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第二十三話『続・謎の少年』

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「なっ!?」

 俺はとっさにルナを庇いながら横へ飛ぶ。直後、無数の冷気が俺の方を掠めていった。あいつ、氷の魔法が使えるのか。

「ルナ、大丈夫か」

「わ、わたしは平気……ウォルスくんこそ、肩……大丈夫?」

「え、肩?」

 言われて見てみると、左肩の服が切れて、そこから覗く皮膚が凍傷のようになっていた。掠っただけなのに、なんて切れ味だ。

「今の攻撃、ルナに当たったらどうするつもりだったんだ」

「当たらないよ。それくらいの制御はできる」

 思わず肩を押さえながら睨みつけると、これまためんどくさそうに言葉を返してくる。ゼロさんはともかく、俺のことはほとんど眼中にないみたいだ。

「……ウォルスくん、動いちゃ駄目だよ」

 その時、俺の背中にほとんど張り付くようにして、ルナが癒しの魔法を発動させる。

 瞬時に温かい光が俺の肩に収束し、その傷を癒す。その時、ちらりと見えたペンダントが僅かに光を放った気がした。

「……ありがとな」

 俺は視線を奴の方に戻しながら、ルナにお礼を言う。さすがに破れた服は元に戻らないけど、傷口は綺麗に塞がった。

「なるほどね。癒しの力。それが月の巫女の力かい」

 その様子を見ていた奴は、確信を持った表情をしていた。

「これはますます捕まえなきゃいけないね。遊びは終わりだよ」

 そして、次々と死霊を呼び出す。その数は10体をゆうに超えていた。

「……すげぇ数だな。こりゃあ骨が折れる」

「それだけじゃないよ。そら、そら!」

 大量の死霊に圧倒される俺たちに向けて、奴は氷の槍も打ち放ってきた。俺とゼロさんは左右に展開してその攻撃を避けるけど、間髪を容れずに死霊の攻撃が続く。辛うじて火球で迎撃するけど、攻撃の密度が違いすぎる。

「ウォルス、さすがにこれは埒が明かねぇな」

 氷の槍を回避しつつ、何体かの死霊を蹴り倒したゼロさんが俺の元まで後退してきて、どこか楽しそうにそう言う。

「……どこまでも余裕がある顔をしてるね。むかつくよ」

「おう。現に余裕だからな」

 ゼロさんに倒された分の死霊を補充しながら、奴は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。かなり手数をかけて攻めているのに、ゼロさんに全くダメージを与えられていないことに苛立っているみたいだ。

「さて……追っ手も気になる頃だし、そろそろ突破するか」

「そうは言っても……どうするの?」

 楽観的な口調で言うゼロさんに、ルナが不安そうに問う。

「奴を振り切る手が一つだけあるんだが……お前ら、なんとかしてあの洞窟に滑り込めるか?」

 ゼロさんが目配せする先は、奴の背後にある洞窟だった。あそこを抜ければすぐに旧山道の出口らしいけど……。

「……わかった。やってみるよ」

「よし。雑魚は俺ができるだけ数を減らす。後に続け」

 ゼロさんはそう言うと、一度だけ拳を撃ち合わせた。

 ……直後、紅い魔力が走った。ゼロさんはまるで稲妻のように無数の死霊たちを薙ぎ払い、一瞬で洞窟の中へと流れ込む。魔闘術。すごい技だ。

「……な、なんて滅茶苦茶な奴だ……」

 さすがの奴も驚いたようで、呆気にとられて洞窟の方を見ていた。このタイミングで、俺も動く。

「……ルナ、一緒に向こうまで走るぞ!」

「う、うん!」

 二人一緒に、ゼロさんが作ってくれた道を通って洞窟へと向かう。

「……ちっ」

 それに気づいた奴は俺達の前に立ちはだかるように動き、再び氷の槍を放つ。

「うおおおおおっ!」

 俺は両手を前に出して、全力で魔力を放出する。イメージするのは、巨大な炎の盾だ。

「……よし!」

 氷の槍が届く直前にそれは具現化し、向かい来る氷を蒸発させる。強度も問題ない。うまくいった。

「炎の槍の次は炎の盾かい? ほんと、変わった魔法だね!」

 自分の魔法が通じないのを見て、次に奴は死霊をけしかける。その死霊も炎の盾に触れると同時に弾けるように消滅していく。

「この……やろっ!」

 十分に距離を詰めた時、勢いに任せて、奴の横顔をその盾で思いっきり殴った。盾で殴るとか妙な感じだけど、四の五の言っていられない。

「がはっ……」

 特に障壁のようなものもなくて、綺麗に吹っ飛んだ。奴は近くの岩肌に叩きつけられた後、大の字になってひっくり返る。

 とりあえず全力で殴ったけど、あれで倒せたとは思えない。すぐに起き上がってくるかも。

「ひゅー。やるじゃねぇか」

 そんな奴を横目に見ながら洞窟中に飛び込むと、そこには既に右手に魔力を溜めたゼロさんが待ってくれていた。

「そんじゃ、これで仕上げだな!お前ら、下がってろ!」

 俺達が洞窟へ入るのを見届けると、ゼロさんはその拳で洞窟の壁を叩く。

 すると強い揺れが起きて、洞窟の天井が崩れ落ちた。ルナを庇いながら思わず身を屈めるけど、その揺れが収まった頃には、入口はすっかり塞がってしまっていた。

「よーし。ここまでやりゃ、もう追ってこれねーだろ」

 いくつもの大きな岩でふさがれた入口を見ながら、ゼロさんは満足そうに腕組みをしていた。

「さて、ここまで来れば王都まであと少しだ。お前ら、気合い入れて走るぞ!」

 そしてこちらを向き直ったゼロさんに急かされながら、俺達は洞窟の反対側へと向かって走り出したのだった。



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