35 / 63
本編
第35話 みんなでバーベキュー
しおりを挟む
そんなさまざまことが繰り広げてられている長机の前から、少し離れた小川の辺。
空を見ながら語り合う小柄な人影2つがあった。
「賑やかだね……」
「はい……賑やかですね……」
その人影の正体は、準備に関して戦力外通告を受けてしまった雉島課長代理と山川すももだ。
左に座る雉島課長代理は山ボーイならぬ、山おじさんと呼べる格好をしていた。
くすんだ茶色の帽子に老眼鏡を乗せており、上は赤色でチェック柄の長袖にくすんだ茶色のベスト。
下にはカーキ色のパンツ、黒色のマウンテンスニーカーを履いている。
一方、右に座る山川すもも、彼女も同じようなコンセプトで選ばれたような服装をしていた。
クリーム色の深めに被ると顔が見えなくなるような帽子に、桃色でチェック柄の長袖にクリーム色のベストを合わせており、下にはオレンジ色のパンツ、桃色のマウンテンスニーカーを履いている。
そんな意図せずリンクコーデとなった2人は横並びに三角座りしていた。
「なんかすまないね……」
「いえ、大丈夫です……コーディネートが被ってるより、役に立てていないことの方が辛いので……」
「あはは……そうだね……」
なぜ、彼らが戦力外通告を受けたかというと理由は簡単。
まず、雉島課長代理について。
課長代理は、仲の良くなった部下たちの前で恥をかきたくないのか、ひとつひとつの作業が丁寧にし過ぎで、どうしても他の人が作業を進めるより遅くなるからだ。
そして、すももに関してはそれ以前の問題だった。
目を離すと「う、うわぁ……」と小さめのリアクションをして食材を地面に落としたり、どういう原理で起こっているか不明だが、刻もうとした野菜を飛ばしてしまったりなど、作業を進めることすらできない。
仕事であれば、無口でありながらもテキパキこなせるというのに。
その戦力外通告組は、役に立てないことが心苦しいのか小川を見つめている。
どちらも誰がどう見ても遠い目だ。
「雉島さん……私たちって役立たずですよね……」
「あはは、何を言っているんだね! いや、はぁ……そうだね」
すると、その間にバレーボールほどの黒い塊が現れた。
「ウホウホ!」
全てを終えたゴリラだ。
「ああ、ゴリラ君、どうしたのかね?」
「ウホウホ」
「えっ、私たちの手を借りたいのですか?」
「ウホ!」
「しかし……役に立たんだろう」
「です……迷惑はかけたくありません」
「うむ、私も同じくだ……」
バナ友であるゴリラが声を掛けたというのに、雉島課長代理もすももも元気を取り戻さない。
「ウホゥ……」
ゴリラはその様子にショックを受ける。
だが、それほどまでに何も役目がないというのは堪えたのだろう。
ましてや、雉島課長代理はこのバーベキューの発案者。
そのショックの度合いは計り知れない。
それはもちろん、他部署からお呼ばれされてきた山川すももも同じようなものだった。
その気持ちを理解したゴリラは、再び川の方を見つめ始めていた2人へと声を掛けた。
「ウホウホ?」
「なにかね? 迷惑を掛けたくないのだよ」
「はい……今は申し訳ありませんけど、そっとしておいてほしいです」
「ウホ!」
ゴリラが指差す長机には切り分けられた食材たちがズラリと並んでおり、そこには彼が持ってきた小ぶりのフライパン。
その横には、半分に切られたバナナ2房、大さじ1ほどに切られたバターとザラメ糖もあった。
彼は打ちひしがれる2人に活躍の場を用意していたのだ。
皆、大好きバナナソテーを作るという大役を。
そして、この為に全力で食材を切り分けていたのだ。
「ウホ、ウホウホ……ウホゥ!」
「すももちゃんと協力して、バ、バナナソテーを作ってほしいと?」
「ウホゥ!」
「ですが……私たちにできるでしょうか? またドジをするかもです」
「……うむ」
しかし、雉島課長代理とすももは、突如として舞い込んできた大役に顔を引きつらせている。
それでも、ゴリラは強引に2人を連れていくことを決めた。
真に相手を思っているならば、時には強引だとしても、本人たち背中を押してあげることが大切なことだからだ。
これは彼が都会のジャングルで学んできたことで。
ゴリラの思いやりだ。
ゴリラは、その場で座り込んだままの雉島課長代理とすももをヒョイっと持ち上げて立ち上がらせると、後ろに回り込んで優しく押す。
「ウホウホ!」
「ちょ、ちょっと待ちたまえ」
「そ、そうですよ! 強引過ぎます」
慌てる2人などを気にすることなく、大きな黒い手で歩みを進ませた。
☆☆☆
時刻【10時40分】
焼いた肉と野菜の残り香が、香ばしいバターの匂いと、甘いバナナの香りによって消えたバーベキュースペース。
長机にて。
そこで食べ物で頬を大きく膨らませている、なんとも幸せそうなゴリラの姿があった。
黒く大きな手で、フォークとナイフを器用に使い口へと食べ物を運んでいく。
「ウホウホ」
彼が食べているのは、あの雉島課長代理とすももが作ったこんがりと焼けたバナナソテーだ。
その幸せそうなゴリラの同じように、ここへ訪れた全員がバナナソテーを幸せそうな表情を浮かべながら食べている。
「うむ、美味いな……これを作ったのが自分たちだとは、なんとも……」
「ええ、間違いなく美味しいですね」
「はい、美味いっす!」
「う……うん、美味しい」
「我ながら、なかなかに……美味しいかもですね」
そのやり取りを横目で見ていたゴリラは、全員が一体となったことに無邪気な笑みを浮かべていた。
「ウホウホ」
☆☆☆
そして、この後。
営業時間いっぱいまで、近くに流れる小川の辺で無邪気に笑うゴリラの声と、楽しそうな人間たちの声が聞こえていましたとさ。
ウホウホ
空を見ながら語り合う小柄な人影2つがあった。
「賑やかだね……」
「はい……賑やかですね……」
その人影の正体は、準備に関して戦力外通告を受けてしまった雉島課長代理と山川すももだ。
左に座る雉島課長代理は山ボーイならぬ、山おじさんと呼べる格好をしていた。
くすんだ茶色の帽子に老眼鏡を乗せており、上は赤色でチェック柄の長袖にくすんだ茶色のベスト。
下にはカーキ色のパンツ、黒色のマウンテンスニーカーを履いている。
一方、右に座る山川すもも、彼女も同じようなコンセプトで選ばれたような服装をしていた。
クリーム色の深めに被ると顔が見えなくなるような帽子に、桃色でチェック柄の長袖にクリーム色のベストを合わせており、下にはオレンジ色のパンツ、桃色のマウンテンスニーカーを履いている。
そんな意図せずリンクコーデとなった2人は横並びに三角座りしていた。
「なんかすまないね……」
「いえ、大丈夫です……コーディネートが被ってるより、役に立てていないことの方が辛いので……」
「あはは……そうだね……」
なぜ、彼らが戦力外通告を受けたかというと理由は簡単。
まず、雉島課長代理について。
課長代理は、仲の良くなった部下たちの前で恥をかきたくないのか、ひとつひとつの作業が丁寧にし過ぎで、どうしても他の人が作業を進めるより遅くなるからだ。
そして、すももに関してはそれ以前の問題だった。
目を離すと「う、うわぁ……」と小さめのリアクションをして食材を地面に落としたり、どういう原理で起こっているか不明だが、刻もうとした野菜を飛ばしてしまったりなど、作業を進めることすらできない。
仕事であれば、無口でありながらもテキパキこなせるというのに。
その戦力外通告組は、役に立てないことが心苦しいのか小川を見つめている。
どちらも誰がどう見ても遠い目だ。
「雉島さん……私たちって役立たずですよね……」
「あはは、何を言っているんだね! いや、はぁ……そうだね」
すると、その間にバレーボールほどの黒い塊が現れた。
「ウホウホ!」
全てを終えたゴリラだ。
「ああ、ゴリラ君、どうしたのかね?」
「ウホウホ」
「えっ、私たちの手を借りたいのですか?」
「ウホ!」
「しかし……役に立たんだろう」
「です……迷惑はかけたくありません」
「うむ、私も同じくだ……」
バナ友であるゴリラが声を掛けたというのに、雉島課長代理もすももも元気を取り戻さない。
「ウホゥ……」
ゴリラはその様子にショックを受ける。
だが、それほどまでに何も役目がないというのは堪えたのだろう。
ましてや、雉島課長代理はこのバーベキューの発案者。
そのショックの度合いは計り知れない。
それはもちろん、他部署からお呼ばれされてきた山川すももも同じようなものだった。
その気持ちを理解したゴリラは、再び川の方を見つめ始めていた2人へと声を掛けた。
「ウホウホ?」
「なにかね? 迷惑を掛けたくないのだよ」
「はい……今は申し訳ありませんけど、そっとしておいてほしいです」
「ウホ!」
ゴリラが指差す長机には切り分けられた食材たちがズラリと並んでおり、そこには彼が持ってきた小ぶりのフライパン。
その横には、半分に切られたバナナ2房、大さじ1ほどに切られたバターとザラメ糖もあった。
彼は打ちひしがれる2人に活躍の場を用意していたのだ。
皆、大好きバナナソテーを作るという大役を。
