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 てっきり馬車で移動するものだと思っていた私の目に映るのは二頭の馬を前にしゃいだ様子のマキシムとカミーユだった。
 何があってもいいように動きやすい服装にしたから良かったものの、乗馬なら乗馬で行くとはっきり言ってほしかったわ。

「あなたが自ら馬を駆るなんて珍しいですわね」

 他人を顎でこき使いたがるお前らしくないわね、とニコリとしながらチクリと刺す。

「まあ、たまには」

 へへへ、とヘラヘラして返したマキシムに白けた目を向ける。こいつは本当に貴族なのだろうか。

 そんな旦那は放っておいて馬に近づくと、二頭の馬も私の方に近寄ってきてくれた。

「ドゥームズデイにバッドニュース!まあ!元気だったかしら?」

 それぞれの頭を腕に抱え首筋を撫でる。歴戦の古兵ふるつわものを思わせる凛々しい面構えに懐かしさを覚える。
 あぁ、あぁ、何てこと。大事にしていた愛馬を今の今まで忘れていたなんて!
 それでも慕ってくれる愛馬たちに胸が締めつけられる。

 「ドゥームズデイにバッドニュースって、裏設定にしたってなんちゅうネーミングだよ」とまたもよく分からないことを呟くマキシムは、カミーユを乗せた鞍の後ろに跨った。
 私もあぶみに足を掛けバッドニュースに騎乗し、ポクポクと目的地へと歩み出した。
 何人もの使用人が目を剥いている。それもそうだろう、いくら乗馬を嗜むとはいえ、馬丁なり使用人に足台を用意させるのが貴婦人の常である。
 男ならともかく淑女にあるまじき行いであるのは間違いない。でも私は昔からこうだったのだ。こんな事すら意識の外に抜け落ちていただなんて。旦那ばかりパー扱いできない、かもしれない。
 馬の背から見える景色、感じる風に、初めて深く息ができたような気がした。

「とーさま、じょうず」

 カミーユの無邪気な声に視線を向ける。

「もしかしてこの間泥だらけになってたのって……?」
「こうしてみんなで出かけたかったんだよ」

 照れ臭そうに笑うマキシムに、信じられない目を向けたのはいったい何度目だろう。

「あら、でもあなた確か馬には乗れたはずよね?」
「いやー、そのはずだったんだけど、なんというか……そう!もう随分乗ってなかったからなぁ」

 しどろもどろになりながらあはは、と誤魔化すように笑うこいつはやはり、いやもしかしたら落馬でさらに状態が悪くなってしまったのかもしれないわ。

 なんとなく緩い空気が漂うなか、無事に目的地に着いたようだった。
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