上 下
23 / 63
本編

第23話 いざ、ショッピングモールへと!

しおりを挟む

 時刻【11時10分】
 大型ショッピングモール内、1階。

 この階は、パン屋・花屋・テイクアウト専門の店があり、提供しているスーパーなどがある階。

 また、お昼時ということもあり、周囲には食欲をそそる焼いた小麦の香ばしい匂いが漂う。

 普段は、大阪のお土産を求める観光客で溢れかえっているが、この日は日曜日ということもあり、観光客よりも地元の家族連れや恋人たちがたくさん訪れていた。

「えーっと、お店の場所は2階でしたよね?」
「ウホ、ウホウホ!」
「さすが、ゴリラさんです! 事前に調べていらしたんですね」
「ウホウホ!」
「うふふっ、では2階に向かいましょうか」

 ゴリラとマリンは、入口付近にある花屋、その隣にある香ばしい匂いを漂わすパン屋を通り過ぎていく。
 すると、突然マリンが足を止めた。

「あっ!」

 ゴリラは急に歩みを止めた彼女を不思議そうに見つめる。

「ウ、ウホ!?」
「す、すみません! 突然声をあげてしまい」
「ウホウホ」
「その……ふと思ったのですが……私たち、2階に行くと言いながらエスカレーターの場所を知りませんよね……」
「……ウホ」

 マリンの的確な指摘を受けて、彼は頷きながらも周囲を見渡す。

「ウホウホ」

 店の場所はスマホで見て把握していたが、エスカレーターの位置までは調べていなかった。

 ゴリラは太い首を素早くキョロキョロと動かし焦る。

「ウホウホ!」

 それと同じように彼女もキョロキョロと細い首を動かす。

「エスカレーター……どこでしょうか?」

 彼は見つけた。

 追い求めていたエスカレーターを。

 隣にいるマリンよりも先に。

「ウホゥ……ウホッ――」

 ゴリラが、嬉しさのあまりドラミングをしそうになったその時――。

 隣にいた彼女がその異変にすぐさま気付き、寄り添うと背中をさすり優しく声を掛ける。

「ゴリラさん、ヒッヒッフーです」

 そのアドバイスを受けたゴリラは、「ヒッヒッフー」と繰り返し呼吸を整えていく。

 そして、落ち着きを取り戻すと、助けてくれたマリンへとお辞儀をした。

「ウホゥ」

 その表情は申し訳ない気持ちが全面に出ている感じだ。
 肩を落とし、立派な眉毛も垂れ下がり口だってへの字になっている。

「ウホウホ……」
「大丈夫ですよ! そんな時もありますから」
「ウホウホ……?」
「はい、そうですよ! 私も嬉しいことがあったら叫んじゃいますし」
「ウホウホ」
「ですよ! それに、もう完全にバナナ無しでも落ち着けていますよね? それって凄い成長ですよ!」

 ゴリラは、彼女の「凄い成長」という言葉のおかげで、すぐ立ち直っていた。

 それは、会社での立場上、部下や後輩に成長したという言葉を掛けることはあっても、言われることなんてもうほとんど無くなっていたから。

 だから、マリンが何気なく発した「凄い成長」という言葉が彼に響いたのだ。

 先ほどのブルーゴリラから、立ち直ったレッドゴリラは彼女に優しく微笑み掛ける。

「ウホウホ」

 そんな子供のように、純粋で無邪気な反応にマリンもまた自然と笑みがこぼれた。

「うふふ、はい行きましょうか」
「ウホー!」

 ようやく彼らはエスカレーターで2階へと向かった――。



 ☆☆☆


 ――10分後。

 時刻【11時20分】

 エスカレーター付近のファッション雑貨店の前。

「この並びの端ですね」
「ウホウホ」

 ゴリラとマリンは、近くに設けられたフロアマップを見ながら話をしていた。

「うんうん、これなら迷うことはなさそうですね」
「ウホ、ウホウホ!」
「いえいえ、では行きましょうか」
「ウホ!」

 フロアマップのおかげでショップの場所に目星をつけた彼らはまた足を進め始めた。

 ちなみに、ゴリラがなぜエレベーターを選ばなかったのかは、ゴリラ特有の巨躯が招いたある出来事が原因だった。

 実際、過去に何があったのかというと身長185cm、体重155kgということもあり、彼がエレベーターに乗ろうとすると重量オーバーを知らせるブザーが鳴ることが多かったから。

 ここで面の皮が厚い人間なら、降りることを躊躇ためらうが、心優しきゴリラである彼にはそれが出来なかったのだ。

 その上、大きな体の自分が乗ったことで本当に使いたい人たち(子連れや、お年寄り、体が不自由な方)が利用出来なくなるのも嫌だったというのもある。

 なので、初めから選択肢はエスカレーターか階段しかなかった。

 また、面白いことにゴリラの隣にいるマリンも同じ価値観を持っていたのだ。

 だから、彼がエレベーターを探していることに何の疑問も抱くことなく、自分も同じように探していた。

 それは、彼女が慕っている早乙女臣さおとめじんとの日々が招いた偶然なのか……? それとも必然なのか? わからないが、1頭と1人は絶妙にすれ違いながらも相性はバッチリだ。

 しかし、当の本ゴリラと本人は気付くわけもなく、他愛もないバナナ話とジムの話をしながら、眼鏡ショップへと向かっていく。

「――ウホウホ?」
「――はい、今は血糖値が上がりにくいバナナもあるんですよ」
「ウホゥ!」
「そうなんですよ、私も見つけた時はびっくりしました!」
「ウホウホ?」
「名前ですか……えーっと待って下さいね――」
「ウホウホ――」


 ――ゴリラとマリンがこんなふうに会話をしながら、足を進めること5分後。

 時刻【11時25分】

「――あ、もう着いちゃいましたね」
「――ウホウホ!」

 目的地である眼鏡ショップに着いた。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。

光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。 昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。 逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。 でも、私は不幸じゃなかった。 私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。 彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。 私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー 例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。 「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」 「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」 夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。 カインも結局、私を裏切るのね。 エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。 それなら、もういいわ。全部、要らない。 絶対に許さないわ。 私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー! 覚悟していてね? 私は、絶対に貴方達を許さないから。 「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。 私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。 ざまぁみろ」 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

処理中です...