41 / 63
本編
第41話 住宅の内見&引っ越し
しおりを挟む
3月9日(土)
天気【曇り 最高気温9℃ 最低気温2℃】
時刻【14時30分】
「ゴリラ君、この間取りはいいじゃないのか?」
「ウホ……ウホウホ」
「うむ……この部屋はトイレが小さいか……」
「ウホウホ」
「そうか、では次の部屋に行くとするか」
「ウホゥ……」
「ははっ、なに気にしなくて大丈夫だ! 私も一緒に見たくて来たのだからな」
紺色でストライプ柄のスーツに、茶色の革靴を履いているゴリラと会話をするのは、老眼鏡を頭に乗せたほっそりした小柄の男性。
雉島千鳥課長代理だ。
課長は灰色のスーツ着ており、明るい茶色の革靴を履いている。
そんな彼らのいる場所は、ゴリラの住まう社宅から徒歩5分の場所にできた、6階建ての新築マンション1階の2LDKの一室。
壁は、清潔感の漂う白色をしており天井も高く、バリアフリーで掃除のしやすいフローリングだ。
その他にも、キッチンは使い勝手のいいアイランドキッチンにオール電化となっており、リビング・ダイニング・キッチンを合わせた広さも16畳とかなり広い。
その上、6畳洋室が2部屋とトイレとお風呂がつきのなかなか好条件の物件。
しかし、トイレが人間仕様となっており、座ることすら叶わなかった。
なぜ1頭と1人が、そんな場所へ訪れていたかというと、それはゴリラの住まう社宅が経年劣化により、建物のヒビ割れなどが起きていたから。
ただ、事前に行われた調査によると、住宅の耐震基準は満たしていた。
だが、昨今の地震の多さを危惧した組合と経営陣との話し合いにより、近くにできた新築マンションを買い取り、そこを新たな社宅とするという運びとなっていた。
本来であれば、不動産業者を通すところだが、このマンション社宅。
なので、人事とのやり取りで済むのだ。
「ウホウホ?」
「ああ、確か……6階の角部屋は少し広いと言っていたな」
「ウホウホ」
「うむ、ではその部屋に向かうとするか」
「ウホ……ウホウホ?」
「ふふっ、ありがとう。2階くらいなら、階段でも大丈夫だが……さすがに6階となるとな……」
「ウホ!」
「では、お言葉に甘えてエレベーターでいくとするか」
「ウホウホ!」
そして、彼らはマンションの中央に設けられたエレベーターへ乗り6階へと向かった――。
☆☆☆
――5分後。
時刻【14時35分】
ゴリラと雉島課長代理は、6階の角部屋に辿り着いた。
ちなみに、この人選は行きたいと言った犬嶋犬太、熊主任、雉島課長代理でじゃんけんをして決めたものだ。
そこで見事勝ち抜いた課長が、ゴリラと一緒に住宅の内見をすることになっていた。
「おお! いいじゃないか! 天井もかなり高いんじゃないのか?」
「ウホウホ!」
彼らが訪れた部屋は角部屋の最上階ということもあり、2LDKで間取りなどほとんど同じだが、初めに見た部屋より天井が高い。
「……うむ。だが、肝心のトイレがどうなっているかだな」
「……ウホ」
雉島課長代理の言葉を受けて、ゴリラはゆっくりと頷き、1頭と1人は玄関の左手にあるトイレの前へ移動した――。
☆☆☆
――1分後。
時刻【14時36分】
トイレ前。
ゴリラが先頭で、その後ろに課長が控えている。
「…………」
目を閉じて祈るように両手を重ねているゴリラ。
それもそのはずで、この部屋がダメということになると、いつもお世話になっている町内会長の山川桃子やその飼い犬である小さきバナ友ポメラニアンのさんたろうとも、離れてしまうことになるからだ。
もちろん、それだけではない。
最寄り駅の駅員や地元スーパーのアル・プラザのバナ友たち、それにジムで親しくなったバナ友候補の亀浦マリンとも、会う機会が減ってしまうから。
慣れ親しんだ地域から離れることよりも、彼らとの交流が減ってしまうことが、何より嫌だったのだ。
だから、ゴリラはトイレの前で祈りを捧げていた。
どうか、天井の高さも、幅も大丈夫でありますようにと。
「……ウ、ウホゥ」
そして、目を見開きドアノブに手を掛けて扉を開けた。
「ウ、ウホゥ!!」
声を上げるゴリラの前には、ゆったりとした洋式トイレがあった。
目測ではあるが、間違いなく座っても大丈夫な広さをしており、便座が自動で上がっていく最新型のトイレ。
「ど、どうなのかね?! いけそうなのか?」
その後ろで、トイレを覗こうとしている雉島課長代理。
そんな課長にゴリラは振り返り、満面の笑みで返した。
「ウホ!」
「そ、そうか! 良かったなぁ……私も安心したよ」
「ウホウホ!」
「いや、私は何もしておらんよ」
「ウホ、ウホウホ」
「ふふっ、バナ友だからな……まぁ、でもこれで自分の部下に怒られなくて済む……」
「ウホ?」
「いや……なに、もしもの話だ。決まらなかったら、きっと彼らが怒るだろうと思っただけだ。私も逆だったら、一言は言ってしまいそうだしな」
「ウホウホ!」
「ふふっ、そうだな。皆バナ友だから仲良くせんとな」
「ウホウホー!」
――こうして、無事住むところを決めたゴリラは、この数日後。
バナ友たちの手を借り、引っ越しを済まして無事に新居での生活をスタートさせましたとさ。
ウホウホー!
