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本編
特別編 僕らのゴリラ主任
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おはようございますー!
いや、こんにちはっすか……? こんばんはでもいいっすかね?
でも、あれですよね、一日の始まりに挨拶するのは「おはよう」ですし、おはようっすかね?
……いや、違うっすね。
それは芸能界だけだって主任が言ってたのを思い出したっす。
あ、そうだ! 名前、名前っすね!
僕は犬嶋犬太って言います。
趣味は筋トレと利きバナナ。
そして社会人6年目となる成長真っ直中の伸びしろしかない可能性に溢れた若手社員です。
ついこないだ、先輩の猪狩誠さんと婚約しました。
賛否両論あるかもですが、何でも口にして形にしていくスタイルです。
それがいいって、主任に褒められましたし! えへへ……そうじゃなくて――。
……あれ? 僕何を話そうとしてたんでしたっけ?
まあ、いっか! 忘れたことをいつまでも考えていても仕方ないっすからね。
今日は僕が、いや僕らが尊敬する主任の魅力をしっかりと伝えていこうと思います。
ぜひ、聞いていって下さいっす!
☆☆☆
9月のとある日。
まだまだ残暑が厳しい時期。
時刻【7時40分】
大手電機メーカー本社、1号棟の1階。
コーヒーとほのかにバナナの香りが漂う、工程管理課オフィス内。
今日も主任は僕の右隣にいる。
そのディスクの上にはバナナ先輩が描かれたマグカップとノートパソコン、メモの取れる電子パットがあり。
ここで時折バナナの椅子を揺らしたりしながらも、主任はテキパキと仕事をこなす。
そして、今は赤い骨伝導イヤホンを耳にかけてリモート会議をしている真っ最中だ。
リモート会議の相手は誠さん。
彼女は今日から3日間、取引先との打ち合わせの為、出張となっていた。
「ウホ、ウホウホ?」
主任は眼鏡の位置を直しながら、メモを取っていく。
《はい、ピックアップするデータについて工場に通達済みです》
「ウホ?」
《そうですね……工場の稼働状況にもよりますが、遅くても昼一には出るかと思います》
「……ウホウホ?」
《いえいえ、心配なさらないで下さい! ちゃんと仕事をこなしてこそのお付き合いだと思いますので」
「ウホ」
主任は僕と誠さんの仲が上手くいくように、こうしていつも気遣ってくれるのだ。
普段の会話や接し方では、僕と誠さんの仲が広まらないよう会社内ではいつも通り接してくれているのに。
けど、主任の言葉は何故かスッと入ってくる。
きっと、それは主任が相手のことを本当に考えて言葉にしているからだろう。
僕は頼りがいがあって嫌味のない主任が大好きだ。
「ウホ!」
「あ、はいっす! その資料ならこちらにあります」
「ウホウホ」
うん、やっぱりカッコいい。
黒く逞しい体に優しい笑顔。
僕も将来こんな上司になりたい。
憧れの存在だ。
僕は幼い頃から「素直」とか「真っ直ぐ」とか言われることが多かった。
長所と言える反面、同時にその性格にせいで嫌な思いをすることも多かった。
「考えてから行動しましょう」という言葉は通信簿の先生が書く欄に毎回書かれていた。
他にも「自己主張はいいけど、他人を尊重しましょう」なんて言葉も掛けられることが何度もあった。
けど、それをなんでダメでどこがいけないのか、言ってくれる人には、学生時代では出会うことができなかった。
でも、この会社に入社してから世界が変わった。
勢いだけで、がむしゃらに頑張っていた僕に尊敬するゴリラ主任がメンターとして付いたのだ。
主任は、僕が出会ってきた人達と根本的に違った。
部下がどうすれば、能力を発揮できるのかを真剣に考えていたのだ。
僕が仕事でヘマすれば、一緒に取引先へ赴き、頭を下げ。
一人、遅くまで残業していたら、出張帰りだと言うのにバナナ片手に工程管理課のオフィスに寄り、僕が仕事を終えるまで待っていた。
