辺境の村の少年たちが世界を救うまでの長いお話

川上とむ

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第二十四話『王都での目覚め』

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「あーもう、ガルドスのアニキ、何しくじってるのさ」

「め、面目ねぇ……」

 ウォルスたちが無事王都へと逃げ切った頃、旧山道には先程までウォルスたちと戦っていた少年と、村を襲った黒騎士……ガルドスの姿がありました。

「けどよ。ジョシュアネスだって、余裕ぶっこいてるから月の巫女に逃げられたんじゃね?人のこと言えるか?」

「う……うるさい。僕はきちっと戦ったんだ。派手に村を襲っておいて、途中で井戸に身体が引っかかって動けなくなってたガルドスとは違うよ」

 ……このジョシュアネスとガルドス。どちらもルナたちを捕まえられなかった責任を押し付け合っている様子です。やっぱりこの二人は仲間だったみたいですね。

「……アンタたち、くだらないことで言い争ってんじゃないわよ」

 その折、ふいに暗がりから一人の少女が現れました。白い肌に長い金髪と深紅の瞳が映えます。

 その身長は小柄なジョシュアネスの肩程までしかなく、黒や赤を基調としたゴシック調の衣服も相まって、さながらお人形さんのようです。

「ああ……リリファーリエもこっちに来たのか」

「ランドリムス様からの撤収命令を伝えにね。流石に、ちょっと派手にやりすぎたみたいね」

 リリファーリエと呼ばれた少女はため息混じりに言って、未だに炎を上げ続けている麓の村に視線を送ります。

「いや、たかが村の自警団だと侮ってたら、結構つえー奴がいてよ。つい、夢中になっちまった」

「相変わらずアホねぇ……ほら、飛行艇は向こうに止めてあるから、さっさと逃げるわよ」

「おうよ!」

「撤収はいいけどさ……これだけやって月の巫女を取り逃がしちゃったし、本国に戻ったら僕達は懲罰室確実だね」

「自業自得でしょ。ほら、さっさと歩きなさい!」

 小さい少女に尻を蹴られながら、ガルドスたちは道を外れ、闇の中へと消えていきました。

 それからしばらくすると、大きなプロペラ音が鳴り響き、闇夜に溶け込むような迷彩を施された巨大な鉄の塊が夜空へと飛び去っていきました。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 ……自然と目が覚めた。視線の先には、見慣れない天井。いつもの自分の部屋じゃなかった。

 妙に白いシーツと清潔感溢れるベッド。少し遅れて、ここが宿屋なんだと気づいた。

 首だけ横に向けると、そこには別のベッドがあって、ルナが寝息を立てていた。

 反対側を向くと、小さな窓が目に入った。そこから風が静かに入り込み、備え付けられたカーテンをひらひらと弄んでいる。

 ……そうか。村が襲われたんだった。

 そんなカーテンをぼうっと眺めていたら、昨日の出来事が段々と脳裏に蘇ってきた。赤く染まった村、ゼロさんと逃げた山道、ネクロマンサーとの戦い……。

「……くそっ」

 次々と頭に浮かぶ光景を追い出そうと、俺はベッドから跳ねるように起き上がる。

「……ウォルスくん?」

 その音で目が覚めてしまったのか、隣のベッドで寝ていたルナが俺の方を向いていた。

「あー……悪い、起こしたか」

「ううん、あまり眠れてないから……」

 心なしか赤くなった目を擦りながら、モソモソとベッドから起きてくる。

「……髪の毛、ボサボサだぞ」

「……ウォルスくんだって、へんな寝癖ついてるよ」

 いつもの調子でやり取りしようとするけど、お互いに疲労の色が濃いのがわかる。

「あはは……」

 結局二人で力なく笑い、しばらくぼうっと見つめ合うしかなかった。昨日の出来事がまるで夢だったような、いや、夢であって欲しいような、モヤモヤとした感覚が俺の中を支配していた。

「……お目覚めですか?」

 ……その時、遠慮がちな声がした。二人して視線を泳がせていると、部屋の扉が少しだけ開けられ、初老の女性の顔を覗かせてきた。

「何度かノックをしたのですけど……お返事がなかったもので。入ってもよろしいですか?」

「ああ……どうぞ」

 できるだけ平静を装いながら入室を促す。その格好からして、この宿屋の主人らしい。少し白髪の混じった髪を後ろで結い、落ち着いた雰囲気の人だ。

「お二人とも、丸一日以上眠っていらっしゃいましたよ。かける言葉も見つかりませんが、大変でしたねぇ」

 そう言いながら、俺達の前に野菜スープとパンを差し出してくれた。惰性でそれを受け取ったけど、正直、あまり食欲はなかった。

「あの、ゼロさん……一緒に商人さんがいたはずなんですけど」

 ルナも俺と同じ心境なんだろう。渡された食事には手をつけず、そう尋ねていた。

「ええ、一緒に来られた男性の方はお二人が休まれてすぐに出ていかれました。どうも、急用ができたとかで」

「そう、ですか……」

 返答を聞いたルナは寂しそうに手元のスープに視線を落とす。

「お二人が目を覚ましたと知れば、あの方もまたやってくるかもしれません。今は少しでも食事を召し上がって、元気を出してください」

「はい……」

 笑顔で会釈して、宿屋の主人は下がっていった。それを見送った後、俺とルナは食事を口に運ぶ。

 野菜スープも具だくさんで、ソーセージまで入っていたけど、まるで水を飲んでいるようで味がしなかった。

 ルナもパンをかじりながら、何とも言えない顔をしていた。柔らかそうだし、きっとこんな状況じゃなけりゃ美味しいんだろうけど。

 それでも、丸一日以上何も食べていないのは事実だし。少しでも食べておかないと。



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