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本編
第24話 めがね選び
しおりを挟む時刻【11時30分】
観葉植物が所々に飾られた眼鏡ショップ《TOWNDAYS》内。
眼鏡ショップ《TOWNDAYS》は、アジアを中心に、世界13ヶ国に拠点があり、その地域に適したデザインやサブカルチャー文化を積極的に取り入れている今、眼鏡業界でもっとも勢いのある企業だ。
店頭の中央には、売り出し中の若手俳優が眼鏡を掛けたポスターが張り出されており、その手前に今トレンドとなっている薄型フレーム・薄型レンズの組み合わされた眼鏡が陳列されているブース。
その右隣にUVカット+ブルーライトカットの機能の足された多機能眼鏡が置かれており、左隣に1万円以内で購入可能な眼鏡、老眼鏡、サングラスが並べられているブースがあった。
そんなさまざまな眼鏡が陳列されている奥に視力を測定する機器・レジがあり、その後ろにはショップのトレードマークである大きな黒縁眼鏡のアートが飾られている。
そこでゴリラとマリンの接客をするのは、ツーブロックヘアに整髪料で固められた髪に四角い黒縁眼鏡。
服装は、灰色でピッタリめのジャケットに白色のカッターシャツ、青色のスキニーパンツとピカピカに光る茶色の革靴を履いている店員。
その店員の名は、ベテランやり手男性社員、花葉光月43歳。
古風を通り越して独特な名前をしているが、あるモノに惹かれた先祖が名乗りを上げたのが由来だとか、そうではないとか……。
真実は、光月本人も知らない。
そんな店員とゴリラに似合う眼鏡について話をしていた。
「――では、こちらはいかがでしょうか?」
光月が差し出したのは、ゴリラの黒い肌……毛皮に合った無難な黒縁フレームの眼鏡。
「ウホウホ」
ゴリラはそれを受け取ると早速掛けた。
目の前にある鏡へと近付き、前後左右に素早く動いたり、ジャンプしたりなど、ズレないかを確かめている。
「ウホ、ウホ、ウホ、ウホー!」
彼がかなり激しく動いているというのに、眼鏡は全くズレることはない。
その全てに感動し、ゴリラは子供のような笑みを浮かべていた。
「ウホウホー!」
すると、後ろにいたマリンが急に指示を出した。
「ゴリラさん、急に止まってみて下さい!」
ゴリラはその指示に従い、ピタッと動きを止めた。
フラミンゴのように片脚立ちになっている。
「ウホッ!」
マリンはそんな状態の彼に真剣な表情で話し掛ける。
もちろん、鏡越しでだ。
「ゴリラさん、どんな感じですか?」
「ウホウホ!」
「そうですか、いい感じですか――」
1頭と1人のやり取りを見ていたやり手社員、光月にも緊張が走った。
それは当然のことだった。
今までノークレーム・ノーリターンのお客様ファーストを貫いてここまできたというのに、ここに来て不快な思いをさせてしまったかも知れないと思ったからだ。
なので、すぐさま左隣にいるマリンへと声を掛けた。
「お、お客様どうかされましたか?」
「いえ、ゴリラさんが急に止まったらどうなるのかな? って思っただけです……すみません! 急に声をあげてしまい」
「あははっ、そうでしたか! それなら問題ありませんよ。私共の眼鏡はズレないブレないというのが、一番の売りですので」
2人が会話をしている横で、ゴリラは動きを止めたままだ。
鏡越しに会話をしている2人の様子を見ていたが、純粋な彼は、マリンの指示がまだ続いていると思っていた。
太い首を無理やり捻り、彼らに声を掛ける。
「ウホウホ?」
しかし、マリンと光月はゴリラに似合う眼鏡はどれなのかという話に夢中だ。
本ゴリラは、鏡の前で自らの体重と戦っているというのに。
「――確かにここまでズレないなら、トレーニングをしている最中でも問題なさそうですね……」
「――そうですね。一般的なトレーニングであれば何の問題もないかと思います」
「では、あとはゴリラさんに似合うのか、どうかですよね……」
「あはは……今の物では満足頂けないでしょうか?」
「いえいえ、とても素敵なのですけれど……ゴリラさんが元来持っている。可愛さとか……格好良さとか……その色々な魅力を引き出せないのかな? と」
「なるほど……」
だが、その彼もさすがに体重155kgを右脚だけで支えることはできず、ひとりでに硬直を解く。
「ッホウ!」
ゴリラが膝を着いたというのに、似合う似合わないの話に花を咲かせる2人は、気付く様子もない。
これが普通の人間なら、ショックを受けるだろう。
しかし、彼は心優しきインテリゴリラ。
寧ろ楽しそうに会話をする2人を見て幸せな気持ちになっていた。
ゴリラは笑みを浮かべながら、マリンと光月を横目にゆっくりと立ち上がり、その会話を邪魔しないように多機能眼鏡が置かれているブースへと足を踏み入れた――。
☆☆☆
――多機能眼鏡のブース前。
時刻【11時40分】
「ウホ!」
ゴリラは自分に似合う物がないか、気になる物がないのかを探し回っていた。
「ウホ!?」
すると、その視線の先に運命の出逢いと言えるものがあった。
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