本当は良くないんだろうけど。
当時、まだ仕事を覚え切れていない僕にとって、どれほど心強かったか言うまでもない。
そんな主任を前にして、一度聞いたことがある。
地方の取引先に向かう道中、新幹線の自由席で。
「主任、どうしたら仕事を、他人を尊重することができますか?」と。
すると、主任は白い歯を見せて答えてくれた。
「自分らしく、元気良く笑顔でいることだ」と。
初めは何を言っているか、僕にはわからなかった。
これでは今までの僕と同じだからだ。
けど、主任と一緒に仕事をしたり、バナナを食べてながら評価面談をしている内に主任の真意がわかった。
それは僕の役割について。
僕の役割、主任が期待している、そして会社が期待していることは、この工程管理課の雰囲気をよくすることだった。
そう、初めから僕を採用してくれた時から、主任は僕の長所に目を向けてくれていたのだ。
だから、僕は主任のように、誰かの長所に目を向ける存在になっていきたい。
「ウホゥ?」
「い、いえ! 少し昔を思い出しただけっす」
「ウホ、ウホウホ!」
「ありがとうございます! 僕はまだまだこれからも頑張りますよー!」
「ウホー! ウホウホ?」
「あ、ご飯ですか? 行きましょう!」
「……ウホウホ」
「えっ!? 日替わりランチにバナナブリュレが出たんですか!?」
「ウホ!」
主任は口元に人差し指を当てる。
「すみませんっす! 声が大きかったですね」
僕が主任との話に夢中になっていると、ノートパソコンの向こう側で、羨ましそうな顔をしている誠さんが声を上げた。
《バナナブリュレ! わ、私も行きたいです!》
なんというか、僕にも負けないくらい真っ直ぐな彼女らしい。
画面に近づき過ぎて、頭部以外何も映っていないし。
よっぽどバナナブリュレが食べたいのか、骨伝導イヤホンから聞こえる声が音割れしているほどだ。
そんな彼女に主任は、優しい笑みを浮かべて応じた。
「ウホウホ!」
《本当ですか! 帰ってきたらぜひ行きましょう》
「ウホ、ウホウホ」
《は、はい。犬太も一緒がいいです》
主任の言葉を受けたら、急にしおらしくなった。
画面から離れ手を前で組み、顔を少し赤くしている。
「ウホウホ」
「僕も誠さんと一緒がいいっす!」
《……また、そういうのをサラッという》
「えーっと、僕何か言いましたっけ?」
僕が尋ねると彼女はムッとしたような表情を浮かべて、リモート会議画面から抜けた。
「主任……僕、何かしました?」
「ウホウホ!」
「そうっすよね! きっと体調が悪くなったとか、そういうのですよね」
「ウホ!」
「ですよね!」
こうやって些細なことでも答えてくれる主任。
いつか立派になって恩返しを。
☆☆☆
僕はこんな毎日を過ごしています。
というか、僕だけじゃなくて、この工程管理課に所属しているバナ友の皆、全員が同じように主任とのエピソードがあるはずっす!
どうっすかね?
主任の魅力が少しでも伝わればいいですけど。
ま、とにかく!
心からの尊敬と感謝を込めて。
ウホウホー! っす!
いや、こんにちはっすか……? こんばんはでもいいっすかね?
でも、あれですよね、一日の始まりに挨拶するのは「おはよう」ですし、おはようっすかね?
……いや、違うっすね。
それは芸能界だけだって主任が言ってたのを思い出したっす。
あ、そうだ! 名前、名前っすね!
僕は犬嶋犬太って言います。
趣味は筋トレと利きバナナ。
そして社会人6年目となる成長真っ直中の伸びしろしかない可能性に溢れた若手社員です。
ついこないだ、先輩の猪狩誠さんと婚約しました。
賛否両論あるかもですが、何でも口にして形にしていくスタイルです。
それがいいって、主任に褒められましたし! えへへ……そうじゃなくて――。
……あれ? 僕何を話そうとしてたんでしたっけ?
まあ、いっか! 忘れたことをいつまでも考えていても仕方ないっすからね。
今日は僕が、いや僕らが尊敬する主任の魅力をしっかりと伝えていこうと思います。
ぜひ、聞いていって下さいっす!
☆☆☆
9月のとある日。
まだまだ残暑が厳しい時期。
時刻【7時40分】
大手電機メーカー本社、1号棟の1階。
コーヒーとほのかにバナナの香りが漂う、工程管理課オフィス内。
今日も主任は僕の右隣にいる。
そのディスクの上にはバナナ先輩が描かれたマグカップとノートパソコン、メモの取れる電子パットがあり。
ここで時折バナナの椅子を揺らしたりしながらも、主任はテキパキと仕事をこなす。
そして、今は赤い骨伝導イヤホンを耳にかけてリモート会議をしている真っ最中だ。
リモート会議の相手は誠さん。
彼女は今日から3日間、取引先との打ち合わせの為、出張となっていた。
「ウホ、ウホウホ?」
主任は眼鏡の位置を直しながら、メモを取っていく。
《はい、ピックアップするデータについて工場に通達済みです》
「ウホ?」
《そうですね……工場の稼働状況にもよりますが、遅くても昼一には出るかと思います》
「……ウホウホ?」
《いえいえ、心配なさらないで下さい! ちゃんと仕事をこなしてこそのお付き合いだと思いますので」
「ウホ」
主任は僕と誠さんの仲が上手くいくように、こうしていつも気遣ってくれるのだ。
普段の会話や接し方では、僕と誠さんの仲が広まらないよう会社内ではいつも通り接してくれているのに。
けど、主任の言葉は何故かスッと入ってくる。
きっと、それは主任が相手のことを本当に考えて言葉にしているからだろう。
僕は頼りがいがあって嫌味のない主任が大好きだ。
「ウホ!」
「あ、はいっす! その資料ならこちらにあります」
「ウホウホ」
うん、やっぱりカッコいい。
黒く逞しい体に優しい笑顔。
僕も将来こんな上司になりたい。
憧れの存在だ。
僕は幼い頃から「素直」とか「真っ直ぐ」とか言われることが多かった。
長所と言える反面、同時にその性格にせいで嫌な思いをすることも多かった。
「考えてから行動しましょう」という言葉は通信簿の先生が書く欄に毎回書かれていた。
他にも「自己主張はいいけど、他人を尊重しましょう」なんて言葉も掛けられることが何度もあった。
けど、それをなんでダメでどこがいけないのか、言ってくれる人には、学生時代では出会うことができなかった。
でも、この会社に入社してから世界が変わった。
勢いだけで、がむしゃらに頑張っていた僕に尊敬するゴリラ主任がメンターとして付いたのだ。
主任は、僕が出会ってきた人達と根本的に違った。
部下がどうすれば、能力を発揮できるのかを真剣に考えていたのだ。
僕が仕事でヘマすれば、一緒に取引先へ赴き、頭を下げ。
一人、遅くまで残業していたら、出張帰りだと言うのにバナナ片手に工程管理課のオフィスに寄り、僕が仕事を終えるまで待っていた。
本当は良くないんだろうけど。
当時、まだ仕事を覚え切れていない僕にとって、どれほど心強かったか言うまでもない。
そんな主任を前にして、一度聞いたことがある。
地方の取引先に向かう道中、新幹線の自由席で。
「主任、どうしたら仕事を、他人を尊重することができますか?」と。
すると、主任は白い歯を見せて答えてくれた。
「自分らしく、元気良く笑顔でいることだ」と。
初めは何を言っているか、僕にはわからなかった。
これでは今までの僕と同じだからだ。
けど、主任と一緒に仕事をしたり、バナナを食べてながら評価面談をしている内に主任の真意がわかった。
それは僕の役割について。
僕の役割、主任が期待している、そして会社が期待していることは、この工程管理課の雰囲気をよくすることだった。
そう、初めから僕を採用してくれた時から、主任は僕の長所に目を向けてくれていたのだ。
だから、僕は主任のように、誰かの長所に目を向ける存在になっていきたい。
「ウホゥ?」
「い、いえ! 少し昔を思い出しただけっす」
「ウホ、ウホウホ!」
「ありがとうございます! 僕はまだまだこれからも頑張りますよー!」
「ウホー! ウホウホ?」
「あ、ご飯ですか? 行きましょう!」
「……ウホウホ」
「えっ!? 日替わりランチにバナナブリュレが出たんですか!?」
「ウホ!」
主任は口元に人差し指を当てる。
「すみませんっす! 声が大きかったですね」
僕が主任との話に夢中になっていると、ノートパソコンの向こう側で、羨ましそうな顔をしている誠さんが声を上げた。
《バナナブリュレ! わ、私も行きたいです!》
なんというか、僕にも負けないくらい真っ直ぐな彼女らしい。
画面に近づき過ぎて、頭部以外何も映っていないし。
よっぽどバナナブリュレが食べたいのか、骨伝導イヤホンから聞こえる声が音割れしているほどだ。
そんな彼女に主任は、優しい笑みを浮かべて応じた。
「ウホウホ!」
《本当ですか! 帰ってきたらぜひ行きましょう》
「ウホ、ウホウホ」
《は、はい。犬太も一緒がいいです》
主任の言葉を受けたら、急にしおらしくなった。
画面から離れ手を前で組み、顔を少し赤くしている。
「ウホウホ」
「僕も誠さんと一緒がいいっす!」
《……また、そういうのをサラッという》
「えーっと、僕何か言いましたっけ?」
僕が尋ねると彼女はムッとしたような表情を浮かべて、リモート会議画面から抜けた。
「主任……僕、何かしました?」
「ウホウホ!」
「そうっすよね! きっと体調が悪くなったとか、そういうのですよね」
「ウホ!」
「ですよね!」
こうやって些細なことでも答えてくれる主任。
いつか立派になって恩返しを。
☆☆☆
僕はこんな毎日を過ごしています。
というか、僕だけじゃなくて、この工程管理課に所属しているバナ友の皆、全員が同じように主任とのエピソードがあるはずっす!
どうっすかね?
主任の魅力が少しでも伝わればいいですけど。
ま、とにかく!
心からの尊敬と感謝を込めて。
ウホウホー! っす!
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