追放薬師は人見知り!?

川上とむ

文字の大きさ
上 下
50 / 59
第三部 夏の思い出を作りに行きます!?

第12話『薬師、外出に付き添う』

しおりを挟む

 それから数日間、雨は降らないものの、ずっと曇りの日々が続いていた。

 今の時期にこんな天気は珍しいとエドヴィンさんは言うも、わたしは調合室の薬材やくざいたちが湿気で傷んでしまわないか、気が気でなかった。

 その日も朝からずっと曇り空で、窓から入ってくる風も生暖かく、なんとも気持ち悪い。

「エリン先生、私、イアン様とお出かけすることになったんですが、先生もついてきてもらえませんか?」

 お屋敷の調合室で薬棚とにらめっこしていると、突然やってきたスフィアがそう言った。

「え、わたしですか?」

「はい。できたら、エリン先生にお願いしたいなぁと」

 その後のスフィアの話によると、イアン様がわたしの同行を希望したらしい。

 曇っているので晴天時ほどの暑さはないものの、今日も気温が高めなのは間違いない。

 体の弱いイアン様に何かあった時、対処できるのはわたしだけ……という意味なのだろう。

 信頼してくれるのは嬉しい。嬉しいけど……。

「スフィア、今日、表の人出はどんな感じでしたか?」

「え? 窓の外から見た限り、それなりの人がいましたけど」

「そ、そうですか……」

 スフィアの言葉を聞いて、わたしは頭を抱える。人、多いのかぁ。

 それに、スフィアたちと外出するということは、必然的に年長者はわたしになる。そうなると、先陣を切って店員さんに話しかけたり、二人をリードする必要があるわけで。

 緊急時の対応はともかく、そっちは本当に自信がない。人見知りの性格もあるし。

「もしかしてエリン先生、一緒に来てくれないんですか……?」

 すると、スフィアがその大きな瞳をうるませていた。

 よくよく考えてみれば、わたしが同行するからこそ、エドヴィンさんはイアン様の外出を認めた可能性もある。もしわたしが拒否すれば、この外出そのものがなかったことになるかもしれない。

 ……あれ? それって、色々と詰んでいるような。わたし、参加するしか選択肢ないよね?

「マ、マイラさんも、一緒にお願いします……」

 その事実に気づいた時、わたしはそう声を絞り出したのだった。

 ◇

 昼食を済ませたわたしたちは、四人で街へと繰り出す。

「ムシムシして嫌な気分になってたところだよー。エリンさん、誘ってくれてありがとー!」

 くもり空の下に太陽が降りてきたような笑顔を見せながら、マイラさんはわたしたちの先頭を行く。思惑通り、彼女が先導してくれそうだった。

「へー、レシャプの実を使ったドリンクだって! 買ってくるから、皆で飲もうよ!」

 そして中央通りに差し掛かるやいなや、マイラさんはそう言って屋台へと向かう。

「あ、その飲み物は体を冷やすので、半分ずつに分けましょう。マイラさん、買うのは二人前にしてください」

 慌ててその背中に伝えると、彼女は了解とばかりに右手を振り返してくれた。

 やがて戻ってきたマイラさんから飲み物と人数分のコップを受け取り、それぞれ同量ずつ分ける。

 ……正直にいうと、体を冷やすので注意が必要なのはイアン様だけだ。でも、一人だけ量が少ないというのもかわいそうなので、皆で同じ量を飲むことにしたのだ。

「はー、冷たくておいしいですー」

「うん、おいしい。姉さんにも飲ませてあげたいな」

 おそろいのコップを持って、スフィアとイアン様はそんな会話をしていた。確かオリヴィア様は今日、用事があると言っていたような。

「お、そこのお嬢さんたち、うちの名物料理を食べていかないか?」

 そんなことを考えながら中央通りを歩いていると、ふいに声をかけられた。

 見ると、一人の男性が屋台で何かを売っていた。一番にマイラさんが反応し、屋台へと近づいていく。

「おじさん、何売ってるのー?」

「ポルティア名物・魚のマリネだ。この街に来たら、これを食わなきゃ話にならねぇ」

 そう言って彼が見せてきたのは、器に入った魚料理だった。色とりどりの野菜も一緒に添えられていて、見た目も鮮やかだ。

 かかっているソースなのか、どこか酸っぱいような香りもする。

「おいしそうだけど……ごめんねぇ、あたしたち、さっきお昼ご飯食べてきちゃったんだー」

「まぁそう言わずに。四人で分けりゃ、大した量にはならない。野菜をおまけしてやってもいいぜ?」

「うーん……おじさん、ごめん! やっぱりお腹いっぱいのまま食べちゃ、せっかくの料理がかわいそうだよ。少し散歩して、お腹減らしてからまた来るね!」

 マイラさんは胸の前で手を合わせると、そのままあたしたちを連れ立って歩き出した。

「あ、あの、本当にあとで買いに来るんですか?」

 屋台からある程度離れたところで、わたしはそう尋ねてみる。

「そんなわけないよー。ああ言っておけば無理に引き止められないでしょ?」

 手にした飲み物を口にしてから、彼女は言った。

 さすがマイラさんだ。もしわたしが声をかけられていたら、強引さに負けて料理を買っていたかもしれない。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

お妃様に魔力を奪われ城から追い出された魔法使いですが…愚か者達と縁が切れて幸せです。

coco
恋愛
妃に逆恨みされ、魔力を奪われ城から追い出された魔法使いの私。 でも…それによって愚か者達と縁が切れ、私は清々してます─!

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

【短編】追放した仲間が行方不明!?

mimiaizu
ファンタジー
Aランク冒険者パーティー『強欲の翼』。そこで支援術師として仲間たちを支援し続けていたアリクは、リーダーのウーバの悪意で追補された。だが、その追放は間違っていた。これをきっかけとしてウーバと『強欲の翼』は失敗が続き、落ちぶれていくのであった。 ※「行方不明」の「追放系」を思いついて投稿しました。短編で終わらせるつもりなのでよろしくお願いします。

もう、終わった話ですし

志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。 その知らせを聞いても、私には関係の無い事。 だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥ ‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの 少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません 

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。 まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。 だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥ たまにやりたくなる短編。 ちょっと連載作品 「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。

下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。 豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

処理中です...