天気【曇り 最高気温9℃ 最低気温2℃】
時刻【14時30分】
「ゴリラ君、この間取りはいいじゃないのか?」
「ウホ……ウホウホ」
「うむ……この部屋はトイレが小さいか……」
「ウホウホ」
「そうか、では次の部屋に行くとするか」
「ウホゥ……」
「ははっ、なに気にしなくて大丈夫だ! 私も一緒に見たくて来たのだからな」
紺色でストライプ柄のスーツに、茶色の革靴を履いているゴリラと会話をするのは、老眼鏡を頭に乗せたほっそりした小柄の男性。
雉島千鳥課長代理だ。
課長は灰色のスーツ着ており、明るい茶色の革靴を履いている。
そんな彼らのいる場所は、ゴリラの住まう社宅から徒歩5分の場所にできた、6階建ての新築マンション1階の2LDKの一室。
壁は、清潔感の漂う白色をしており天井も高く、バリアフリーで掃除のしやすいフローリングだ。
その他にも、キッチンは使い勝手のいいアイランドキッチンにオール電化となっており、リビング・ダイニング・キッチンを合わせた広さも16畳とかなり広い。
その上、6畳洋室が2部屋とトイレとお風呂がつきのなかなか好条件の物件。
しかし、トイレが人間仕様となっており、座ることすら叶わなかった。
なぜ1頭と1人が、そんな場所へ訪れていたかというと、それはゴリラの住まう社宅が経年劣化により、建物のヒビ割れなどが起きていたから。
ただ、事前に行われた調査によると、住宅の耐震基準は満たしていた。
だが、昨今の地震の多さを危惧した組合と経営陣との話し合いにより、近くにできた新築マンションを買い取り、そこを新たな社宅とするという運びとなっていた。
本来であれば、不動産業者を通すところだが、このマンション社宅。
なので、人事とのやり取りで済むのだ。
「ウホウホ?」
「ああ、確か……6階の角部屋は少し広いと言っていたな」
「ウホウホ」
「うむ、ではその部屋に向かうとするか」
「ウホ……ウホウホ?」
「ふふっ、ありがとう。2階くらいなら、階段でも大丈夫だが……さすがに6階となるとな……」
「ウホ!」
「では、お言葉に甘えてエレベーターでいくとするか」
「ウホウホ!」
そして、彼らはマンションの中央に設けられたエレベーターへ乗り6階へと向かった――。
☆☆☆
――5分後。
時刻【14時35分】
ゴリラと雉島課長代理は、6階の角部屋に辿り着いた。
ちなみに、この人選は行きたいと言った犬嶋犬太、熊主任、雉島課長代理でじゃんけんをして決めたものだ。
そこで見事勝ち抜いた課長が、ゴリラと一緒に住宅の内見をすることになっていた。
「おお! いいじゃないか! 天井もかなり高いんじゃないのか?」
「ウホウホ!」
彼らが訪れた部屋は角部屋の最上階ということもあり、2LDKで間取りなどほとんど同じだが、初めに見た部屋より天井が高い。
「……うむ。だが、肝心のトイレがどうなっているかだな」
「……ウホ」
雉島課長代理の言葉を受けて、ゴリラはゆっくりと頷き、1頭と1人は玄関の左手にあるトイレの前へ移動した――。
☆☆☆
――1分後。
時刻【14時36分】
トイレ前。
ゴリラが先頭で、その後ろに課長が控えている。
「…………」
目を閉じて祈るように両手を重ねているゴリラ。
それもそのはずで、この部屋がダメということになると、いつもお世話になっている町内会長の山川桃子やその飼い犬である小さきバナ友ポメラニアンのさんたろうとも、離れてしまうことになるからだ。
もちろん、それだけではない。
最寄り駅の駅員や地元スーパーのアル・プラザのバナ友たち、それにジムで親しくなったバナ友候補の亀浦マリンとも、会う機会が減ってしまうから。
慣れ親しんだ地域から離れることよりも、彼らとの交流が減ってしまうことが、何より嫌だったのだ。
だから、ゴリラはトイレの前で祈りを捧げていた。
どうか、天井の高さも、幅も大丈夫でありますようにと。
「……ウ、ウホゥ」
そして、目を見開きドアノブに手を掛けて扉を開けた。
「ウ、ウホゥ!!」
声を上げるゴリラの前には、ゆったりとした洋式トイレがあった。
目測ではあるが、間違いなく座っても大丈夫な広さをしており、便座が自動で上がっていく最新型のトイレ。
「ど、どうなのかね?! いけそうなのか?」
その後ろで、トイレを覗こうとしている雉島課長代理。
そんな課長にゴリラは振り返り、満面の笑みで返した。
「ウホ!」
「そ、そうか! 良かったなぁ……私も安心したよ」
「ウホウホ!」
「いや、私は何もしておらんよ」
「ウホ、ウホウホ」
「ふふっ、バナ友だからな……まぁ、でもこれで自分の部下に怒られなくて済む……」
「ウホ?」
「いや……なに、もしもの話だ。決まらなかったら、きっと彼らが怒るだろうと思っただけだ。私も逆だったら、一言は言ってしまいそうだしな」
「ウホウホ!」
「ふふっ、そうだな。皆バナ友だから仲良くせんとな」
「ウホウホー!」
――こうして、無事住むところを決めたゴリラは、この数日後。
バナ友たちの手を借り、引っ越しを済まして無事に新居での生活をスタートさせましたとさ。
ウホウホー!
23
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。
光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。
昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。
逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。
でも、私は不幸じゃなかった。
私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。
彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。
私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー
例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。
「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」
「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」
夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。
カインも結局、私を裏切るのね。
エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。
それなら、もういいわ。全部、要らない。
絶対に許さないわ。
私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー!
覚悟していてね?
私は、絶対に貴方達を許さないから。
「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。
私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。
ざまぁみろ」
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる