イラスト部(仮)の雨宮さんはペンが持てない!~スキンシップ多めの美少女幽霊と部活を立ち上げる話~

川上とむ

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第44話 もう一度、力を合わせて 前編

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 皆で話し合った結果、新しいポスターは制服姿の男女が手を繋いで文化祭を楽しんでいるデザインに決まった。
 それは当初、部長が提案してくれたものだった。

「今回の背景は校門のところになるんだけど、翔也しょうや、また下書きを頼めるかな」
「ラフから察するに、校門の手前だな。よし、ちょっと待っててくれ」

 そう言うが早いか、翔也は部室を出ていく。やがて戻ってきた彼は、俺たちにスマホを見せてくる。

「この場所でいいか?」

 そこには文化祭の準備が進みつつある校門の写真があった。入場ゲートも完成していて、雰囲気はバッチリだ。

「うん。これでいいと思う」
「よっしゃ、それじゃ描きますかね」

 翔也はスマホをポケットにしまうと、鉛筆を手にポスター台紙へ向かう。
 あの写真はあくまで俺たちに見せるためのもので、風景そのものは彼の頭の中に記憶されているのだろう。さすが瞬間記憶能力の持ち主だった。

 そんな翔也に背景の下書きを任せている間、俺は中央に配置する男女のデザインを考える。
 いくつかの構図を考えていくも、一抹の不安が頭をよぎる。

 イラスト同好会に所属するメンバーは総じて人物イラストが苦手で、俺もそこまで得意じゃない。
 その短所を補うため、以前のポスターでは朝倉先輩が極力人物を描写しない構図を考えてくれていたが、今回は手を繋いだ男女をポスターの中央に描く必要がある。
 ラフの段階なら多少誤魔化せるけど、これを清書した場合、納得いくものが描けるだろうか。

「……まもるくん、そろそろ休憩したら?」
「え?」

 そんな不安と戦いながら一心不乱にラフを描き続けていると、部長からそう声をかけられた。
 思わず顔を上げると、部室には俺と部長の姿しかなかった。

「あれ、皆は?」
「お昼買ってくるって言ってたよ。護くん、集中してて聞いてなかったでしょ」
「あー、もうそんな時間ですか」

 すっかり固まってしまった背中を伸ばしながら、俺は立ち上がる。
 壁の時計は正午を少し過ぎている。ラフを描き始めてから、いつしか二時間近くが経過していた。
 床に置かれたポスターに視線を落とすと、下書きの三分の一ほどが終わっている。
 翔也は何も見ずに描けるのだが、その分描写が非常に細かい。完成まではもうしばらくかかりそうだ。

「お、一区切りついたか?」

 しげしげとポスターを眺めていると、翔也たちが部室に戻ってきた。その手には購買の袋がある。

「内川君もお昼にしようー? はいこれ」

 汐見しおみさんは笑顔で言って、カツサンドと紅茶を俺に手渡してくれた。

「あ、わざわざ買ってきてくれたんだ。ありがとう。いくらかな?」
「お金なんていいよ。それ、翔也のおごりだから」

 俺が財布を取り出そうとすると、汐見さんは翔也を見ながらそう口にする。

「なんでお前が誇らしげなんだよ……まあ、今日の俺は気分がいいからな。気にせず食ってくれ」
「ふふ、購買が文化祭応援セールをやっていてね。全品半額だったのよ」

 その流れで翔也にお礼を言おうとしたところ、朝倉あさくら先輩が含み笑いを浮かべながらそう教えてくれた。
 なんにしてもありがたいし、ここは彼の好意に甘えよう。
 ……食事を済ませると、翔也はすぐに作業を再開する。
 特に手伝えることもできないので、俺たちは絵筆や絵の具などの画材を準備しておく。

「内川君、今回はアクリル絵の具を使うのはどうかしら」
「あー……もしかして、濡れても大丈夫なようにですか?」
「……そうね。正直、そういった面もあるわ」

 朝倉先輩に尋ねると、そんな言葉が返ってきた。
 例の墨汁事件があったばかりだし、耐水性のあるアクリル絵の具を使いたくなる気持ちもわかる。

「アクリル絵の具はメリハリのある絵が描けるけど……今回のイメージとはちょっとかけ離れちゃうかな。もっとこう、ぼわっ、ふわっとした感じが出したい。できれば水彩絵の具がいいかも」

 そんな折、俺たちと行動をともにする雨宮部長が身振り手振りを交えながら言う。今のポスター原案を考えたのも彼女だし、その意見はできるだけ尊重したい。

「朝倉先輩の気持ちはわかりますけど、ここは水彩絵の具にしましょう。こっちのほうがイメージに合うんです」

 俺はそう言って、棚から水彩絵の具を引っ張り出した。

「それだと速乾性がないけど、大丈夫?」
「……夏に借りたままの扇風機がありますし、それでなんとかします」

 雨宮部長が指差す先にある扇風機を見ながら、俺は力強くそう口にしたのだった。
 ……その後、完全下校時間ギリギリになって、背景の下書きが完了する。
 人物の下書きはできなかったけど、ラフは描き溜めてあるし、明日は背景の着色作業を優先しよう。

「私が絵筆を持てれば、夜の間に完成させてやるのに……!」

 部長は心底悔しそうに言って、机の上の絵筆に手を伸ばす。見事に通り抜けてしまっていた。
 がっくりとうなだれる彼女を横目に見ながら、俺は今日の作業の終了を宣言。その日は解散となったのだった。

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