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夕方に差し掛かり、王都のアークライト別邸に到着。長旅で疲れたカミーユを寝かしつけ、作戦会議を始める。
「今日はゆっくりしよう」と言ったマキシムの顔色があからさまに悪くなり挙動不審だったからだ。少しでも不安を取り除く必要がある。
いくつかの書類を見せてもらったが、まさか国家転覆を目論む程の悪事に関わっていたとは、しかも内容を見るに、どうもマキシムが主導で動いてるように読めた。
静かに剣の柄に手を添え旦那を見据える。
「ごめん!違うんだ!違わないけど……違うんです!話を聞いてください!」
両手を前に出して腰が引けた体勢の旦那を見たら、途端に馬鹿馬鹿しくなって力が抜けてしまった。じゃあ話だけでもと思ったのだが、にわかには信じられない内容だった。
「気がついたらマキシムの体に乗り移っていたけど、僕は違う記憶を持つ、彼とは別の人間なんだ。それで、これから先のことも、どうなるのか知っていて……未来を変えていいのか分からないけど、変えたいと思ったから……物語の駒になるなんて、いざなってみたらとても受け入れられるものではなかったし」
「未来って?」
「この世界に魔王が復活して、まあ結局は勇者のレオン・アークライト王子が倒すんだけど。カミーユは魔王側についてしまって最後は……殺されてしまうんだ」
あの書類と彼の話から、なんとなく分かってしまった。もしあのまま時が進んでいたら、間違いなくその未来が訪れるのだろう。そしておそらくその時には、
「私たちは既にこの世には居なくなっているわね」
「……多分だけど、ね」
「みんなで初めてピクニックに行った時、私のお気に入りの場所に走って行って、あなた達も後から来て、その時それまで靄がかかっていたものが急に晴れたのよ。初めてあの子を認識した気がするわ」
それまでのことは、おそらく魔王か何かの力が働いていたのではないかしら。
もちろん、だからといってあの子に寂しい思いをさせてしまったことに変わりはないのだけど。
「私自身の意思ではなかったのね」
マキシムからハンカチを差し出され、ようやく自分が泣いているのだと気づいた。
「ん……?ミランダ、前はどういう風に見えてたって言った?」
「どういう……?なんだかぼやけて見えていたわね。その人が誰かは分かるのだけど」
「ドットで……えーと、なんか四角い点で表されてたりしてなかった?」
「そうね……そこまでは気がつかなかったけれど。今はちゃんとカミーユの顔も、あなたの顔もハッキリと見えるわ」
彼の方に顔を向けた時、微笑みが自然と浮かんでいた。マキシムは微笑みどころじゃない程、顔中いっぱい歓びで埋め尽くしていた。
「やった……やったぞ!もうストーリーからは外れたんだ!未来は変わった!いや、変えてみせる!みんなで幸せになるんだ!!」
勢いよく抱きついてきて少し驚いてしまったけど、私もマキシムの背中に手を回した。きっと彼にしか分からない暗号のようなものなのだろうけど、それでも喜びを分かち合いたかった。
正気に戻った彼はすぐに離れていつもの照れ笑いを浮かべていて、それを見たら何故だかくすぐったい気持ちになってしまった。
「今日はゆっくりしよう」と言ったマキシムの顔色があからさまに悪くなり挙動不審だったからだ。少しでも不安を取り除く必要がある。
いくつかの書類を見せてもらったが、まさか国家転覆を目論む程の悪事に関わっていたとは、しかも内容を見るに、どうもマキシムが主導で動いてるように読めた。
静かに剣の柄に手を添え旦那を見据える。
「ごめん!違うんだ!違わないけど……違うんです!話を聞いてください!」
両手を前に出して腰が引けた体勢の旦那を見たら、途端に馬鹿馬鹿しくなって力が抜けてしまった。じゃあ話だけでもと思ったのだが、にわかには信じられない内容だった。
「気がついたらマキシムの体に乗り移っていたけど、僕は違う記憶を持つ、彼とは別の人間なんだ。それで、これから先のことも、どうなるのか知っていて……未来を変えていいのか分からないけど、変えたいと思ったから……物語の駒になるなんて、いざなってみたらとても受け入れられるものではなかったし」
「未来って?」
「この世界に魔王が復活して、まあ結局は勇者のレオン・アークライト王子が倒すんだけど。カミーユは魔王側についてしまって最後は……殺されてしまうんだ」
あの書類と彼の話から、なんとなく分かってしまった。もしあのまま時が進んでいたら、間違いなくその未来が訪れるのだろう。そしておそらくその時には、
「私たちは既にこの世には居なくなっているわね」
「……多分だけど、ね」
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それまでのことは、おそらく魔王か何かの力が働いていたのではないかしら。
もちろん、だからといってあの子に寂しい思いをさせてしまったことに変わりはないのだけど。
「私自身の意思ではなかったのね」
マキシムからハンカチを差し出され、ようやく自分が泣いているのだと気づいた。
「ん……?ミランダ、前はどういう風に見えてたって言った?」
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