上 下
11 / 22

第11話『テーブルマナーは大事です!』前編

しおりを挟む
 部屋に荷物を置いたあと、食事のために大通りへ向かう。
 昼食には少し早い時間だったが、朝食を抜いていたので何かお腹に入れておきたかった。
 なにより、亭主さんからあんな話をされた後だ。二人っきりで部屋にいるなんて耐えられなかった。

「えらく賑やかだが、なんの騒ぎだ?」

 食事ができるお店を探していると、隣を歩いていた銀狼さんが足を止める。
 私も一緒になって立ち止まると、何やら軽快な音楽が耳に飛び込んできた。
 音のするほうを見ると、どうやら大道芸人が来ているようだった。大勢の見物人を前に曲芸を披露していて、時折歓声が巻き起こっている。

「コルネリア、彼らはなぜ手を繋いでいるのだ」

 その大道芸をなんとなく見ていると、銀狼さんがそう聞いてくる。
 彼の視線を追うと、それは大道芸人たちではなく、その見物をしている一組の家族に向けられていた。

「彼らは家族だからですね。その隣にいるのは恋人たちでしょうか。皆、手を繋ぐことで安心でき、つながりを感じていたいのだと思います」
「そうか。なら、我らも手を繋いでみるか」
「はい!?」

 突拍子もない発言に、思わず大きな声が出てしまった。周囲の賑やかな音楽によってかき消されたのが、不幸中の幸いだ。

「コルネリアが嫌だと言うなら、しないが?」
「わ、わかりました。い、いいですよ」

 明らかに動揺しながら、私は差し出された手を取る。
 人前で男性と手を繋ぐのは初めてで、手が震えているのが自分でもわかった。

「だ、大道芸もいいですが、今は食事です。お店を探しましょう」

 その直後、私は猛烈に恥ずかしくなり、銀狼さんの手を引いたまま足早にその場を離れた。

  ◇

 しばらく大通りを歩いていると、飲食店が並ぶ一角にやってきた。

「コルネリア、どの店に入るのだ?」
「銀狼さん、お肉が食べたいと言っていましたよね。でしたらあのお店にしましょう」

 いくつものお店が並ぶ中から、私は肉料理のお店を選び、その扉に手をかけた。

「いらっしゃいませ。お好きなお席へどうぞ」

 店内に足を踏み入れると、すぐに店員さんがやってきてくれる。
 私は少し悩んでから、窓際の一番奥の席を選ぶ。

「ご注文がお決まりになりましたら、お呼びください」

 お水とメニューをテーブルに置くと、店員さんは静かに離れていった。
 開店した直後のようで、店内には私たち以外にお客さんはいない。

「この店はどのような料理があるのだ?」

 対面に座る銀狼さんはメニューを片手に首をかしげています。やはり読めないようだ。

「私が読みますね。えーっと、子羊のラムシャンクブレゼ……?」

 ……私が見たところで、どんな料理なのかよくわからなかった。
 もしかして、とても高級なお店に入ってしまったのかもしれない。

「ご注文はお決まりでしょうか」

 困惑しながらメニューとにらめっこしていると、絶妙なタイミングで店員さんが現れた。

「え、あの、えーっと……」

 私は妙に緊張しながら、メニューに視線を走らせる。
 ……そして見つけました。『シェフのおまかせランチ』の文字を。

「この、シェフのおまかせランチを二つください」
「かしこまりました。お飲み物はいかがなさいますか」
「の、飲み物は結構です」
「ご注文承りました。少々お待ちください」

 注文を受けた店員さんは一礼し、優雅に去っていった。
 他にお客さんがいないので気づかなかったですが、やはり格式の高いお店なのでしょうか。
 私は所詮村娘ですし、場違いでなければいいのですが。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから

gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

処理中です...