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本編

第39話 バナナを求めて

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 時刻【19:20】

 ゴリラは、店内の端に位置するフルーツコーナーへと来ていた。

 買い物カゴを持つ為、別々に持っていた荷物を纏めて右手で持ち左腕に買い物カゴを掛けている。

 だが、その表情は明るくはなく、肩を落としていた。
 大好きなバナナ。

 その上、高級品である金の房を前にしているはずなのにだ。

「ウホ……」

 ため息をつく彼の前には、値札とポップのみとなった金の房が陳列されていた置き場があった。

 そう、バナナは売り切れていたのだ。

 ゴリラがコーヒー豆を買っている間に。

 佇む彼の頭には、あの時断っていれば……ということがよぎっていた。

 だが、そうすると30%OFFのグアテマラ産のコーヒー豆が手に入らなかった……。

 複雑な気持ちを抱きながらもゴリラはつぶらな瞳を見開いて周囲を確認する。

 そう、彼はまだ諦めていなかった。

 それは、この場所以外にもバナナが置かれている場所が存在するからだ。

 金の房があった所から、左から順にスミフルの甘熟王。Doleのスウィーティオに極撰。田辺農園のバナナといつものモンキーバナナへと視線を移していく。
 だが、やはり目的の金の房は見当たらない。

「ウホゥ……」

 ゴリラは溜息を吐いて意気消沈する。

 だが、しかし、やはりここで諦めるにはいかなかった。

 それは仕事終わりのご褒美にと。

 ずっとバナナのことを頭に置いて仕事を頑張ってきたから。

 その上、最近はとても忙しく、メンターメンティの関係にある犬嶋犬太いぬじまけんたは、前日から今日まで出張して直帰。

 猪狩誠も、犬太から届いたデータを元に資料の作成に現場とのすり合わせなど。

 こんな風に他の部下たちも、慌ただしい日々を送っていた。

 もちろん、ゴリラも朝からの新たな工場への移管、委託の為のスケジューリングを決める為の打ち合わせがあり、それが終われば新しい委託先に合わせたシステムの構築。

 そして、それを逆算し材料などが不足しないかを予測していき、息つく暇もなく次の打ち合わせへと向かう。

 これらを経てこの場所へと辿り着いたのだ。

 しかも、バナ友となった雉島きじしま課長代理と熊主任が気を利かして、ゴリラを早く帰らせる為に仕事を請け負ってくれた。

 だから、尚更諦めるわけにはいかなかった――。



 ☆☆☆



 ――彼が探し始めて15分後。

 時刻【19:35】

 どれだけ探そうと見つからない。

 バナナが陳列する場所の後ろに位置するいちごゾーン。
 その右隣の柑橘類が置かれている棚。

 左隣のりんごが並べられている所。

 おつとめ品が置かれた台車まで見たというのにだ。

「……ウホ」

 ゴリラは諦めかけていた。

 無理もない。

 これだけ探したというのに見つからないのだ。


 ――その時。


 後ろから、誰かが話し掛けてきた。

「ゴリラくん、どうかされましたか?」

 白い帽子に白色の衣服。
 髪の毛は帽子の中に入れており、青色のエプロンをつけてる薄化粧の女性。
 彼女は白波珊瑚、45歳。
 マルデ・プラザの果実などの陳列係であり社員だ。

 ゴリラとはよく果実の鮮度について語り合う仲。
 もちろん、バナ友だ。

「ウホ……ウホ」
「ああ、それならちょうど並べようとしていたところよ?」
「ウホ!?」
「ホントよ? ほらこれ」

 彼女が指差す所には、台車の上に積まれた段ボールがあり、そこには金の房と書かれている。

 あったのだ。

 ここにゴリラが望んだ至高のバナナが。

 念願の金の房を目の前にして、彼の鼓動は高鳴っていた。

 後もう少しで、ドラミングするほどにだ。

「ウホ!」
「うふふ、いいわよ! どうせ今から並べるんだから」
「ウホウホ! ウホウホ!」
「大袈裟ね! 今日は雪の影響で入荷が遅れただけよ」
「ウホ、ウホ!」
「それでも、女神さまだって? うふふ、ありがとう。その言葉は受け取っておきます」
「ウホ?」
「はい、はい。どうぞ」
「ウホウホ! ウホウホー!」

 彼は出したてホヤホヤのお目当ての金の房を受け取り、誰よりも嬉しそうな顔をしてセルフレジへ向かった――。



 ☆☆☆



 ――その後、店内にはスキップをしながら、上機嫌にスーパーのテーマソングを口ずさむゴリラの姿が目撃されましたとさ。

 ウホウホ
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