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本編
第21話 やっぱり犬と犬は仲良し
しおりを挟む――ゴリラが公園を去って5分後。
時刻【11時20分】
残された1人と1匹は、ようやく初となる一対一のコミュニケーションを取り始めていた。
慣れない犬相手のコミュニケーションにぎこちない動きを見せる犬太。
その手には、秘密兵器であるバナナ先輩が握られている。
『よ、よぉし! じゃあさんたろうさん、これで遊びますか!』
それをキラキラした瞳で見つめるさんたろう。
反射的にフサフサの尻尾も揺れている。
この反応は純粋な期待。
バナナ先輩を投げるのか? それとも引っ張り合いをするのか? いや、もっと他の楽しいことをするのか? こんなふうに犬太がどうやって遊んでくれるのかを想像しただけで、ワクワクを抑えられなくなり、それが表に出てしまっていたのだ。
そんなさんたろうは、犬太の動きから引っ張り合いだと推理してバナナ先輩に噛み付く。
『アン!』
『あ、さんたろうさん! ちょ、ちょっと!』
これが、1人と1匹の仁義なきバナナ先輩を巡る戦いの幕が上がった瞬間だった――。
☆☆☆
――そして、その25分後。
時刻【11時30分】
今のような状態へとなっていったのだ。
「はぁ……も、もう……限界っす」
「グルルルゥ! グルル」
頭を垂れ、何とかバナナ先輩を握っている犬太に対して、さんたろうは何かに取り憑かれたように激しく頭を振っている。
「ガルルゥ!」
これはごくごく自然な反応で”噛む”引っ張る”などの動作を繰り返したことで、さんたろうの中に眠る犬の狩猟本能が刺激を受けて起きたこと。
そんなことを知らない犬太は、野性味を帯びたさんたろうを前に理解が及ばず、精根尽き果てかけてした。
左右に振られる先輩と一緒に動く犬太。
「……もう……すみません、主任……」
彼が諦めかけたその時――。
後ろから出てきた黒い大きな手が、バナナ先輩を掴んだ。
それでも怯まずさんたろうは、引っ張り続ける。
「ガルルゥ!」
だが、その行為を注意する「ウホウホ」という声が聞こえると、さんたろうは、先ほどのことが嘘のように大人しくなり、バナナ先輩を噛むのをやめた。
そして、犬太の後ろに向かって元気良く吠えると、嬉しそうに舌を出して尻尾も勢いよく振っている。
「アンアン!」
その先には、ゴリラがいた。
彼はこの絶妙なタイミングで、桃子からのお願いを終えがタコ公園へと戻って来たのだ。
「しゅ……にーん、助かりましたぁー。本当に」
「ウホウホ」
「あはは、ありがとうございます……」
さんたろうは、犬太とゴリラの周囲で嬉しそうに駆け回っている。
「アンアン!」
そんな元気100倍なさんたろうに対して、犬太は疲労困憊と言ったところだろう。
バナナ先輩とリードを握る手には、全く力が入っておらず、顔にも悲愴感が漂っている。
「――でも、バナナ……先輩が……」
それもそのはずで、先ほどまで新品だった先輩の体には、さんたろうのよだれがべったりとつき、全体的に伸びてしまったことにより、ニヒルな笑みではなく、満面の笑みを浮かべていたからだ。
これだけでも、十分辛いのだがそれだけではなかった。
それはこの激闘により、縫い付けられていたサングラスも横にズレてしまい、本来見えるはずのないバナナ先輩のつぶらな瞳がこんにちは状態となっていたのだ。
だから、犬太はこの戦いを終えたというのに悲愴感を漂わせていた。
ゴリラは、その落ち込んでいる部下へと何かを差し出す。
「ウホウホ!」
「――えっ!? 主任? これって……」
驚く犬太の視線の先には、新品のバナナ先輩があった。
「ウホ!」
「い、いんですか! 頂いても」
「ウホ、ウホウホ」
「僕へあげる為にっすか……本当にありがとうございます」
「ウホ!」
ゴリラは、こうなることを見越して帰りにコンビニへと寄り、バナナ先輩を購入してからこの場所に駆けつけてきたのだ。
これは、部下思いで、さんたろうのことをちゃんと理解しているからこそとれた行動。
なので、自身の前で頭を下げ続ける犬太へと新品でニヒルな笑みを浮かべるバナナ先輩を手渡し、その代わりに満面の笑みを浮かべている先輩を受け取った。
「ウホ」
「は、はい! ではどうぞっす」
「ウホウホ」
そして、それを足元で駆け回るさんたろうに差し出す。
「ウホ!」
すると、さんたろうはバナナ先輩を口で受け取り、器用な鼻使いを見せて自分の背中に乗せる。
「アンアン!」
その表情はとても満足そうな感じだ。
「さんたろうさん、嬉しそうっすね」
「ウホウホ?」
「もちろん、僕も凄く嬉しいっすよ!」
「ウホウホ!」
「大事にしますからね! 主任」
「アンアン!」
嬉しそうな表情で背中にバナナ先輩を乗せて駆け回るさんたろうと、大事そうに抱える犬太。
ゴリラは、そんなバナ友たちを見たことで幸せな気持ちになり、子供ような笑みを浮かべていた。
「ウホゥ」
――そして、この後。
お互いを理解し合えた彼らは、タコ公園で日が沈むまで遊び続けましたとさ。
ウホウホ
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