上 下
11 / 18

11

しおりを挟む
 夕方に差し掛かり、王都のアークライト別邸に到着。長旅で疲れたカミーユを寝かしつけ、作戦会議を始める。
 「今日はゆっくりしよう」と言ったマキシムの顔色があからさまに悪くなり挙動不審だったからだ。少しでも不安を取り除く必要がある。

 いくつかの書類を見せてもらったが、まさか国家転覆を目論む程の悪事に関わっていたとは、しかも内容を見るに、どうもマキシムが主導で動いてるように読めた。
 静かに剣の柄に手を添え旦那を見据える。

「ごめん!違うんだ!違わないけど……違うんです!話を聞いてください!」

 両手を前に出して腰が引けた体勢の旦那を見たら、途端に馬鹿馬鹿しくなって力が抜けてしまった。じゃあ話だけでもと思ったのだが、にわかには信じられない内容だった。

「気がついたらマキシムの体に乗り移っていたけど、僕は違う記憶を持つ、彼とは別の人間なんだ。それで、これから先のことも、どうなるのか知っていて……未来を変えていいのか分からないけど、変えたいと思ったから……物語の駒になるなんて、いざなってみたらとても受け入れられるものではなかったし」
「未来って?」
「この世界に魔王が復活して、まあ結局は勇者のレオン・アークライト王子が倒すんだけど。カミーユは魔王側についてしまって最後は……殺されてしまうんだ」

 あの書類と彼の話から、なんとなく分かってしまった。もしあのまま時が進んでいたら、間違いなくその未来が訪れるのだろう。そしておそらくその時には、

「私たちは既にこの世には居なくなっているわね」
「……多分だけど、ね」
「みんなで初めてピクニックに行った時、私のお気に入りの場所に走って行って、あなた達も後から来て、その時それまで靄がかかっていたものが急に晴れたのよ。初めてあの子を認識した気がするわ」

 それまでのことは、おそらく魔王か何かの力が働いていたのではないかしら。
 もちろん、だからといってあの子に寂しい思いをさせてしまったことに変わりはないのだけど。

「私自身の意思ではなかったのね」

 マキシムからハンカチを差し出され、ようやく自分が泣いているのだと気づいた。

「ん……?ミランダ、前はどういう風に見えてたって言った?」
「どういう……?なんだかぼやけて見えていたわね。その人が誰かは分かるのだけど」
「ドットで……えーと、なんか四角い点で表されてたりしてなかった?」
「そうね……そこまでは気がつかなかったけれど。今はちゃんとカミーユの顔も、あなたの顔もハッキリと見えるわ」

 彼の方に顔を向けた時、微笑みが自然と浮かんでいた。マキシムは微笑みどころじゃない程、顔中いっぱい歓びで埋め尽くしていた。

「やった……やったぞ!もうストーリーからは外れたんだ!未来は変わった!いや、変えてみせる!みんなで幸せになるんだ!!」

 勢いよく抱きついてきて少し驚いてしまったけど、私もマキシムの背中に手を回した。きっと彼にしか分からない暗号のようなものなのだろうけど、それでも喜びを分かち合いたかった。


 正気に戻った彼はすぐに離れていつもの照れ笑いを浮かべていて、それを見たら何故だかくすぐったい気持ちになってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ざまぁされるための努力とかしたくない

こうやさい
ファンタジー
 ある日あたしは自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生している事に気付いた。  けどなんか環境違いすぎるんだけど?  例のごとく深く考えないで下さい。ゲーム転生系で前世の記憶が戻った理由自体が強制力とかってあんまなくね? って思いつきから書いただけなので。けど知らないだけであるんだろうな。  作中で「身近な物で代用できますよってその身近がすでにないじゃん的な~」とありますが『俺の知識チートが始まらない』の方が書いたのは後です。これから連想して書きました。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。  恐らく後で消す私信。電話機は通販なのでまだ来てないけどAndroidのBlackBerry買いました、中古の。  中古でもノーパソ買えるだけの値段するやんと思っただろうけど、ノーパソの場合は妥協しての機種だけど、BlackBerryは使ってみたかった機種なので(後で「こんなの使えない」とぶん投げる可能性はあるにしろ)。それに電話機は壊れなくても後二年も経たないうちに強制的に買い換え決まってたので、最低限の覚悟はしてたわけで……もうちょっと壊れるのが遅かったらそれに手をつけてた可能性はあるけど。それにタブレットの調子も最近悪いのでガラケー買ってそっちも別に買い換える可能性を考えると、妥協ノーパソより有意義かなと。妥協して惰性で使い続けるの苦痛だからね。  ……ちなみにパソの調子ですが……なんか無意識に「もう嫌だ」とエンドレスでつぶやいてたらしいくらいの速度です。これだって10動くっていわれてるの買ってハードディスクとか取り替えてもらったりしたんだけどなぁ。

