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本編

第35話 みんなでバーベキュー

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 そんなさまざまことが繰り広げてられている長机の前から、少し離れた小川の辺。

 空を見ながら語り合う小柄な人影2つがあった。

「賑やかだね……」
「はい……賑やかですね……」

 その人影の正体は、準備に関して戦力外通告を受けてしまった雉島課長代理と山川すももだ。

 左に座る雉島課長代理は山ボーイならぬ、山おじさんと呼べる格好をしていた。

 くすんだ茶色の帽子に老眼鏡を乗せており、上は赤色でチェック柄の長袖にくすんだ茶色のベスト。

 下にはカーキ色のパンツ、黒色のマウンテンスニーカーを履いている。

 一方、右に座る山川すもも、彼女も同じようなコンセプトで選ばれたような服装をしていた。

 クリーム色の深めに被ると顔が見えなくなるような帽子に、桃色でチェック柄の長袖にクリーム色のベストを合わせており、下にはオレンジ色のパンツ、桃色のマウンテンスニーカーを履いている。

 そんな意図せずリンクコーデとなった2人は横並びに三角座りしていた。

「なんかすまないね……」
「いえ、大丈夫です……コーディネートが被ってるより、役に立てていないことの方が辛いので……」
「あはは……そうだね……」

 なぜ、彼らが戦力外通告を受けたかというと理由は簡単。

 まず、雉島課長代理について。

 課長代理は、仲の良くなった部下たちの前で恥をかきたくないのか、ひとつひとつの作業が丁寧にし過ぎで、どうしても他の人が作業を進めるより遅くなるからだ。

 そして、すももに関してはそれ以前の問題だった。

 目を離すと「う、うわぁ……」と小さめのリアクションをして食材を地面に落としたり、どういう原理で起こっているか不明だが、刻もうとした野菜を飛ばしてしまったりなど、作業を進めることすらできない。

 仕事であれば、無口でありながらもテキパキこなせるというのに。

 その戦力外通告組は、役に立てないことが心苦しいのか小川を見つめている。

 どちらも誰がどう見ても遠い目だ。

「雉島さん……私たちって役立たずですよね……」
「あはは、何を言っているんだね! いや、はぁ……そうだね」

 すると、その間にバレーボールほどの黒い塊が現れた。

「ウホウホ!」

 全てを終えたゴリラだ。

「ああ、ゴリラ君、どうしたのかね?」
「ウホウホ」
「えっ、私たちの手を借りたいのですか?」
「ウホ!」
「しかし……役に立たんだろう」
「です……迷惑はかけたくありません」
「うむ、私も同じくだ……」

 バナ友であるゴリラが声を掛けたというのに、雉島課長代理もすももも元気を取り戻さない。

「ウホゥ……」

 ゴリラはその様子にショックを受ける。

 だが、それほどまでに何も役目がないというのは堪えたのだろう。

 ましてや、雉島課長代理はこのバーベキューの発案者。
 そのショックの度合いは計り知れない。

 それはもちろん、他部署からお呼ばれされてきた山川すももも同じようなものだった。

 その気持ちを理解したゴリラは、再び川の方を見つめ始めていた2人へと声を掛けた。

「ウホウホ?」
「なにかね? 迷惑を掛けたくないのだよ」
「はい……今は申し訳ありませんけど、そっとしておいてほしいです」
「ウホ!」

 ゴリラが指差す長机には切り分けられた食材たちがズラリと並んでおり、そこには彼が持ってきた小ぶりのフライパン。

 その横には、半分に切られたバナナ2房、大さじ1ほどに切られたバターとザラメ糖もあった。

 彼は打ちひしがれる2人に活躍の場を用意していたのだ。

 皆、大好きバナナソテーを作るという大役を。

 そして、この為に全力で食材を切り分けていたのだ。

「ウホ、ウホウホ……ウホゥ!」
「すももちゃんと協力して、バ、バナナソテーを作ってほしいと?」
「ウホゥ!」
「ですが……私たちにできるでしょうか? またドジをするかもです」
「……うむ」

 しかし、雉島課長代理とすももは、突如として舞い込んできた大役に顔を引きつらせている。

 それでも、ゴリラは強引に2人を連れていくことを決めた。

 真に相手を思っているならば、時には強引だとしても、本人たち背中を押してあげることが大切なことだからだ。

 これは彼が都会のジャングルで学んできたことで。

 ゴリラの思いやりだ。

 ゴリラは、その場で座り込んだままの雉島課長代理とすももをヒョイっと持ち上げて立ち上がらせると、後ろに回り込んで優しく押す。

「ウホウホ!」
「ちょ、ちょっと待ちたまえ」
「そ、そうですよ! 強引過ぎます」
 
 慌てる2人などを気にすることなく、大きな黒い手で歩みを進ませた。



 ☆☆☆



 時刻【10時40分】

 焼いた肉と野菜の残り香が、香ばしいバターの匂いと、甘いバナナの香りによって消えたバーベキュースペース。

 長机にて。

 そこで食べ物で頬を大きく膨らませている、なんとも幸せそうなゴリラの姿があった。

 黒く大きな手で、フォークとナイフを器用に使い口へと食べ物を運んでいく。

「ウホウホ」

 彼が食べているのは、あの雉島課長代理とすももが作ったこんがりと焼けたバナナソテーだ。

 その幸せそうなゴリラの同じように、ここへ訪れた全員がバナナソテーを幸せそうな表情を浮かべながら食べている。

「うむ、美味いな……これを作ったのが自分たちだとは、なんとも……」
「ええ、間違いなく美味しいですね」
「はい、美味いっす!」
「う……うん、美味しい」
「我ながら、なかなかに……美味しいかもですね」

 そのやり取りを横目で見ていたゴリラは、全員が一体となったことに無邪気な笑みを浮かべていた。

「ウホウホ」



 ☆☆☆



 そして、この後。

 営業時間いっぱいまで、近くに流れる小川の辺で無邪気に笑うゴリラの声と、楽しそうな人間たちの声が聞こえていましたとさ。


 ウホウホ
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