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プロローグ 突然の勘当
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「父様! 男の子でしたか? それとも――」
黒髪の少年――アレンは声高らかに、扉を開けた。そこは父であり、イレブン伯爵領の領主である――マクレガー・イレブンの居室。
顔一面に広がった笑みは、その興奮の度合いを示すかのよう。
アレンにとって初めての弟妹の誕生に、喜びが理性を超えていたのだった。
しかし、それとは対照的に、執務机に座するマクレガーの表情は冷たかった。
品のある黒髪に立派な髭を携えた男は、冷めた視線をアレンに送り、こう告げた。
「アレンか――私からもちょうどお前に話があったのだ」
「なんでしょう?」
弟妹のお祝いの話かな? あ、それとも母様へのねぎらいをどうするかの相談とかかな?
アレンはあれやこれやと、頭をフル回転させ思案した。
しかし、マクレガーから発せられたのは、そのどれとも異なる言葉だった。
「いまこの時を持って、お前をイレヴン家から勘当する。二度と我が領地に踏み入ることは許さん」
「…………え?」
「子宝に恵まれなかった故、捨て子であったお前を実子と偽って育てきた。だが、たったいま本当の実子が生まれた……これが何を意味するか、わかるか?」
「捨て……子? 一体なんのお話を……」
聞き返す声が震えた。
確かに、アレンは髪の色はおろか、瞳の色すら父母と異なっていた。
ただ、それは突然変異的なものが原因だと教えられていたし、アレンが疑う理由などなかった。
それに親子仲も良好で、誰の目から見ても自然な親子だったはずが――
「せめて魔術回路があれば他の使い道もあったが、それすらないお前の存在価値は無――つまり、お前はもう用無しなのだよ」
「用無し…………? ですが父様! 父様は『魔術回路なんてなくてもアレンはアレンだ』といつも言ってくださったではないですか! 僕は父様のあの言葉にいつも勇気をもらっておりました……あの言葉が嘘だったなど僕には信じられません……」
「信じたくなければ信じなくて結構。いずれにしても、今お前に突き付けられている現実が変わることはないのだからな」
「で、では、私に目指すように説いたあのお話は! 誰もが笑って暮らせる国という理想のお話は!」
「はん。そんな昔の話をまだ覚えておったのか。そんなものとうに忘れておったわ。時勢は目まぐるしく変化するもの。その時々に最適な解を目指すのが優れた領主と言うものだ。まあ、お前にはもはや関係のない話ではあるがな」
「そんな……」
アレンは下を俯いたまま、押し黙ってしまった。
そして一寸ののち、懇願するように再び口を開いた。
「そ、それでは最後にせめて母様と……生まれた弟妹に――」
アレンの言葉を遮るように、マクレガーは執務机を強く叩いた。
「くどい!! お前はもはや、我がイレブン家とは無縁の他人。大切な我が妻子をお前などに会わせる道理はないわ!!! わかったらとっとと出て行け!!」
そして、マクレガーは執務机の引き出しから小さな袋を取り出すと、それをアレンへと向けて投げつけた。
袋はアレンへとぶつかると、ジャラジャラとした音を立てながら内包物を吐き出した。
そして床に転がるは銀色の硬貨たち。袋の中身は十数枚の銀貨であった。
「我が領地内でのたれ死なれても処理が面倒だ。その金で魔術車にでも乗って、私の預かり知らぬ土地にでも行くがいい」
今まで乱雑に扱われたことなどなかったアレンにとって、物を投げつけられたことへの、精神的な衝撃は計り知れないものであった。
そしてアレンは悟ってしまう。
父の言葉は偽りではない、と。
「…………はい」
瞳に涙を蓄えたアレンは、声を震わせながら、力なくそう答えたのだった。
黒髪の少年――アレンは声高らかに、扉を開けた。そこは父であり、イレブン伯爵領の領主である――マクレガー・イレブンの居室。
顔一面に広がった笑みは、その興奮の度合いを示すかのよう。
アレンにとって初めての弟妹の誕生に、喜びが理性を超えていたのだった。
しかし、それとは対照的に、執務机に座するマクレガーの表情は冷たかった。
品のある黒髪に立派な髭を携えた男は、冷めた視線をアレンに送り、こう告げた。
「アレンか――私からもちょうどお前に話があったのだ」
「なんでしょう?」
弟妹のお祝いの話かな? あ、それとも母様へのねぎらいをどうするかの相談とかかな?
アレンはあれやこれやと、頭をフル回転させ思案した。
しかし、マクレガーから発せられたのは、そのどれとも異なる言葉だった。
「いまこの時を持って、お前をイレヴン家から勘当する。二度と我が領地に踏み入ることは許さん」
「…………え?」
「子宝に恵まれなかった故、捨て子であったお前を実子と偽って育てきた。だが、たったいま本当の実子が生まれた……これが何を意味するか、わかるか?」
「捨て……子? 一体なんのお話を……」
聞き返す声が震えた。
確かに、アレンは髪の色はおろか、瞳の色すら父母と異なっていた。
ただ、それは突然変異的なものが原因だと教えられていたし、アレンが疑う理由などなかった。
それに親子仲も良好で、誰の目から見ても自然な親子だったはずが――
「せめて魔術回路があれば他の使い道もあったが、それすらないお前の存在価値は無――つまり、お前はもう用無しなのだよ」
「用無し…………? ですが父様! 父様は『魔術回路なんてなくてもアレンはアレンだ』といつも言ってくださったではないですか! 僕は父様のあの言葉にいつも勇気をもらっておりました……あの言葉が嘘だったなど僕には信じられません……」
「信じたくなければ信じなくて結構。いずれにしても、今お前に突き付けられている現実が変わることはないのだからな」
「で、では、私に目指すように説いたあのお話は! 誰もが笑って暮らせる国という理想のお話は!」
「はん。そんな昔の話をまだ覚えておったのか。そんなものとうに忘れておったわ。時勢は目まぐるしく変化するもの。その時々に最適な解を目指すのが優れた領主と言うものだ。まあ、お前にはもはや関係のない話ではあるがな」
「そんな……」
アレンは下を俯いたまま、押し黙ってしまった。
そして一寸ののち、懇願するように再び口を開いた。
「そ、それでは最後にせめて母様と……生まれた弟妹に――」
アレンの言葉を遮るように、マクレガーは執務机を強く叩いた。
「くどい!! お前はもはや、我がイレブン家とは無縁の他人。大切な我が妻子をお前などに会わせる道理はないわ!!! わかったらとっとと出て行け!!」
そして、マクレガーは執務机の引き出しから小さな袋を取り出すと、それをアレンへと向けて投げつけた。
袋はアレンへとぶつかると、ジャラジャラとした音を立てながら内包物を吐き出した。
そして床に転がるは銀色の硬貨たち。袋の中身は十数枚の銀貨であった。
「我が領地内でのたれ死なれても処理が面倒だ。その金で魔術車にでも乗って、私の預かり知らぬ土地にでも行くがいい」
今まで乱雑に扱われたことなどなかったアレンにとって、物を投げつけられたことへの、精神的な衝撃は計り知れないものであった。
そしてアレンは悟ってしまう。
父の言葉は偽りではない、と。
「…………はい」
瞳に涙を蓄えたアレンは、声を震わせながら、力なくそう答えたのだった。
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