死を約束されたデスゲームの悪役令嬢に転生したので、登場人物を皆殺しにして生き残りを目指すことにした ~なのにヒロインがグイグイと迫ってきて~

アトハ
ファンタジー
 私(ティアナ)は、6人で互いに勝利条件の達成を目指して争う『デスゲーム』の悪役令嬢に転生してしまう。勝利条件は【自分以外の全プレイヤーの死亡】という、他の参加者とは決して相容れないものだった。 「生き残るためには、登場人物を皆殺しにするしかない」  私はそう決意する。幸いにしてここは、私が前世で遊んだゲームの世界だ。前世の知識を使って有利に立ち回れる上に、ゲームでラスボスとして君臨していたため、圧倒的な戦闘力を誇っている。  こうして決意を固めたものの―― 「ティアナちゃん! 助けてくれてありがとう」  ひょんな偶然から、私は殺されかけているヒロインを助けることになる。ヒロインは私のことをすっかり信じきってしまい、グイグイと距離を縮めようとする。 (せいぜい利用させてもらいましょう。こんな能天気な女、いつでも殺せるわ)  そんな判断のもと、私はヒロインと共に行動することに。共に過ごすうちに「登場人物を皆殺しにする」という決意と裏腹に、私はヒロインを大切に思う自らの気持ちに気が付いてしまう。  自らが生き残るためには、ヒロインも殺さねばならない。葛藤する私は、やがて1つの答えにたどり着く。 ※ ほかサイトにも投稿中です

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした

月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。 それから程なくして―――― お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。 「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」 にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。 「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」 そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・ 頭の中を、凄まじい情報が巡った。 これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね? ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。 だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。 ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。 ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」 そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。 フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ! うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって? そんなの知らん。 設定はふわっと。

今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。

柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。 詰んでる。 そう悟った主人公10歳。 主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど… 何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど… なろうにも掲載しております。

【完結】 元魔王な兄と勇者な妹 (多視点オムニバス短編)

津籠睦月
ファンタジー
<あらすじ> 世界を救った元勇者を父、元賢者を母として育った少年は、魔法のコントロールがド下手な「ちょっと残念な子」と見なされながらも、最愛の妹とともに平穏な日々を送っていた。 しかしある日、魔王の片腕を名乗るコウモリが現れ、真実を告げる。 勇者たちは魔王を倒してはおらず、禁断の魔法で赤ん坊に戻しただけなのだと。そして彼こそが、その魔王なのだと…。 <小説の仕様> ひとつのファンタジー世界を、1話ごとに、別々のキャラの視点で語る一人称オムニバスです(プロローグ(0.)のみ三人称)。 短編のため、大がかりな結末はありません。あるのは伏線回収のみ。 R15は、(直接表現や詳細な描写はありませんが)そういうシーンがあるため(←父母世代の話のみ)。 全体的に「ほのぼの(?)」ですが(ハードな展開はありません)、「誰の視点か」によりシリアス色が濃かったりコメディ色が濃かったり、雰囲気がだいぶ違います(父母世代は基本シリアス、子ども世代&猫はコメディ色強め)。 プロローグ含め全6話で完結です。 各話タイトルで誰の視点なのかを表しています。ラインナップは以下の通りです。 0.そして勇者は父になる(シリアス) 1.元魔王な兄(コメディ寄り) 2.元勇者な父(シリアス寄り) 3.元賢者な母(シリアス…?) 4.元魔王の片腕な飼い猫(コメディ寄り) 5.勇者な妹(兄への愛のみ)

悪役令嬢は処刑されました

菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。

処理中です...