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本編

第41話 住宅の内見&引っ越し

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 3月9日(土)

 天気【曇り 最高気温9℃ 最低気温2℃】
 時刻【14時30分】

「ゴリラ君、この間取りはいいじゃないのか?」
「ウホ……ウホウホ」
「うむ……この部屋はトイレが小さいか……」
「ウホウホ」
「そうか、では次の部屋に行くとするか」
「ウホゥ……」
「ははっ、なに気にしなくて大丈夫だ! 私も一緒に見たくて来たのだからな」

 紺色でストライプ柄のスーツに、茶色の革靴を履いているゴリラと会話をするのは、老眼鏡を頭に乗せたほっそりした小柄の男性。

 雉島千鳥きじしまちどり課長代理だ。

 課長は灰色のスーツ着ており、明るい茶色の革靴を履いている。

 そんな彼らのいる場所は、ゴリラの住まう社宅から徒歩5分の場所にできた、6階建ての新築マンション1階の2LDKの一室。

 壁は、清潔感の漂う白色をしており天井も高く、バリアフリーで掃除のしやすいフローリングだ。

 その他にも、キッチンは使い勝手のいいアイランドキッチンにオール電化となっており、リビング・ダイニング・キッチンを合わせた広さも16畳とかなり広い。

 その上、6畳洋室が2部屋とトイレとお風呂がつきのなかなか好条件の物件。

 しかし、トイレが人間仕様となっており、座ることすら叶わなかった。

 なぜ1頭と1人が、そんな場所へ訪れていたかというと、それはゴリラの住まう社宅が経年劣化により、建物のヒビ割れなどが起きていたから。

 ただ、事前に行われた調査によると、住宅の耐震基準は満たしていた。

 だが、昨今の地震の多さを危惧した組合と経営陣との話し合いにより、近くにできた新築マンションを買い取り、そこを新たな社宅とするという運びとなっていた。

 本来であれば、不動産業者を通すところだが、このマンション社宅。

 なので、人事とのやり取りで済むのだ。


「ウホウホ?」
「ああ、確か……6階の角部屋は少し広いと言っていたな」
「ウホウホ」
「うむ、ではその部屋に向かうとするか」
「ウホ……ウホウホ?」
「ふふっ、ありがとう。2階くらいなら、階段でも大丈夫だが……さすがに6階となるとな……」
「ウホ!」
「では、お言葉に甘えてエレベーターでいくとするか」
「ウホウホ!」

 そして、彼らはマンションの中央に設けられたエレベーターへ乗り6階へと向かった――。



 ☆☆☆



 ――5分後。

 時刻【14時35分】

 ゴリラと雉島課長代理は、6階の角部屋に辿り着いた。

 ちなみに、この人選は行きたいと言った犬嶋犬太、熊主任、雉島課長代理でじゃんけんをして決めたものだ。
 そこで見事勝ち抜いた課長が、ゴリラと一緒に住宅の内見をすることになっていた。

「おお! いいじゃないか! 天井もかなり高いんじゃないのか?」
「ウホウホ!」

 彼らが訪れた部屋は角部屋の最上階ということもあり、2LDKで間取りなどほとんど同じだが、初めに見た部屋より天井が高い。

「……うむ。だが、肝心のトイレがどうなっているかだな」
「……ウホ」

 雉島課長代理の言葉を受けて、ゴリラはゆっくりと頷き、1頭と1人は玄関の左手にあるトイレの前へ移動した――。



 ☆☆☆



 ――1分後。

 時刻【14時36分】

 トイレ前。

 ゴリラが先頭で、その後ろに課長が控えている。

「…………」

 目を閉じて祈るように両手を重ねているゴリラ。

 それもそのはずで、この部屋がダメということになると、いつもお世話になっている町内会長の山川桃子やその飼い犬である小さきバナ友ポメラニアンのさんたろうとも、離れてしまうことになるからだ。

 もちろん、それだけではない。

 最寄り駅の駅員や地元スーパーのアル・プラザのバナ友たち、それにジムで親しくなったバナ友候補の亀浦マリンとも、会う機会が減ってしまうから。

 慣れ親しんだ地域から離れることよりも、彼らとの交流が減ってしまうことが、何より嫌だったのだ。

 だから、ゴリラはトイレの前で祈りを捧げていた。

 どうか、天井の高さも、幅も大丈夫でありますようにと。

「……ウ、ウホゥ」

 そして、目を見開きドアノブに手を掛けて扉を開けた。

「ウ、ウホゥ!!」

 声を上げるゴリラの前には、ゆったりとした洋式トイレがあった。

 目測ではあるが、間違いなく座っても大丈夫な広さをしており、便座が自動で上がっていく最新型のトイレ。

「ど、どうなのかね?! いけそうなのか?」

 その後ろで、トイレを覗こうとしている雉島課長代理。

 そんな課長にゴリラは振り返り、満面の笑みで返した。

「ウホ!」
「そ、そうか! 良かったなぁ……私も安心したよ」
「ウホウホ!」
「いや、私は何もしておらんよ」
「ウホ、ウホウホ」
「ふふっ、バナ友だからな……まぁ、でもこれで自分の部下に怒られなくて済む……」
「ウホ?」
「いや……なに、もしもの話だ。決まらなかったら、きっと彼らが怒るだろうと思っただけだ。私も逆だったら、一言は言ってしまいそうだしな」
「ウホウホ!」
「ふふっ、そうだな。皆バナ友だから仲良くせんとな」
「ウホウホー!」


 ――こうして、無事住むところを決めたゴリラは、この数日後。

 バナ友たちの手を借り、引っ越しを済まして無事に新居での生活をスタートさせましたとさ。



 ウホウホー!
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