15 / 63
本編
第15話 その姿に重ねて
しおりを挟む
その姿に重ねて
――5分後。
時刻【10時20分】
ゴリラは、声を掛けてきたマリンに自身が困っている理由を説明していた。
「――ウホ、ウホウホ」
白色のテーブルの上にあった申し込み用紙をその手に取り持ちながらだ。
「なるほど……それで書けずにいたのですね……」
そんな彼の向かいに座るマリンは、真剣な表情でその話を聞き入れている。
これは、経験とある人からの教えから学んだ相手に寄り添う対応。
「でも、大丈夫です!」
彼女はそう言うと親指を立てて笑みを浮かべている。
まるで、自信たっぷりの時のゴリラのような仕草だ。
しかし、そんなマリンに対して彼は疑問に思っていた。
それは言うまでもなく、ゴリラにとって知りえない情報だから。
その上、会ったばかりの人間に何の根拠もなく「大丈夫です!」などと言われたところで、それを受け入れるほど、彼はお人好し……いや、おゴリラ好しではない。
なので、ゴリラはその太い首を傾げてながら、マリンに尋ねた。
ちゃんとした信頼性のある証拠をないのかをだ。
「ウホウホ……?」
そんな彼の一連の仕草が彼女のツボにはまったようで、突然、笑い声を響かせた。
「うふふっ! 大丈夫ですよ!」
その反応を見て「ムッ」とした表情を浮かべるゴリラ。
それはとても自然なことだった。
間違えた自分のことを嘲笑ったように感じたからだ。
とはいえ、彼は紳士であり、都会のジャングルを生き抜いてきたインテリ系ゴリラ。
当然、これくらいでは怒りのドラミングには至らない。
寧ろ、彼の頭の中では1頭の大人……いや、大ゴリラとして、ちゃんと注意をしてあげた方がいいのではないか?
ここで自分が悪者になってでも、この態度について言ってあげないと、マリンがどこかで嫌な思いをしたりするのではないのか? などが浮かんでいた。
これは、きっと犬太や様々な出会いの中で、生まれたお節介と言う名の親心といったところだろう。
だから、ゴリラは心をゴリラから子鬼程度にして注意をした。
いつもよりも威圧感のある低音ボイスでだ。
「ウホゥ!」
これが普通のスタッフであれば、その迫力に圧倒されてしまい、次の一言すら出てこないところなのだが、マリンは違った。
「すみません! 馬鹿にしたわけではないんです!」
ゴリラの迫力満点の姿に、物怖じすることなく、すぐさま自身が失礼なことをしたという事実を認めて、謝罪したのだ。
その姿につぶらな瞳をより一層丸くして関心するゴリラ。
「ウホゥ……」
しかし、ゴリラが色々なことを経て今があるように、マリンもまた初めからこうだったわけではなかった。
それはとある人物と出会った頃まで遡る――。
☆☆☆
――6年前の春。
関東の亀がトレードマークのとある店舗、スタッフルーム内。
大きさは6畳半ほどのそこまで大きくない一室。
そこには、2人掛けが出来るくらいの黒色の長机1台と椅子が3脚あり、その上にオンライン会議用のノートパソコンが1台があった。
あとは、その反対側に電子キーなどのセキュリティ関係のものが保管された鍵付きの棚が1つと、プリンターが1台あり、その隣にイベント用の景品などが入れられた段ボール箱が2つ置かれている。
ここで、マリンは入社してから、初めての異動を経験しようといていた。
理由は、責任者となる為に定められた条件を満たす為。
その条件は、入社して2年実務経験をした後、他店舗での実務を経験することだ。
『亀ちゃん、おはよう!』
異動手続きをする彼女に声を掛けるのは、短め白髪と年中半袖半パン姿が似合う御年102歳になる早乙女臣。
普通なら考えられないことだが、彼は102歳という年齢を度外視して、この店舗の責任者をしており、マリンの教育係を担当している。
体格は身長185cm、体重95kg。
好きな物は、バナナとプロテイン。
嫌いな物は、桃と老化。
その肌は日焼けの為に黒く、筋骨隆々な人物。
まさしく、ほぼゴリラの人間だ。
その昔、海で名を馳せた人物子孫だとか何だとか……真実は誰も知らない。
『あ、おはようございます! 臣さん!』
臣は、いつものように笑顔を咲かせるマリンの頭を優しく撫でる。
『おう! ガハハハッ、今日も元気でそうでなによりだ』
『えへへ! 私は元気が取り柄ですので!』
『うんうん! 一番大切なことだからな!』
『はい! って、そのビニール袋! 今日もバナナ食べてきたんですか?』
彼女が指差すその手には、酸化し黒ずんだバナナ皮が1つ入っている透明なビニール袋が握られている。
臣はゴリラのように白い歯を見せ応じた。
『おう! プロテインもばっちりだ!』
バナナを食べるということは、当たり前だと言うわんばかりの勢いよく立てた親指付きの返事。
そして、ひと息つくとスタッフルームにあるカレンダーを見てから身支度をするマリンへと視線を向けた。
『ふぅ――それにしても亀ちゃんがここに来て2年か……”時間が流れるのは早いな”……』
自分が口にした言葉でダメージを負い頭を垂れる臣。
『んもう! 臣さんそればっかりじゃないですか?!』
マリンは、それを頬を膨らませながら指摘する。
この関係は、血こそ通ってはないが親子といったところだろう。
ただ、初めからこうではなかった。
これは臣がマリンを気遣ってきたからこそ築かれたものだ。
2年の間マリンが変な客に言い寄られていた時は、スタッフルームから刺さるような視線を送り撃退し。
女性ということで馴れなれしく接してくる人には、その近くに行き、持ち前のゴリラ並みの体格を生かした無言の圧をかけて、全力で排除してきた。
『いや、いや、歳を取るとな……ついつい――』
臣は背中を丸めて落ち込む。
『ほらー! そう言ってまた自分で落ち込むじゃないですか!』
『ガハハハッ! すまん、すまん! でも、立派になったな! 頑張ってこいよ!』
彼は豪快に笑い声を響かせると、娘のように思うマリンの肩を押した。
『ちょっと痛いですって!』
それを受けた彼女は「ムスッと」した顔を浮かべている。
だが、対する臣はその姿を見て少し誇らしげな表情をしていた。
『ハハハッ! そう言うが、全くよろけてないじゃないか! この2年で体幹もしっかりとしているな』
それはまるで娘の成長を喜ぶ父のような眼差しと言ったところだろう。
『は、はい……おかげさまです』
マリンは頬を赤く染める。
彼女が『おかげでさま』というように、この2年の間で、どこに行こうとも問題が無いよう鍛えられていたのだ。
『フフッ、そうか! 負けずにな』
臣は大きな拳を突き出す。
マリンもそれに応えるように拳を突き出した。
『はい! では、行ってきます!』
臣は嬉しそうに白い歯を見せると、もう一度マリンの背中を優しく押した。
『おう! 行ってこい』
――こうして、この後。
マリンは初めての異動をする運びとなり。
そこから6年間。
2ヶ月周期で、全国各地のジムを周り様々な経験を積んでいった。
初めこそ横柄な態度で接してくる人、挨拶を返そうともしない人やマナーを守ろうしない人などに戸惑っていたが、臣により鍛えられたことで、心の芯はほぼゴリラと化していたのだ。
まさに子は親に似るといったところだろう。
だから、今語気を強めるゴリラを目のあたりにしても、物怖じをすることはなく。
寧ろその姿や動きに臣の姿を想像してしまい、ついつい笑い声をあげてしまったのだ。
――5分後。
時刻【10時20分】
ゴリラは、声を掛けてきたマリンに自身が困っている理由を説明していた。
「――ウホ、ウホウホ」
白色のテーブルの上にあった申し込み用紙をその手に取り持ちながらだ。
「なるほど……それで書けずにいたのですね……」
そんな彼の向かいに座るマリンは、真剣な表情でその話を聞き入れている。
これは、経験とある人からの教えから学んだ相手に寄り添う対応。
「でも、大丈夫です!」
彼女はそう言うと親指を立てて笑みを浮かべている。
まるで、自信たっぷりの時のゴリラのような仕草だ。
しかし、そんなマリンに対して彼は疑問に思っていた。
それは言うまでもなく、ゴリラにとって知りえない情報だから。
その上、会ったばかりの人間に何の根拠もなく「大丈夫です!」などと言われたところで、それを受け入れるほど、彼はお人好し……いや、おゴリラ好しではない。
なので、ゴリラはその太い首を傾げてながら、マリンに尋ねた。
ちゃんとした信頼性のある証拠をないのかをだ。
「ウホウホ……?」
そんな彼の一連の仕草が彼女のツボにはまったようで、突然、笑い声を響かせた。
「うふふっ! 大丈夫ですよ!」
その反応を見て「ムッ」とした表情を浮かべるゴリラ。
それはとても自然なことだった。
間違えた自分のことを嘲笑ったように感じたからだ。
とはいえ、彼は紳士であり、都会のジャングルを生き抜いてきたインテリ系ゴリラ。
当然、これくらいでは怒りのドラミングには至らない。
寧ろ、彼の頭の中では1頭の大人……いや、大ゴリラとして、ちゃんと注意をしてあげた方がいいのではないか?
ここで自分が悪者になってでも、この態度について言ってあげないと、マリンがどこかで嫌な思いをしたりするのではないのか? などが浮かんでいた。
これは、きっと犬太や様々な出会いの中で、生まれたお節介と言う名の親心といったところだろう。
だから、ゴリラは心をゴリラから子鬼程度にして注意をした。
いつもよりも威圧感のある低音ボイスでだ。
「ウホゥ!」
これが普通のスタッフであれば、その迫力に圧倒されてしまい、次の一言すら出てこないところなのだが、マリンは違った。
「すみません! 馬鹿にしたわけではないんです!」
ゴリラの迫力満点の姿に、物怖じすることなく、すぐさま自身が失礼なことをしたという事実を認めて、謝罪したのだ。
その姿につぶらな瞳をより一層丸くして関心するゴリラ。
「ウホゥ……」
しかし、ゴリラが色々なことを経て今があるように、マリンもまた初めからこうだったわけではなかった。
それはとある人物と出会った頃まで遡る――。
☆☆☆
――6年前の春。
関東の亀がトレードマークのとある店舗、スタッフルーム内。
大きさは6畳半ほどのそこまで大きくない一室。
そこには、2人掛けが出来るくらいの黒色の長机1台と椅子が3脚あり、その上にオンライン会議用のノートパソコンが1台があった。
あとは、その反対側に電子キーなどのセキュリティ関係のものが保管された鍵付きの棚が1つと、プリンターが1台あり、その隣にイベント用の景品などが入れられた段ボール箱が2つ置かれている。
ここで、マリンは入社してから、初めての異動を経験しようといていた。
理由は、責任者となる為に定められた条件を満たす為。
その条件は、入社して2年実務経験をした後、他店舗での実務を経験することだ。
『亀ちゃん、おはよう!』
異動手続きをする彼女に声を掛けるのは、短め白髪と年中半袖半パン姿が似合う御年102歳になる早乙女臣。
普通なら考えられないことだが、彼は102歳という年齢を度外視して、この店舗の責任者をしており、マリンの教育係を担当している。
体格は身長185cm、体重95kg。
好きな物は、バナナとプロテイン。
嫌いな物は、桃と老化。
その肌は日焼けの為に黒く、筋骨隆々な人物。
まさしく、ほぼゴリラの人間だ。
その昔、海で名を馳せた人物子孫だとか何だとか……真実は誰も知らない。
『あ、おはようございます! 臣さん!』
臣は、いつものように笑顔を咲かせるマリンの頭を優しく撫でる。
『おう! ガハハハッ、今日も元気でそうでなによりだ』
『えへへ! 私は元気が取り柄ですので!』
『うんうん! 一番大切なことだからな!』
『はい! って、そのビニール袋! 今日もバナナ食べてきたんですか?』
彼女が指差すその手には、酸化し黒ずんだバナナ皮が1つ入っている透明なビニール袋が握られている。
臣はゴリラのように白い歯を見せ応じた。
『おう! プロテインもばっちりだ!』
バナナを食べるということは、当たり前だと言うわんばかりの勢いよく立てた親指付きの返事。
そして、ひと息つくとスタッフルームにあるカレンダーを見てから身支度をするマリンへと視線を向けた。
『ふぅ――それにしても亀ちゃんがここに来て2年か……”時間が流れるのは早いな”……』
自分が口にした言葉でダメージを負い頭を垂れる臣。
『んもう! 臣さんそればっかりじゃないですか?!』
マリンは、それを頬を膨らませながら指摘する。
この関係は、血こそ通ってはないが親子といったところだろう。
ただ、初めからこうではなかった。
これは臣がマリンを気遣ってきたからこそ築かれたものだ。
2年の間マリンが変な客に言い寄られていた時は、スタッフルームから刺さるような視線を送り撃退し。
女性ということで馴れなれしく接してくる人には、その近くに行き、持ち前のゴリラ並みの体格を生かした無言の圧をかけて、全力で排除してきた。
『いや、いや、歳を取るとな……ついつい――』
臣は背中を丸めて落ち込む。
『ほらー! そう言ってまた自分で落ち込むじゃないですか!』
『ガハハハッ! すまん、すまん! でも、立派になったな! 頑張ってこいよ!』
彼は豪快に笑い声を響かせると、娘のように思うマリンの肩を押した。
『ちょっと痛いですって!』
それを受けた彼女は「ムスッと」した顔を浮かべている。
だが、対する臣はその姿を見て少し誇らしげな表情をしていた。
『ハハハッ! そう言うが、全くよろけてないじゃないか! この2年で体幹もしっかりとしているな』
それはまるで娘の成長を喜ぶ父のような眼差しと言ったところだろう。
『は、はい……おかげさまです』
マリンは頬を赤く染める。
彼女が『おかげでさま』というように、この2年の間で、どこに行こうとも問題が無いよう鍛えられていたのだ。
『フフッ、そうか! 負けずにな』
臣は大きな拳を突き出す。
マリンもそれに応えるように拳を突き出した。
『はい! では、行ってきます!』
臣は嬉しそうに白い歯を見せると、もう一度マリンの背中を優しく押した。
『おう! 行ってこい』
――こうして、この後。
マリンは初めての異動をする運びとなり。
そこから6年間。
2ヶ月周期で、全国各地のジムを周り様々な経験を積んでいった。
初めこそ横柄な態度で接してくる人、挨拶を返そうともしない人やマナーを守ろうしない人などに戸惑っていたが、臣により鍛えられたことで、心の芯はほぼゴリラと化していたのだ。
まさに子は親に似るといったところだろう。
だから、今語気を強めるゴリラを目のあたりにしても、物怖じをすることはなく。
寧ろその姿や動きに臣の姿を想像してしまい、ついつい笑い声をあげてしまったのだ。
11
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。
光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。
昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。
逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。
でも、私は不幸じゃなかった。
私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。
彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。
私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー
例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。
「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」
「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」
夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。
カインも結局、私を裏切るのね。
エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。
それなら、もういいわ。全部、要らない。
絶対に許さないわ。
私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー!
覚悟していてね?
私は、絶対に貴方達を許さないから。
「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。
私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。
ざまぁみろ」
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる