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本編
第38話 会社終わりに
しおりを挟む2月25日(金)
時刻【19:00】
天気【雪 最低気温8℃ 最高気温15℃】
仕事を終えたゴリラは自宅から徒歩10分ほどの距離にある講和堂という、彼の住む大阪ではマルデ・プラザという名前になっている地元スーパーにきていた。
ゴリラは、いつものリュック背負っている。
その中には月曜日のリモート会議に備えてノートパソコンと買い物用のエコバックが入っており、右手には作業着が入った紙袋を持っていた。
まずは、入口付近のオリジナルブランドの衣服が売られているファッション雑貨ゾーンを通り抜けていく。
「あ、ゴリラさん! 今日もお買い物ですか?」
彼に話し掛けるのは、茶色のハンチング帽を被り、赤、黄色、黒色のカラフルなボーダーラインが胸元に入ったニット生地のセーター。
クリーム色のテパードパンツにムートンブーツを履いた身長150cmの女性店員。
海島ナミ28歳。
彼女も例の如くゴリラとバナ友だ。
そして、実はゴリラがオーダーメイドのバナナの椅子を発注したデザイナーの娘でもある。
話し掛けられたゴリラは仕事終わりということもあり、とても上機嫌で白い歯を見せて応じていた。
「ウホ、ウホ!」
「金の房ですか?! えっ、でも高くないですか?」
「ウホウホ、ウホ!」
「なるほど、週末のご褒美ですか!」
金の房の話を聞いた彼女は、バナ友ということもあり前のめり気味になっていた。
その反応が嬉しいのかゴリラは首から下げていたスマホを見せた。
そこには、スクショされた今日の広告が映し出されていた。
子供ような笑顔をしながら、大きな指で小さなスマホの画面を指差している。
「ウホ、ウホウホ」
「このネットのチラシにも載っていた?」
「ウホウホ!」
「そういうことですか! 特価で売っていたと!」
「ウホ!」
「それは急がないとですね! 売り切れたら大変です」
「ウホウホ」
「あ、はい。気にしないで下さい! またお時間がある時にでも! 30cmの靴も発注したので」
「ウホ、ウホ!」
「いえいえ! お礼なんてとんでもない」
「ウホ!」
「あ、そうですね! お気をつけてー!」
「ウホウホー!」
ナミとのやり取りを終えたゴリラは頭の上に音符を浮かべながら、左手にコーヒーショップ、右手にシュークリーム屋がある通路を歩いていく。
すると、コーヒーショップの中から声が聞こえた。
「ゴリラさーん、グアテマラ産の浅煎り豆がセール中ですよー!」
元気に話し掛けるのは、身長170cm。
中肉中背の清潔感の漂う雰囲気に白のタートルネックのセーター。
下は黒のスキニーパンツと白色のスニーカーを履き、コーヒーショップのエプロンをつけたコーヒー好きの男性店長。
森野大木だ。
ちなみに、当然ながらゴリラはこの男性ともバナ友だった。
しかし、今までのバナ友とは関係性が少し違う。
というのも、大木はバナナを食べることができないからだ。
本人が言うには味わい自体は好きなのだが、どうしてもあの独特な食感が苦手ならしい。
ただ、そこはゴリラ。
自分の推しシロップ。MONIN(モナン) イエロー バナナを教えてバナ友になっていた。
「ウホ!?」
「本当ですよ! どうします? 寄っていかれますか?」
「ウホ……」
「あ、いやいや強制じゃないので」
「ウホウホ?」
「そうですね。30%OFFはなかなかにないですね」
「ウホ!」
「あ、はい! わかりました。すぐご用意致しますね」
「ウホ!」
彼はお気に入りの豆であるグアテマラ産浅煎りコーヒー豆200g。豆のままで購入することにした。
ちなみに、ゴリラの好きな豆の精製処理は、ウォッシュド(水洗式)ではなく、ナチュラル(乾燥式)の果肉が残った状態で処理された少しフルーティーな物を好んでいる。
理由は自然に優しい製法と言うことに加え、バナナシロップとの相性がいいからということらしい。
ただ、実際は完全に彼の好みだ。
しかし、このことがコーヒーショップの店長とバナ友なった要因の1つとなっていた。
それは大木とゴリラの味の好みが同じだったからだ。
「お会計は1026円となります」
「ウホ!」
「〇〇払いですね! ではこちらにかざしてください」
「ウホ」
大木から言葉を受けた彼は首から下げているスマホを手に取り、画面を切り替えてQRコード読み取り機へとかざした。
《ポヨンピーン♪》という決済完了の音が鳴る。
「はい、大丈夫です」
「ウホウホ?」
「あ、そうですね。ポイントカード! それとエコバックはお持ちですか?」
「ウホ!」
その問い掛けに自慢げな表情をして胸ポケットから財布を出してポイントカードを渡し、その流れでリュックに入れていたエコバックも取り出した。
「さすが、いつもありがとうございます。では、こちらに入れさせて頂きますね!」
「ウホホ……」
大木の「さすが」という言葉を受けて顔緩ませるゴリラ。
「はい、まずはポイントカードをお返ししてと! そしてこちらが豆です!」
「ウホウホ!」
「いえいえ! また来てくださいね」
「ウホ」
こうして、彼は左手にコーヒー豆が入ったエコバックを大木から受け取りあとにした。
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