上 下
54 / 63
本編

第51話 それぞれに進展

しおりを挟む
 時刻【18時30分】
 
 ひまわりが咲き誇り、浴衣姿の人でごった返している通路付近。

 山川すももと亀浦マリンが、バナナ色に光る誘導棒を片手に持ち案内をしながら会話をしていた。

 2人の足元にいるさんたろうもバナナ色に光る首輪付けて見よう見まねで歩行者の案内をしている。
 
「あの……亀浦マリンさん」
「はい、なんでしょうか?」
「えーっと、その……亀浦マリンさんは」
「あ、マリンで大丈夫ですよ!」
「で、では、マリンさん」
「はい!」
「あの……マリンさんって、ゴリラ主任とお付き合いされているのでしょうか?」
「お、お付き合い!? ゴ、ゴリラさんと私がですか!?」
「は、はい。そんなに驚くことでしょうか? 浴衣も同じ柄ですし、傍から見たらそれくらいの距離感に見えていましたよ?」
「は、はぇぇぇー! そうなんですか! そうなんですね……やった」
「あ、そういう反応をするということは、まだそういう関係ではないんですね……ということは、私にもチャンスが……」
「えっ!?」
「あっ!」

 まさかまさかの、マリンだけではなく、すもももゴリラのことを慕っていたのだ。

 だが、恋愛というものを経験したことのないすももは、自分の気持ちが恋なのか、今の今までわからないでいた。

 それが今、他の女性と仲良くするゴリラを見たことで、ようやく自分の気持ちに気付き始めたのである。

「そっかー……すももさんもゴリラさんが好きなんですねー……あはは」
「あ、いえ……好きとか、そのあんまりわからないのですが、マリンさんと一緒にいるゴリラ主任を見たら、なんか胸の辺りがもやもやしまして……」
「それが好きというものですよ!」
「そうなのですか?」
「そうです!」
「そうなんですね……やっぱり、私はゴリラ主任が好きだったんだ……えへへ。そっかぁ……これが好きって気持ちなんだ……」

 すももは、頬をほんのり桃色に染め、柔らかい笑顔を浮かべている。
 
「可愛い……」
「えっ?」
「可愛いので、応援させて下さい!」
「私が可愛い? それに応援? ど、どういうことでしょうか? 私無愛想で可愛くはないですし、それに恋人というのは1人しかなれませんよね? というか、少し近いです……」
「あ、すみません! ついつい! ですが、可愛いものは可愛いのです!」
「そ、そうですか……」
「はい!」
「可愛いのは、その……わかりました。ですけど、恋人は1人しかなれませんよね?」
「そうですね。普通はそれでいいと思います。ですが、相手は博愛主義のゴリラさん。私も今までたくさんアピールしてきました。それでも一向に進展する気配がないのです。きっとゴリラさんの頭には恋愛の「れ」の字もありません! だから、私はすももさんも応援したいのです!」
「あの……それのどこに私を応援する理由があるのでしょうか?」
「あります! さすがのゴリラさんも私達2人で攻めれば、気付くはずです」
「……なるほど。意味は理解したのですが、少し希望的観測が過ぎるような……」
「細かいことは気にしないで下さい! 恋愛なんて自分の都合の良いように考えたもん勝ちですから!」
「は、はぁ……そういうものですか?」
「はい! そういうものです!」

 同じ想いを抱く仲間? を見つけたマリンはやる気に満ち溢れていた。

 勢いづくマリンに対して、終始押されっぱなしで口数の少ないすもも。

 このタイプの違う2人が仲良くなるには、時間を要すると思えた。

 だが、蓋を開けてみるとそんなことはなく、通行人や迷子対応をしながらも、互いに自然と笑みを浮かべ共通の想いゴリラであるゴリラの話に花を咲かせた。



 ☆☆☆
 


 マリンとすももが意気投合していた最中。

 公園の一番手前に設置されたバナナ色のテントが張られた運営のブース内。

 イベントとのアナウンスや、進行を任された犬島犬太と猪狩誠が隣り合わせで席についていた。
 
「うん、やっぱり主任って何でもできるっすよね!」

 犬太が出店で働いているゴリラを見ながら言う。
 
「犬太もできるだろう……何でも知ってるし……何でもできるし、素直だし……それにかっこいいしさ……」

 犬太の一言に思わず本音をダダ漏れで応じる誠。
 しかし、ゴリラに夢中となっている犬太には絶妙に聞こえない。
 
「えっ? 今、何かいいました?」
「な、何も無い!」
「よくわからないっすけど、怒っています……よね?」
「怒ってないから!」

 こんなふうに真っすぐな2人らしいやり取りが繰り広げられる中。
 後ろから声を掛ける人物がいた。

「うふふ、若いね~」

 それは山川桃子108歳。

 初々しい2人を目の当たりにして、口を挟たくなってしまい、声を掛けた……というのもあるが、本当は別の用があった。

「はい! これ」

 桃子が差し出したのは、バナナにミツバチが留まっているアクセサリー真ん中で分かれる2つで1つの物だ。

「あ、えっ? 僕らにですか?」
「うん、そうよ~」
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ~! でも、お礼はあなた達の上司にね」
「えっ? どういうことでしょうか?」

 誠が首を傾げる。

「ゴリラちゃんと熊主任さんからですって! あなた達、婚約したんでしょう? 本当は直接渡したかったみたいだけど、熊主任さん? はゴリラちゃん曰く、実家のお手伝いで忙しいらしくからってだって~」

「そうなんですか?」
 
「うん、そうよ~! あっ、あとゴリラちゃんも直接渡そうか悩んだみたいだけど、あの場で渡しちゃうと他の人にバレちゃうからって言ってたわね~」

 桃子の言葉に、2人して肩を落としてため息をつく。

「バレてたんっすね……」
「うん、みたいだね……」

 本人達は、色々と気づいていないが実はこの2人。

 それぞれに尊敬するゴリラと熊主任に相談と報告をしていたのだ。

 だから、バレて当然なのである。

 そんな事を知る由もない彼らは、観念したように桃子からアクセサリーを受け取り、お互い身に付けた。

「に、似合ってるかな?」
「は、はい! と、とても似合っています!」
「いいね~! お幸せにね」

 2人はとても幸せそうな表情で桃子の言葉に声を揃えて返事をした。
  
「「はい」」

 
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。

光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。 昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。 逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。 でも、私は不幸じゃなかった。 私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。 彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。 私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー 例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。 「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」 「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」 夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。 カインも結局、私を裏切るのね。 エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。 それなら、もういいわ。全部、要らない。 絶対に許さないわ。 私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー! 覚悟していてね? 私は、絶対に貴方達を許さないから。 「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。 私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。 ざまぁみろ」 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

処理中です...