回復するまで待っていてくれたらしい。
ルナはどうするんだろう……と視線を向けると、「……わたし、行くよ」と言い切った。ルナが行きたいというのに、俺が反対する道理はない。
「俺も行く。ルナだけだと、危なっかしいしな」
「……ウォルスくん、それどういう意味?」
ルナは怪訝そうな顔をするけど、俺は笑ってはぐらかす。行く先は安全な観光都市かも知れないけど、街道を通る時点で魔物も出るだろうし。護衛は必要だと思う。
「……決まりだな。なら、出発は明日の朝。街の出口に集合だ」
ゼロさんはどっかりとソファーに腰を下ろし、頷きながら言う。
「……もしかして、ゼロさんもついてくるのか?」
「おう。そろそろアレスにも視察に行きたいと思っていたところだしな」
もっともらしく言うけど、こういう時の王様って資金援助とか、励ましの言葉をかけてくれるくらいだと思っていた。自ら同行してくれる王様なんて、頼もしい限りだった。
※ ※ ※ ※ ※ ※
……俺たちは城から戻ると、市場に足を運んで旅の準備をすることにした。具体的には飲み水を入れる水筒や食料、野宿の際に夜露をしのぐための防寒具などだ。一式揃えるとなると、決して高くない買い物なんだけど……。
「むー。おじーさん、この野菜、もう少し安くならない?」
「馬鹿言っちゃけないよ。もう銅貨2枚は値下げしたよ。これ以上はうちも赤字さ」
……ルナは野菜売りの露店の前で、必死に値切っていた。
先日の一件以降、俺たちの財布はルナが握っているんだけど、相変わらずの倹約家っぷりだ。もちろん、ルナも少しずつ王都での金銭感覚を身につけてはいる。それでも、常に安く済まそうと努力していた。
「はぁ……高い。高いよ」
……結局野菜は買わずに店を離れたルナが、ため息混じりに言う。まぁ、気持ちはわかるけど。
「ウォルスくん、野菜、現地調達でもいいよね? 食べられる野草、そこら中に生えてるし」
もの凄い笑顔で言われた。俺としてはきちんとした野菜が食べたかったけど、ここで首を縦に振る勇気はなかった。
「水筒は買ったし……あ、街道は川に沿って続いてるから、飲み水は川の水でいいよね?」
手持ちのメモを見ながら言う。ちなみに買ったのは店で一番安い水筒だ。真鍮製だけど、落としたりしたら簡単に穴が開いてしまいそうなくらいに薄い。
そういえば、街が近いから川の水も汚れている可能性がある……とかゼロさんが言っていた気がするけど、大丈夫かな。旅先でお腹壊すなんて嫌だぞ。
「夜の防寒具もお屋敷にあった衣服を再利用すれば使えそうだし。あとはやっぱり食料がネックだよね……」
言いながら、うんうんと考えを巡らせていた。こういう時、本当楽しそうだよなぁ……なんて考えてると、「そうだ。良いこと思いついた」と言って、ルナは城へと駈け込んでいった。一体どうしたんだろう。
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