24 / 60
第二十四話『王都での目覚め』
しおりを挟む「あーもう、ガルドスのアニキ、何しくじってるのさ」
「め、面目ねぇ……」
ウォルスたちが無事王都へと逃げ切った頃、旧山道には先程までウォルスたちと戦っていた少年と、村を襲った黒騎士……ガルドスの姿がありました。
「けどよ。ジョシュアネスだって、余裕ぶっこいてるから月の巫女に逃げられたんじゃね?人のこと言えるか?」
「う……うるさい。僕はきちっと戦ったんだ。派手に村を襲っておいて、途中で井戸に身体が引っかかって動けなくなってたガルドスとは違うよ」
……このジョシュアネスとガルドス。どちらもルナたちを捕まえられなかった責任を押し付け合っている様子です。やっぱりこの二人は仲間だったみたいですね。
「……アンタたち、くだらないことで言い争ってんじゃないわよ」
その折、ふいに暗がりから一人の少女が現れました。白い肌に長い金髪と深紅の瞳が映えます。
その身長は小柄なジョシュアネスの肩程までしかなく、黒や赤を基調としたゴシック調の衣服も相まって、さながらお人形さんのようです。
「ああ……リリファーリエもこっちに来たのか」
「ランドリムス様からの撤収命令を伝えにね。流石に、ちょっと派手にやりすぎたみたいね」
リリファーリエと呼ばれた少女はため息混じりに言って、未だに炎を上げ続けている麓の村に視線を送ります。
「いや、たかが村の自警団だと侮ってたら、結構つえー奴がいてよ。つい、夢中になっちまった」
「相変わらずアホねぇ……ほら、飛行艇は向こうに止めてあるから、さっさと逃げるわよ」
「おうよ!」
「撤収はいいけどさ……これだけやって月の巫女を取り逃がしちゃったし、本国に戻ったら僕達は懲罰室確実だね」
「自業自得でしょ。ほら、さっさと歩きなさい!」
小さい少女に尻を蹴られながら、ガルドスたちは道を外れ、闇の中へと消えていきました。
それからしばらくすると、大きなプロペラ音が鳴り響き、闇夜に溶け込むような迷彩を施された巨大な鉄の塊が夜空へと飛び去っていきました。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
……自然と目が覚めた。視線の先には、見慣れない天井。いつもの自分の部屋じゃなかった。
妙に白いシーツと清潔感溢れるベッド。少し遅れて、ここが宿屋なんだと気づいた。
首だけ横に向けると、そこには別のベッドがあって、ルナが寝息を立てていた。
反対側を向くと、小さな窓が目に入った。そこから風が静かに入り込み、備え付けられたカーテンをひらひらと弄んでいる。
……そうか。村が襲われたんだった。
そんなカーテンをぼうっと眺めていたら、昨日の出来事が段々と脳裏に蘇ってきた。赤く染まった村、ゼロさんと逃げた山道、ネクロマンサーとの戦い……。
「……くそっ」
次々と頭に浮かぶ光景を追い出そうと、俺はベッドから跳ねるように起き上がる。
「……ウォルスくん?」
その音で目が覚めてしまったのか、隣のベッドで寝ていたルナが俺の方を向いていた。
「あー……悪い、起こしたか」
「ううん、あまり眠れてないから……」
心なしか赤くなった目を擦りながら、モソモソとベッドから起きてくる。
「……髪の毛、ボサボサだぞ」
「……ウォルスくんだって、へんな寝癖ついてるよ」
いつもの調子でやり取りしようとするけど、お互いに疲労の色が濃いのがわかる。
「あはは……」
結局二人で力なく笑い、しばらくぼうっと見つめ合うしかなかった。昨日の出来事がまるで夢だったような、いや、夢であって欲しいような、モヤモヤとした感覚が俺の中を支配していた。
「……お目覚めですか?」
……その時、遠慮がちな声がした。二人して視線を泳がせていると、部屋の扉が少しだけ開けられ、初老の女性の顔を覗かせてきた。
「何度かノックをしたのですけど……お返事がなかったもので。入ってもよろしいですか?」
「ああ……どうぞ」
できるだけ平静を装いながら入室を促す。その格好からして、この宿屋の主人らしい。少し白髪の混じった髪を後ろで結い、落ち着いた雰囲気の人だ。
「お二人とも、丸一日以上眠っていらっしゃいましたよ。かける言葉も見つかりませんが、大変でしたねぇ」
そう言いながら、俺達の前に野菜スープとパンを差し出してくれた。惰性でそれを受け取ったけど、正直、あまり食欲はなかった。
「あの、ゼロさん……一緒に商人さんがいたはずなんですけど」
ルナも俺と同じ心境なんだろう。渡された食事には手をつけず、そう尋ねていた。
「ええ、一緒に来られた男性の方はお二人が休まれてすぐに出ていかれました。どうも、急用ができたとかで」
「そう、ですか……」
返答を聞いたルナは寂しそうに手元のスープに視線を落とす。
「お二人が目を覚ましたと知れば、あの方もまたやってくるかもしれません。今は少しでも食事を召し上がって、元気を出してください」
「はい……」
笑顔で会釈して、宿屋の主人は下がっていった。それを見送った後、俺とルナは食事を口に運ぶ。
野菜スープも具だくさんで、ソーセージまで入っていたけど、まるで水を飲んでいるようで味がしなかった。
ルナもパンをかじりながら、何とも言えない顔をしていた。柔らかそうだし、きっとこんな状況じゃなけりゃ美味しいんだろうけど。
それでも、丸一日以上何も食べていないのは事実だし。少しでも食べておかないと。
0
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる