銀狼の花嫁~動物の言葉がわかる獣医ですが、追放先の森で銀狼さんを介抱したら森の聖女と呼ばれるようになりました~

川上とむ

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第19話『森の危機です!?』その①

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「ゴ、ゴローさん、その傷はどうしたのですか!?」
「オ、オイラにもよくわかんないんですわ。森の中で栗を集めていたら、突然人間から黒っぽい筒を向けられて……気がついたら、肩から血が」

 膝をつきながら、ゴローさんが教えてくれる。
 その話から察するに、彼は銃で撃たれたらしい。この傷でよく、ここまで逃げ帰ってきたものだ。

「わ、私は家に医療器具を取りに戻ります。銀狼さんとティアナは、小川で水を汲んできてください!」

 呆気にとられている二人にそう指示を出すと、私は家に向かって駆け出した。



 それから道具を手に花畑へと戻ると、すぐさま治療を開始する。
 幸いなことに、銃弾はゴローさんの肩を貫通しているようで、銃弾摘出の必要はなかった。
 けれど、酷い怪我であることに変わりはない。速やかに止血処理を行い、包帯を巻く。

「ゴローさんや、大丈夫かい?」
「いったい何があったんだ?」

 一連の処置が終わる頃になると、噂を聞きつけたのか、森の動物たちが集まってくる。

「コルネリアよ。ゴローはまさか、以前の我と同じ武器で攻撃されたのではないか?」

 騒ぎが大きくなっていくのを見て、銀狼さんが険しい表情で私に尋ねる。

「考えたくはないですが……おそらく、そうでしょう」
「武器……ってことは、あの村の連中ですかい?」

 多少痛みが引いたのか、ゴローさんが体を起こして村のある方角を見る。

「い、いえいえ。猟期は終わっていますし、そもそも、手入れや銃弾の確保が大変な銃を使う人は村にはいません。もっぱら、弓矢です」

 あらぬ誤解を与えそうだったので、私は慌ててそう説明する。彼らは納得してくれた。

「コルお母さん、じゅう……って何?」

 その時、ティアナが私の服を引っ張りながら聞いてきた。

「銃というのは、火薬の力で弾を飛ばして攻撃する武器です。私も本でしか見たことがないのですが、このように構えて使うもののようです」

 そう口にしながら、私はその辺に落ちていた木の枝を持ち上げ、それっぽく構えて見せる。

「ああっ、それですわ! オイラを狙っていたのは!」

 そんな私の恰好を見たゴローさんが、驚きの声を上げた。
 加えて発射時に大きな音がすることを伝えると、ますます納得していた。やはり、彼を攻撃した武器は銃で間違いなさそうだった。

「しかし、あの村の者でないとすると、誰がゴローを襲ったのだ?」
「おそらく、密猟者でしょう」

 この森は周囲を山に囲まれているが、外から人がやって来ないことはない。
 現に銀狼さんは一度襲われているし、銀狼の森……なんて呼ばれているものだから、腕試しにやってくる密猟者がいるかもしれない。

「じゃあ、俺たちもいつゴローのように攻撃されるかわかんないってことか?」
「そ、そんなの嫌だよ。せっかく猟期を耐え凌いだってのにさ」

 集まっていた動物たちが口々に言い、周囲に不安が広がっていく。

「お前たち、落ち着け」

 その時、本来の姿に戻った銀狼さんが、よく通る声で言った。
 するとそれまでの騒ぎが嘘のように、その場が静まり返る。

「その密猟者どもは、我がなんとかする。お前たちは安全が確保できるまで、再び森の中に隠れるがいい」

 有無を言わさぬ、凛とした声で彼は続けた。
 その迫力に気圧されたのか、動物たちはそれぞれ顔を見合わせたあと、森の中へと戻っていった。

「……それで、銀狼さんは本当にその密猟者たちを探しに行くのですか?」

 やがて誰もいなくなった頃を見計らって、私はそう尋ねる。

「当然だ。ここは我の森。村の者ならともかく、よそ者に好き放題させてなるものか」

 すると彼は、普段とは全く違った目つきでそう言い放った。
 住処である森を荒らされ、怒っているようだ。

「銀狼さん、お気持ちはわかりますが、銃は危険です」
「我は一度その武器を見ている。弾は早いが、一直線にしか飛んで来なかった。次は当たらぬ」
「確かに、銀狼さんの動きなら銃弾を避けることも可能かもしれませんが……密猟者は一人とは限りません。むしろ、複数人いると考えるべきです」
「それならば、全員倒すまでだ」

 彼が苛立ちを隠さずにそう口にした時、森のどこからか銃声が聞こえた。

「やはり、この音がそうなのだな。お前たちは小屋に隠れているといい。あそこは我の力で守られていて、安全だ」

 そう言い残すと、銀狼さんは目にも留まらぬ速さで森の中へ消えていった。
 私とティアナは、そんな彼の背をただ見つめることしかできなかった。

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