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本編
第42話 ホワイトデー
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3月14日(水)
時刻【6時00分】
天気【晴れ時々曇り 最低気温10℃ 最高気温16℃】
小鳥の鳴き声が聞こえ桜の蕾が少しずつ開く時期。
大手電機メーカーの新しくできた6階建ての社宅。
その6階の角部屋、壁は白色で床はフローリングの真新しい室内、数個のバナナラックに掛けられたバナナから甘いの香りが漂うキッチン前。
そこはマーブル柄の人工大理石で作られており、温度設定のできるガスコンロが3つ。
そして、タイマー付きの魚焼きグリル、その上に自動でつく換気扇が備え付けられている先進的なキッチンがあった。
また、その後ろにはスチールグレーで551Lの冷蔵庫、横に黄色いバナナが印字されたマグカップの並べられた白色の食器棚、上にはオーブン電子レンジとカフェグストが置かれている。
そこにグレーのバナナがプリントされたスウェット姿のゴリラがいた。
今日は、フレックス制度を利用した午後から出勤する日。
「ウホゥゥ……ウホ」
彼は丸太のような椅子に座りながら、眠たそうに目を擦りあくびをしている。
玉子3個は入るほどの大きなあくびだ。
なぜ、こんなにもおネムゴリラとなっているのかというと、今日はホワイトデーということが関係していた。
☆☆☆
あれは、前日の晩12時頃――。
インテリゴリラである彼は、事前になにを贈ろうか決めていた。
それは言うまでもなく、バナナだ。
ただし、ただの高級バナナというわけではなく、スーパーでも探せば手に入れることができる身近なバナナの中で、自身が最高峰と感じる物を2種類用意していた。
本来であれば、バレンタインデーにあげたお返しを期待するだろうが、彼は心優しきゴリラ。
頭の中には、仲良くしてくれているバナ友や人間たちの喜ぶ姿でいっぱいになっていた。
『ウホ、ウホウホ!』
ゴリラはその瞬間の皆の顔を想像し、子供のような笑みを浮かべている。
そんな彼が選んだバナナの名は、スミフルの甘熟王ゴールドプレミアムバナナ。
標高800mの高地栽培はもちろんのこと、黄金色の外観に引けを取らない甘いバナナの特有香りをしており、もっちりとした食感に濃厚な味わいと相まって、バナナはスミフルと言われても納得できるバナナ中のバナナだ。
そして、もう1つバナナの名だが、Doleのスウィーティオスカイランドという鮮やかな黄色のバナナ。
このバナナは、高地栽培の上をいく標高800以上の場所で育てられたとてもリッチなバナナ。
食感は、なめらかで味はまったりとして濃厚なのに後味が軽くて食べやすく、その香りはさわやかな香りをしている。
こちらもバナナはDoleと言われるだけのことはあるバナナの中のバナナ。
この2つを例えるならバナナ界隈【柔と剛】といった関係だろう。
また、どちらも美味しい上に、高級と言えど手に取りやすい値段をしている。
スミフルの甘熟王ゴールドプレミアムバナナの価格は、1パック730円。
対して、Doleのスウィーティオスカイランドは、1パック400円ほどだ。
これは受け取った人に、美味しいバナナを食べてほしいという、心優しきゴリラの思いやり。
そして、どちらも違うからこそ唯一無二の魅力があるというメッセージを込めて用意したものでもあった。
だが、実はそれだけではなかった。
スーパーに並ぶバナナにも、目を向けて欲しかったというの意味も含んでいたのだ。
最近では、オンラインショッピングで検索しただけでも、AI判断してスマホがオススメ商品など表示してしまう。
もし、そのタイミングで自分の保有したポイントがあれば、個人消費の多い高級なバナナに目が向きやすくなる構図となっていた。
だからこそ、地元のスーパーに目を向けて欲しかったのだ。
バイヤーは決して負けていない。
いつも朝早くから、美味しい物を安くという精神で買い付けをし、また果物を卸すメーカーも市場の動向や消費者の立場になり、色々なバナナを栽培しているということを。
これが全バナナ推しのゴリラにとって、バナ友たちに伝えたかったことだ。
『ウホゥ!』
彼は気合いをいれる。
そして、目の前にあるバナナラックから2種類のバナナを2房ずつ手に取り、キッチンへと並べると早速作業が始めた。
事前に聞いていた味の好みから、どちらのバナナがいいか決めて1房から、丁寧に1本をむしり取り、そこに男性向けには青色のリボンを。
女性用には赤色のリボンを結んでいく。
それが終えたら、直筆メッセージが書かれたバナナの便箋を添えて、最後にちょうどバナナ1本が入るほどの子ゴリラが描かれたラッピング袋に入れていく。
――こうして作業を繰り返すこと6時間後。
今のおネムゴリラ状態となり、いくらタフなゴリラといえど、疲労困憊になっていたのだ。
だが、その顔は達成感に溢れていた。
「ウホウホ!」
ゴリラは笑みを浮かべる。
そんな彼の視線の先には、アイランドキッチンの上に、黄金色のバナナと鮮やかな黄色をした2種類の包装済みのバナナがたくさん並べられていた。
「ウホ!」
ゴリラは、その光景を見たことで、やる気スイッチが押されて立ち上がる。
先ほどまでの眠たそうな表情が嘘のようだ。
そして、止まっていた作業を再開した。
大きな黒い手で、その1本1本に赤・青色リボンを童謡の”アイアイ”を口ずさみながらつけていく。
「ウーホ、ウーホ――」
すると、「ピーンポーン」と音が鳴った。
「ウホウホ!」
その手に持つバナナをキッチンの上に置き、インターホンのカメラで外を確認する。
