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1 我々の優雅な一日

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 辺境の寂れた村の、さらに人里離れた森の奥。外壁につたまとわせ、来る者を拒むように佇む古めかしい館では、その館の主人と、その主人に仕えるメイドが、今日も今日とて優雅に茶の時間を楽しんでいる。

「……」

 他所よその貴族に雇われていたら即解雇クビだろうガチャガチャと音を立ててカップやポットの準備をしたメイドは、所作が多少ポンコツだろうが愛想が無かろうが片目を覆うように頭にぐるぐる包帯が巻かれていようが、メイドの装いをしているのでメイドなのである。

「ふむふむ、見事お茶の支度をやってのけるとは!さすが私の最高傑作!素晴らしいぞわーっはっはっはっはーーー……はぁ~あ」

 長い髪をもっさりとさせた、年寄りなのか若いのか分からないこの館の主人は、わざとらしいくらい明るく高らかな声をあげ、おのれの感情についていけずため息を吐いた。虚しくなるなら止めればいいのに。
 そんな主人をよそにメイドはティーカップにドバドバとお茶を注いだ。

 ご主人はもっさりとした見た目に似合わず、洗練された所作でお茶の香りを楽しみ、髪で隠されていない視認できるほぼ唯一の顔の部位である口にティーカップを運ぶ。
 口に含み舌の上でころがし風味を感じる間も無く音を立てて吹き出した。

「ゥゲホッ……苦いぃ。だがこの前よりはるかにマシだ。口にするまでちゃんとお茶だったぞ。前のは……いや言うまい。明日だけを向いて生きていくんだあっはっは。ただ自分で確かめるというのも成長の第一歩だ」

 これは成長を促すための教育であり、この苦しみを分かち合う為ではない、決して。涙目になっていたかはもっさり髪に隠れてついに確かめることは出来なかった。

 「なのでどうぞ」とメイドを席に着かせご主人自らお茶を注ぐ。
 メイド教育で躾けられたのではない、ただただ感情が抜け落ちただけの無表情で、注がれたお茶をぐいっと飲み干した。
 しかし哀しいかな、飲んだはずのお茶は身体に吸収される前に首から吹き出るのだった。

「ありゃ、縫製が甘かったか。手直ししないと。あぁ、服も濡れてしまったから着替えもしないとだね」

 部屋を移し、首から漏れ出たお茶で汚れたメイド服を脱がす。露わになった素肌は継ぎ当てされたかのように、ところ構わず縫ったような痕が無尽に走っている。
 だがおそらく生理的嫌悪感を催す要因は、あきらかに部位が引っ付いている異様さにあるだろう。

 ご主人は愛おしそうにその肌に触れながら、先ほど欠陥のあった首に魔法をかけていく。

 着替えさせベッドに寝かしつけたメイドに口づけを落とす。

「次に目覚めた時はきっともっと良くなっているよ。だから、それまでおやすみ。愛する人」
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