追放薬師は人見知り!?

川上とむ

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第三部 夏の思い出を作りに行きます!?

第4話『薬師、海辺の街へ赴く』

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 それからはとんとん拍子に事が進み、ついに出発の日を迎えた。

「ノーハット伯爵様、このたびはお心遣い、痛み入ります」

「そうかしこまらないでくれ。私が好きでやったことだ」

 早朝にミラベルさんを含めた全員でノーハット家に向かい、伯爵様にご挨拶する。

 この方は数日前からポルティアに滞在していたはずだけど、どういうわけか一度戻ってきたらしい。

「こちらとしても、工房を手薄にさせてしまってすまぬな。屋敷に係の者を残しているので、必要とあれば何なりと申し付けてくれ」

「ありがたきお言葉でございます」

 そう言って深々と頭を下げるミラベルさんに倣って、わたしたちもお辞儀をする。

 そうこうしていると、二台の馬車がやってきた。

 ひとつはエドヴィンさんが手綱を引く四人乗りの立派な馬車。もうひとつは幌馬車だった。

 海辺の街には10日以上滞在するということで、その荷物もかなりの量だ。普通の馬車では運べないので、こうして幌馬車を出したらしい。

「レリックよ、よろしく頼んだぞ」

「おまかせください!」

 伯爵様に声をかけられ、幌馬車の上で一礼するのは、商人のレリックさんだった。

 彼はうちの工房にも薬材やくざいを卸してくれているのだけど、伯爵様とも繋がりがあったのかな。

「それでは出発するとしよう。では、あちらの幌馬車に……」

 意外な人物の登場にわたしが驚く中、伯爵様は変わらぬ調子で人員を割り振っていく。

 元商人……ということも関係しているのか、仕切るのが好きなようだった。


 やがて、わたしたちを乗せた馬車はノーハット家の門前を出発した。

 所狭しと荷物が積まれた幌馬車に、スフィアとクロエさん、マイラさんが乗り込んでいる。

 一方、エドヴィンさんが操舵する馬車には、伯爵様をはじめとしたノーハット家の皆様と、なぜかわたしが乗せられていた。

 ……ど、どどど、どうしてこんなことに。

 まさかの伯爵様ご一家との相席に、出発直後からわたしの緊張はピークに達していた。

 揺れる馬車に身を任せているだけだというのに、三人がまとうオーラがわたしと違いすぎる。まさに上流階級。胃が痛い。

「さて、薬師やくし殿、そなたとは少しばかり話をしたい」

「は、はひ……」

 胃腸薬、調合しておけばよかった……なんて考えていると、伯爵様が膝の上で両手を組みながらそう口にする。

「そう固くならないで。お父様、エリン様とお話したいがために戻ってこられたんです」

「そ、そうだったんですか。それは、ご足労をおかけしまして……」

 緊張をほぐすようにオリヴィア様が言うも、わたしは視線をさまよわせる。

 わたしなんかのために、伯爵様がわざわざ? ますます意味がわからない。

「唐突な質問になるが、薬師殿のお父上はセドオアと申すのではないか?」

「えっ……」

 続いて伯爵様の口から出た名前に、わたしは目を見開く。

 それは久しぶりに聞いた、父の名だった。

「そ、そうです。セドオア・ハーランドです」

「やはりか。薬師殿の家名を聞いた時、そうではないかと思っていたのだ」

「は、伯爵様は、父をご存知なんですか?」

「知っているも何も、彼とは親友だった。そして、良き仕事仲間でもあった」

 わたしの言葉で確信を持ったのか、伯爵様はどこか嬉しそうな表情を見せる。

 父は若い頃から薬師工房を持っていたし、元商人だという伯爵様とも、古くから交流があったのかもしれない。

「しかしそうか。そなたがあのセドオアの一人娘だったとは。国一番の薬師と呼ばれた彼の血、しっかりと受け継いでいるようだな」

「も、もしかして、気づいておられたんですか」

「ハーランドという家名は珍しいが、正直確証はなかった。娘が生まれたという話は聞いていたものの、私は一度も会ったことがないからな」

 続けてそう言い、彼は優しげな眼差しを向けてきた。

 そこまでの話を聞いて、わたしは腑に落ちる。

 いくらオリヴィア様やイアン様の病気を治したとはいえ、工房設備の修繕や屋敷への出入りの許可、そして今回の別荘への招待など、これまでの伯爵様からの待遇は度を越していた。

 ……わたしは伯爵様にとって、かつての親友の娘。

 彼が親しくしてくれる理由は、そこにあったのだ。
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