そこには、見慣れたスーツ姿のバナ友4人が立っていた。
時刻【6時00分】
天気【晴れ時々曇り 最低気温10℃ 最高気温16℃】
小鳥の鳴き声が聞こえ桜の蕾が少しずつ開く時期。
大手電機メーカーの新しくできた6階建ての社宅。
その6階の角部屋、壁は白色で床はフローリングの真新しい室内、数個のバナナラックに掛けられたバナナから甘いの香りが漂うキッチン前。
そこはマーブル柄の人工大理石で作られており、温度設定のできるガスコンロが3つ。
そして、タイマー付きの魚焼きグリル、その上に自動でつく換気扇が備え付けられている先進的なキッチンがあった。
また、その後ろにはスチールグレーで551Lの冷蔵庫、横に黄色いバナナが印字されたマグカップの並べられた白色の食器棚、上にはオーブン電子レンジとカフェグストが置かれている。
そこにグレーのバナナがプリントされたスウェット姿のゴリラがいた。
今日は、フレックス制度を利用した午後から出勤する日。
「ウホゥゥ……ウホ」
彼は丸太のような椅子に座りながら、眠たそうに目を擦りあくびをしている。
玉子3個は入るほどの大きなあくびだ。
なぜ、こんなにもおネムゴリラとなっているのかというと、今日はホワイトデーということが関係していた。
☆☆☆
あれは、前日の晩12時頃――。
インテリゴリラである彼は、事前になにを贈ろうか決めていた。
それは言うまでもなく、バナナだ。
ただし、ただの高級バナナというわけではなく、スーパーでも探せば手に入れることができる身近なバナナの中で、自身が最高峰と感じる物を2種類用意していた。
本来であれば、バレンタインデーにあげたお返しを期待するだろうが、彼は心優しきゴリラ。
頭の中には、仲良くしてくれているバナ友や人間たちの喜ぶ姿でいっぱいになっていた。
『ウホ、ウホウホ!』
ゴリラはその瞬間の皆の顔を想像し、子供のような笑みを浮かべている。
そんな彼が選んだバナナの名は、スミフルの甘熟王ゴールドプレミアムバナナ。
標高800mの高地栽培はもちろんのこと、黄金色の外観に引けを取らない甘いバナナの特有香りをしており、もっちりとした食感に濃厚な味わいと相まって、バナナはスミフルと言われても納得できるバナナ中のバナナだ。
そして、もう1つバナナの名だが、Doleのスウィーティオスカイランドという鮮やかな黄色のバナナ。
このバナナは、高地栽培の上をいく標高800以上の場所で育てられたとてもリッチなバナナ。
食感は、なめらかで味はまったりとして濃厚なのに後味が軽くて食べやすく、その香りはさわやかな香りをしている。
こちらもバナナはDoleと言われるだけのことはあるバナナの中のバナナ。
この2つを例えるならバナナ界隈【柔と剛】といった関係だろう。
また、どちらも美味しい上に、高級と言えど手に取りやすい値段をしている。
スミフルの甘熟王ゴールドプレミアムバナナの価格は、1パック730円。
対して、Doleのスウィーティオスカイランドは、1パック400円ほどだ。
これは受け取った人に、美味しいバナナを食べてほしいという、心優しきゴリラの思いやり。
そして、どちらも違うからこそ唯一無二の魅力があるというメッセージを込めて用意したものでもあった。
だが、実はそれだけではなかった。
スーパーに並ぶバナナにも、目を向けて欲しかったというの意味も含んでいたのだ。
最近では、オンラインショッピングで検索しただけでも、AI判断してスマホがオススメ商品など表示してしまう。
もし、そのタイミングで自分の保有したポイントがあれば、個人消費の多い高級なバナナに目が向きやすくなる構図となっていた。
だからこそ、地元のスーパーに目を向けて欲しかったのだ。
バイヤーは決して負けていない。
いつも朝早くから、美味しい物を安くという精神で買い付けをし、また果物を卸すメーカーも市場の動向や消費者の立場になり、色々なバナナを栽培しているということを。
これが全バナナ推しのゴリラにとって、バナ友たちに伝えたかったことだ。
『ウホゥ!』
彼は気合いをいれる。
そして、目の前にあるバナナラックから2種類のバナナを2房ずつ手に取り、キッチンへと並べると早速作業が始めた。
事前に聞いていた味の好みから、どちらのバナナがいいか決めて1房から、丁寧に1本をむしり取り、そこに男性向けには青色のリボンを。
女性用には赤色のリボンを結んでいく。
それが終えたら、直筆メッセージが書かれたバナナの便箋を添えて、最後にちょうどバナナ1本が入るほどの子ゴリラが描かれたラッピング袋に入れていく。
――こうして作業を繰り返すこと6時間後。
今のおネムゴリラ状態となり、いくらタフなゴリラといえど、疲労困憊になっていたのだ。
だが、その顔は達成感に溢れていた。
「ウホウホ!」
ゴリラは笑みを浮かべる。
そんな彼の視線の先には、アイランドキッチンの上に、黄金色のバナナと鮮やかな黄色をした2種類の包装済みのバナナがたくさん並べられていた。
「ウホ!」
ゴリラは、その光景を見たことで、やる気スイッチが押されて立ち上がる。
先ほどまでの眠たそうな表情が嘘のようだ。
そして、止まっていた作業を再開した。
大きな黒い手で、その1本1本に赤・青色リボンを童謡の”アイアイ”を口ずさみながらつけていく。
「ウーホ、ウーホ――」
すると、「ピーンポーン」と音が鳴った。
「ウホウホ!」
その手に持つバナナをキッチンの上に置き、インターホンのカメラで外を確認する。
そこには、見慣れたスーツ姿のバナ友4人が立っていた。
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