俺は全ての魔術をぶち壊す 〜【魔術回路】を持たない無能、親に捨てられ、仲間に騙され【反魔術】に覚醒。金髪エルフと理想の国をつくる〜

山崎リョウタ

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第一話① 生きるために

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「はあ……これで九度目か……」
 肩を落としとぼとぼと歩くアレン。ぶつぶつと言葉をこぼしながらムサンジーノの街中を広場へと向かっていた。

「やっぱりダメなのか……?」
 アレンは探窟家組合のパーティー募集に九度も応募した。
 だが、その度に返ってくるのは、
「魔術回路のないやつとパーティー組やつなんているかよ」
 という言葉と、シッシッと虫を払うような仕草だったのだ。

「……このままじゃ……死ぬ……」

 せめて水を、とやっとの思いで広場の噴水にたどり着き、顔を突っ込むようにして水を飲む。
 ふぅ――と一息つくと、水面には白髪に碧眼の――やつれきった少年の顔が映されている。

「ははっ……ひどい顔……」

 思わず乾いた笑いがこぼれた。

 噴水にかぶりつくアレンの姿は人通りの多い広場にあって異端で異質。背には冷ややかな視線ばかりが向けられていたが、その他にもう一つ、アレンに向けられたものがあった。

「おい、あんた。そんな水なんて飲まないで魔術で出したらどうだ?」
 無精髭を生やし、髪もボサボサ。ボロくさいローブを羽織った男が怪訝けげんそうな顔でアレンを覗き込んだ。

 アレンの行動を目にした者なら誰もが抱く疑問――なのだが、それが出来たら、ここまでの苦労はしていない。

「あー……その……ないんだ。魔術回路が」

「そうか、それでか。しかし魔術回路がないなんて、そんなやついるんだな」

「――世にも珍しいことに、世界で僕一人だろうね。だけどまあ、そのおかげで死にかけだけどさ……」
 誰もが魔術回路を持ち、魔術がありふれた世界――魔術回路を持たないアレンにとって受難の世であった。
 そして俯きながらこうも続けた。

「これまで生きてこれたのは厚い庇護があったからだと実感したよ。だけど、それも無くなってしまってね。最後の希望・・・・・として探窟家を志してみたのだけど、それすらも叶わず……ね」

「……そうか。詳しい事情まではわからんが――その背負った物大剣は多少なりとも使えるのだろ? ならうちのパーティーに入ってみないか? 魔術がなくとも敵の注意・・・・くらい引けるだろ。ちょうどもう一人、メンバーを探しててよ」

 あわれみからか、それとも興味本位からの言葉だろうか。ただ、差し伸べられた手を断る理由など、アレンにはなかった。
「も、もちろん! 下手な魔術師よりも役に立つ自信はある!」

 思いもよらぬ提案に、飛びかかるほどの勢いで反応した。
 男は苦笑いを浮かべながら、アレンをなだめる。

「まあ落ち着け。あんた――名前は?」

「アレン……ただのアレン」

「俺はヘクトル・マースだ。じゃあ早速遺跡へ向かってみるか? 街から少し離れるが、その分人も少ない。稼ぐにはもってこいの場所があるんだ。他のメンバーは先に向かって準備しているんだが――」
 そう話したヘクトルの片頬は、わずかに笑みを浮かべているようであった。

 ☆

 二人は街から数日ほど離れたトロンボ遺跡にたどり着いていた。
 鬱蒼とした森の中に突如として現れた人工構造物群。石造りの建物らしきものが多数集まり、さながら巨大な街を形成するかのごとく。立ち腐れるさまは、それらがどれほどの時代を経てきたのか、考えることすらはばかられるほどであった。

 そこでヘクトルのパーティーメンバー、獣人族の女ミリム・アデレードとヘクトルと同じ人族の女リリィ・ミンス
 と合流。四人揃ったパーティーは、ある建物から地下へと入っていった。

 ヘクトルの言葉どおり、他のパーティーの姿はなく――現れるのは、遺跡に棲みついた小型の魔獣や、遺跡を守る自律型守護者オートマタばかり。

 一行はそれら障害をなぎ倒し、魔石を剥ぎ取りながら、アリの巣のように広がる坑道を下へ下へと向かって進んでいった。

「お前、中々やるにゃ」
「物理的な武具をまともに扱える人なんて、今時ほとんどいないのにねー」
 ミリムとリリィは感嘆の吐息を漏らしながらそう話した。

魔術人形ゴーレムなり魔術なりで敵の動きを束縛して、俺ら魔術師は安全地帯から高火力で殲滅する――てのが今の主流だからな。敵に接近しなくちゃなんねえ武具なんてもんを好き好んで使うやつなんて、宮廷魔術師クラスの実力者か、一部の物好きしかいねえからな」

「古い書物を参考にしてずっと鍛えてきたんだ――魔術回路のない僕だからこそ、いつか必ず役に立つ日が来るって……ある人・・・に言われていたから」

 アレンの役割は、最前線に立ち、敵の注意を惹きつけること――つまりは束縛の役割を担っていた。
 敵の攻撃を大剣で受け止め、隙をついてすかさず反撃。その一連の動きはあまりにも鮮やかで、ヘクトルたちの目を奪うほど。
 それはアレンが何年も掛けて鍛え上げた膂力りょりょくと剣技、そして身のこなしの成せる技だった。

「なるほどねー。じゃあその人に感謝しなきゃだねー」

 そしてそんな話をしていると、一行の視界に巨大な扉が入り込んできた。

 絢爛豪華けんらんごうかな装飾が施されたその扉は、無機質な坑道の中にあって、中々に異質。

「――っと、見えてきたぞ。あれが今回の目的地、万古に栄えたとうたわれる神々を祀るまつる神殿への入り口だ」

「おっきいにゃ」

「……この先に……」

「ああ、そうだ。神殿の中に巨大な魔石があるって話なんだが――そこには強力な魔獣を使役した守護者がいる。だから、まずは全力でそいつを叩く。そのあとでゆっくりと魔石をいただく。いいな?」

「はいにゃ」
「わかったよー」
「……わかった」
 緊張した面持ちのアレン。それに対し、ミリムとリリィは飄々ひょうひょうとした軽い返答だった。

 アレンにとっては、強敵との初めての対峙。緊張するのも当然ではあるが――そんなことはお構いなしに、ヘクトルは扉に手を掛ける。

「よし、いくぞ」
 その言葉と共に扉を開くヘクトルの片頬は、ニヤリと吊り上がっていた。
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