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第十九話 討伐部隊

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 翌日、警備隊の詰所には討伐部隊のメンバーが集められていた。人数にして60人程であろうか、見る人見る人屈強な体つきをしており、相当な鍛錬をこなしていることが容易く想像できた。

「皆、ご苦労。今日集まってもらった訳は既に承知のことと思う。“ゴブリン”の脅威はこの街を、この国を脅かすものだ。そしてその脅威を払うのが我々警備隊の役目。諸君ら一人一人の行動にこの国の行く末がかかっていると思え!」
 ヤクマが討伐部隊へ鼓舞をする。

 それに応える討伐部隊。
「「「おおおぉっ!!!」」」

 その声は空気だけでなく俺の身体ごと震えさせた。それはまるで建物そのものが錯覚するほどのものであった。

 そしてヤクマは鼓舞した勢いそのままに、今回の討伐作戦の詳細を発表した。
「今回の討伐作戦だが、部隊を3つに分けて行動してもらう。そして......」

 ヤクマは作戦を詳しく説明していった。

 一通り作戦を説明しきったのちに、ヤクマが言葉を付け加えた。
「なお、この作戦は私の立案によるものではない」

 ヤクマのその言葉により場内が一瞬どよめく。

「これは“ゴブリン”と実際に対峙して打ち勝ち、この街の屋根を一夜にして黒く染めた張本人、カズマの立案によるものだ」
 瞬間、会場が大きく湧いた。

 実はこの対策会議が開かれる前に俺はヤクマと話をしていた。

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「ヤクマさん、少々お話があるのですが。お時間をいただけませんか?」

「どうかしたか? よもや討伐部隊を断るなどではないな?」
 ヤクマの顔が険しくなるのがわかった。

「いえ、もう覚悟は決めましたから。それでですね、先日伺った調査部隊のご報告から、ある事ができないかと考え付きまして」

「ほう。話してみよ」

 そこで俺は考え付いた策をヤクマに伝えた。

「おもしろい。さすが、といったところか」
 ヤクマもこの策に乗り気になったようだ。

 そしてこの後、俺とヤクマは策の詳細について煮詰めていった。

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 ヤクマも討伐部隊も戦に関しては素人の俺の策によく乗ってくれた。
 これも“ゴブリン”や一夜城の件が効果的に働いているからだろう。

「決戦は明日だ!! 戦いに備え今日はたっぷりと英気を養え!!」
 ヤクマはもう一度討伐隊を鼓舞した。


「「「おおおぉっ!!!」」」
 結局、この日の会議は熱気に湧いたまま終了したのであった。

 その後、俺は明日の準備のため退出しようとした。
 しかし見慣れぬ女性が行く俺の道を塞ぐ。

「あなたがカズトさんですか。私は調査部隊の生き残りのサクハです」
 そう話す女性はどこか儚げで脆い印象であった。

「調査部隊の......」

「私は調査専門で、戦闘向きではありません。ですが今回の討伐部隊に無理を言って志願させていただきました」
 サクハは真っ直ぐな目でこちらを見つめ、語った。それは先程受けた印象とは正反対で、とても強い意志を感じる。

「どうしても......どうしても、目の前にいて助けられなかった先輩方の仇を取りたいんです」

 そうか......目の前で......。

「だからあなたの立案した作戦を成功させるため、私に出来ることがあれば何でもやります。何でも申し付けてください」
 そう話すサクハの肩は少し震えており、その目には涙も浮かべていた。

 この子に無理をさせちゃだめだ。
 俺は直感でそう感じると、サクハにこう言った。

「ありがとうございます。その心意気とても助かります。──それでは早速、お願いをしてもよろしいでしょうか?」

 俺はサクハに、洞窟内の地図を作ってもらうようお願いした。
 地図があることで、三つに分割した部隊の動きをそれぞれに説明しやすくなる。
 言葉だけの説明ではどこかしらで認識の齟齬が生まれるものだ。その事を俺は現場監督の経験として痛いほどわかっていた。

「明日の最終会議の時に使いたいのですが......お願いできますか?」

「はい! 頑張ります!」
 その時のサクハの顔は笑顔であった。今にも溢れ出んとする涙とともに。

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 次に俺はクウネルの元を訪ねていた。
 クウネルはミズイガハラに自分の店を構えており、外商などがなければ店内にいることが多いそうだ。

「クウネルさん、こんにちは」

「カズトさん、いらっしゃいませぇ。ここへは初めてですねぇ。それでぇ今日はどうされましたかぁ?」
 クウネルはそう訪ねた。

「今日は物資を集めて頂きたくてきました。荷車一台分の瀝青アスファルトと二台分の木材を用意してもらいたいのですが。明日、指定の場所まで配達もお願いします」

「ふぅむぅ。なかなか急な依頼ですねぇ。少々割増になりますがよろしいですかぁ?」
 クウネルはニヤリと笑っていた。
 さすが商人といったところだろう。

「もちろんです!」

 こうして俺はでき得る準備を全て整え、明日を待ったのであった。
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