そして、この為に全力で食材を切り分けていたのだ。
「ウホ、ウホウホ……ウホゥ!」
「すももちゃんと協力して、バ、バナナソテーを作ってほしいと?」
「ウホゥ!」
「ですが……私たちにできるでしょうか? またドジをするかもです」
「……うむ」
しかし、雉島課長代理とすももは、突如として舞い込んできた大役に顔を引きつらせている。
それでも、ゴリラは強引に2人を連れていくことを決めた。
真に相手を思っているならば、時には強引だとしても、本人たち背中を押してあげることが大切なことだからだ。
これは彼が都会のジャングルで学んできたことで。
ゴリラの思いやりだ。
ゴリラは、その場で座り込んだままの雉島課長代理とすももをヒョイっと持ち上げて立ち上がらせると、後ろに回り込んで優しく押す。
「ウホウホ!」
「ちょ、ちょっと待ちたまえ」
「そ、そうですよ! 強引過ぎます」
慌てる2人などを気にすることなく、大きな黒い手で歩みを進ませた。
☆☆☆
時刻【10時40分】
焼いた肉と野菜の残り香が、香ばしいバターの匂いと、甘いバナナの香りによって消えたバーベキュースペース。
長机にて。
そこで食べ物で頬を大きく膨らませている、なんとも幸せそうなゴリラの姿があった。
黒く大きな手で、フォークとナイフを器用に使い口へと食べ物を運んでいく。
「ウホウホ」
彼が食べているのは、あの雉島課長代理とすももが作ったこんがりと焼けたバナナソテーだ。
その幸せそうなゴリラの同じように、ここへ訪れた全員がバナナソテーを幸せそうな表情を浮かべながら食べている。
「うむ、美味いな……これを作ったのが自分たちだとは、なんとも……」
「ええ、間違いなく美味しいですね」
「はい、美味いっす!」
「う……うん、美味しい」
「我ながら、なかなかに……美味しいかもですね」
そのやり取りを横目で見ていたゴリラは、全員が一体となったことに無邪気な笑みを浮かべていた。
「ウホウホ」
☆☆☆
そして、この後。
営業時間いっぱいまで、近くに流れる小川の辺で無邪気に笑うゴリラの声と、楽しそうな人間たちの声が聞こえていましたとさ。
ウホウホ
21
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。
光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。
昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。
逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。
でも、私は不幸じゃなかった。
私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。
彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。
私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー
例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。
「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」
「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」
夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。
カインも結局、私を裏切るのね。
エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。
それなら、もういいわ。全部、要らない。
絶対に許さないわ。
私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー!
覚悟していてね?
私は、絶対に貴方達を許さないから。
「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。
私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。
ざまぁみろ」
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる