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本編
第8話 半休の過ごし方
しおりを挟む意見が一致した1匹と1頭は思う存分、公園での時間を満喫していった。
初めは、全力で走り回りたい気持ちを抑えて赤煉瓦で舗装された通路を流れる風を感じながら、のんびりと歩き。
次は一緒に道の脇に咲いているたんぽぽの数を数えたり、近所のわんこ達の情報を収集したりなどを。
その後は、藤の花が咲いている場所へ向かい甘く爽やかな匂いを満喫しながら日光浴をして。
☆☆☆
――そして、今。
時刻【14時30分】
彼らは、遊具のない隣のグランドにいた。
桃色のリードを丸太のような首に通し四足歩行で、砂煙をあげならグランドを走るゴリラ。
その手に持っていたベンティサイズの容器は、公園のゴミ箱へ捨てるわけに行かないので口に加えている。
「ウホー!」
その後方で目を輝かせながら、小さな手足を懸命に動かし追いかけるさんたろう。
「アンアン!」
これがただの野生ゴリラであれば、さんたろうの動きを確認などはしない。
だが、彼は都会のジャングルで働いてきたインテリゴリラ。
気遣いの化身、思いやりの権化、霊長類最強の生物。
そう、ただのゴリラではない。ゴリラなのだ。
こうやって走るのも、後ろで嬉しそうに舌を出して走るバナ友の為。
だから、ちゃんとさんたろうに付けているリードが引っ張り過ぎていないか、確認しながら動いていた。
「ウホ!」
「アン!」
一方、さんたろうもなんのストレスもなく、全力で駆けることが出来て満足だった。
それは自分が想像していたよりも、ずっと楽しくずっと幸せな時間を過ごせていたから。
もちろん、飼い主である桃子とする散歩も楽しいし、なんのストレスもなかった。
しかし、彼女との間柄はあくまでも飼い主と愛犬という関係。
なので、こうやってなんの気遣いもなく対等な友達として遊ぶのは久しぶりだった。
これは桃子の家に初めて来た時以来のことだ。
同時に、この時間がずっと続いてほしいと心から思っていた。
「アン!」
さんたろうは、ゴリラを見つめて大きく尻尾を振る。
この1匹の犬の気持ちは、しっかりと彼へと届いていた。
ゴリラは、その想いの籠った鳴き声に足を止めさんたろうの元へとゆっくりと歩いて行った。
「ウホウホ」
「アン?」
そして、大きく太い腕で優しく抱き抱えると顔をすり寄せた。
「クゥーン……」
「ウホ……」
1匹と1頭は、全く同じ気持ちだった。
ずっと一緒に遊びたいと思っていたのだ。
しかし、楽しい時間と言うものはあっという間で、瞬く間に時間が過ぎていった――。
☆☆☆
――30分後。
時刻【15時00分】
遊び疲れた1匹と1頭は、白いベンチでくつろいでいた。
「……ウホ」
ゴリラは空に浮かぶ雲を眺めている。
その左手には空っぽとなったベンティサイズの容器。右手には桃色のリードを持ち、膝の上には丸まり寝息を立てているさんたろうがいる。
すると、後ろから声が聞こえた。
「ゴリラさんー! さんたろうー!」
――その声が聞こえた瞬間。
さんたろうは飛び起きて膝をおり、その声の主の方へと視線を向けた。
「アンアン!」
また、ゴリラもその動きに合わせて、リードが絡まないようにし振り向く。
そこには、町内会長の山川桃子ではなく、すももが立っていた。
薄手の桃色をしたロンTにメロン色をした七分丈、くるぶし丈の靴下。
それに桃が左右に1個ずつプリントされた白色のスニーカーを履いたおり、肩には桃子が持っていたコーヒーショップのエコバッグを掛けている。
彼女は、予定会議が終わらない桃子に代わりさんたろうを迎えにきたのだ。
なにはともあれ、もうお別れの時間となっていた。
「……ウホ」
ゴリラは、複雑な気持ちを抱いていた。
時間通りお迎えが来たことはとてもいい事なのに、どうしてか寂しい気持ちになっていたのだ。
そんな彼の様子に気が付いたのか、彼女はエコバッグから何かを取り出しゴリラへと手渡した。
「ゴリラさん、その……ありがとうございます……」
これは、すももがお礼にと買ってきた彼の好物で、休日の3時のおやつタイムのお供。
ココナッツオイルで揚げた自然な甘みが特徴のバナナチップスだ。
「……ウホ?」
「はい……今日のお礼です」
「ウホ!」
「いえいえ……お礼はこちらこそですし、さんたろうも楽しかったみたいですので……」
「アン!」
「ふふっ、良かったね……さんたろう。では、私たちは家に帰ります」
彼女の「帰ります」という言葉を聞いて見るからに落ち込むゴリラ。まるで、家に帰りたくない子供のような表情をしていた。
「ウホ……」
その姿を見ていたすももは、彼へと言葉を投げかけた。
一発で気持ちを晴れやかにする言葉を。
「えーっと……その……来ますか? うちに?」
「ウホ?!」
「は、はい……祖母も喜ぶと思いますし」
彼女の提案を受けてゴリラは歓喜のドラミングをしていた。
「ウホウホ! ウホウホ!」
でも、歓喜の声をあげたのは、彼だけではなかった。
その足元にいた小さなバナ友のさんたろうもだ。
「アンアン! アンアン!」
ゴリラの真似をして二足歩行をし、同じようにドラミングらしき仕草をしている。
やはり、彼らの気持ちは同じだった。
そんな1頭と1匹の姿を目の当たりしたすももは口元を抑えて必死に笑いを堪えていた。
「ふふっ……ふっ。2人とも大袈裟ですよ……」
「ウホウホ!」
「アンアン!」
「はい、そうですね。一緒がいいです……ですが……ふふっ」
その言葉に同時に答える1匹と1頭。
「アン!」
「ウホ!」
「……ふふっ。では、お家にれっつごー」
「ウホー!」
「アン!」
こうして、2匹と1人は微笑み合いながら山川家へと向かった――。
☆☆☆
――その後、住宅街には、笑いをこらえる人間の姿と小躍りするゴリラの姿、それに続く紅色のポメラニアンの姿が見られましたとさ。
ウホウホ
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