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第八話 鉄平石
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この日は牧場の手伝いのお休みをもらった。頑張ってくれてるからとアレクがリフレッシュの機会を与えてくれたのだ。
せっかくだからと、俺はこの世界の地理を知るため、牧場から少し離れた山中を散策していた。
山には俺達の生活を豊かにしてくれるもので溢れている。食材や木材もそうだが、先の黒い池のように便利な物が転がっている可能性もある。
そして俺の散策はそんな掘り出し物を探す目的も含んでいた。
さすがに今日は“ゴブリン”には出会わないよな......。
俺はそんな不安を抱きながらも山中を進んでいく。
すると突然、左前方の茂みから葉擦れの音がする。
“ガサッ”
“ガサガサッ”
その音は徐々に徐々にこちらへ近付いてくるのがわかる。
まさか......。
俺の身体が緊張により強張った。
俺は思わず後退りをしてしまう。
“ガサガサガサッ”
葉擦れの音がすぐ眼前まで近付いている。
瞬間、俺の前に黒い影が飛び出してきた。
「ミャー」
鳴き声の主はふわふわと宙に浮いていた。
「なんだ、“テン”か......」
その姿をみて俺は胸を撫で下ろした。
アレクのところのミーアとは毛色や模様が明らかに異なり、“テン”にも多様な種が存在していることがうかがえた。
野良の“テン”なのかな?
俺はそう思いながら“テン”の頭を撫でる。すると“テン”はその身体を捻らせるようにし、更に擦り寄ってくる。
気持ちいい......のかな?
俺も調子が上向きになり、“テン”の顔を更に撫で回した。しかし、ふとした拍子に俺の手が“テン”のお腹へと触れてしまった時、この至福の時間が終幕した。
お腹に触れた瞬間“テン”の様子が豹変し、こちらの手に噛み付いてきたのだ。
明らかな敵意を向ける“テン”。どうやらお腹は“テン”にとっての弱点であるようだ。
「ごめん、ごめん」
俺がそう言うと、“テン”は「ミャー」と言いながら茂みへと帰って行った。
許してくれ......た?
俺は緊張を癒してくれた“テン”に感謝しつつも、気を取り直し散策を再開した。
そして山中をしばらく進むと、緑の一ほとんどない開けた地を見つけた。
ここは......?
俺はそう思いながら周りを見渡す。
辺り一帯にはゴツゴツとした岩がそこかしこに転がっていた。
この場所は岩盤で構成されているようだ。そして奥部には岩壁が剥き出しになっている。
その岩壁には定規で線を引いたか如く、規則的な割れ目が横方向に広がっていた。どうやらこれは板状節理が発達してできたものと推測できる。これは岩壁の元になるマグマが冷却される際に、地面との摩擦により生じるものだ。
俺は岩石の欠片を広いあげ、まじまじと観察した。
これは見事だな。
岩石は板状節理特有の板状を成していた。そしてそれには十分な硬さがあり、重さもほどほどだ。
このような岩石は元の世界では鉄平石と呼ばれており、この世界でみつけたそれとほぼ同一の特徴を有している。
そこで俺はこの石を鉄平石と呼ぶことにした。
この世界では石材の加工技術が発達していないこともあって、ほとんど利用されていないようだ。
先日のミズイガハラでも確認したが、建物は極一部を除きほぼ全てが木材のみを利用したものであった。
材料として石が使えるようになれば、様々なものに応用できるようになる。
そう言えばアレクが薫製窯で困っていたな......。
そう考えた俺は掌大の鉄平石を背負えるだけ背負って山を降りることにした。
--------
牧場に戻ると俺はアレクに声を掛けた。
「アレクさん、薫製窯で困ってましたよね?」
「ああ。そうなんだよ。もっと大きな窯が欲しいんだけど、粘土だとどうしても脆くてね」
アレクは牧場で育てた家畜から、肉の薫製を作っている。冷蔵庫のないこの世界では、保存期間が長い製品の需要が非常に高い。
その需要に応えるため薫製窯の使用頻度はずば抜けて多いのだが、この薫製窯に問題がある。
この世界には石やレンガなどはない。金属の加工技術も優れているとは言えない。そのため、火を用いる窯は粘土を使うことがもっぱらであった。
粘土は耐火性に優れ、形もある程度自由に成形できる。しかし、粘土自体の強度は低く、大きなものを構成するには不適であった。
そのため、1日に大量の薫製をつくるには大量の窯が必要なのである。
そこで俺はある提案をした。
「新しい窯を作ってみてもいいですか??」
「窯を......?」
アレクは不思議そうに応えた。
「はい! 良い材料を見つけてきたんです!」
--------
こうして俺は窯作りを行うことになった。
とにもかくにもまずは材料確保が必要だ。俺はノミとハンマーを持ち、鉄平石の鉱床へと再び向かった。
鉄平石はその硬さの割に加工がしやすい材料で、ノミとハンマーがあれば岩壁からも採掘可能なのだ。
そして俺は採掘と運搬を何度か繰り返し、十分な量の材料を確保した。
次に俺は窯の設置場所に窯よりも少しだけ大きなロの字型の穴を掘った。窯を地面にしっかりと固定するための基礎を施すためだ。
と言っても、建物の基礎のようにしっかりしたものではなく、石を積み上げて埋めるだけであるが。
そして俺はロの字型の穴に石を積み始めた。だが、ただ積むだけでは石が崩れてしまう。
そこで石と石の間には粘土を塗り付け接着剤の代わりとした。
本来であればモルタルなどのセメント系の接着剤を使用したかったが、この世界にはセメントをつくる技術がない。代替品としての利用だ。
あとはこの作業を繰り返していくだけだ。
だが1日のうちに積み上げすぎると、積み上げた石の重みで下の層が崩れてしまう。
そのため、ある程度まで積み上げたら間に塗った粘土が乾いて十分な強さが出るまで待つ必要がある。
結果俺は3日をかけて窯を完成させた。
「アレクさん、完成しました!」
俺は早速アレクに報告した。
「おお、これはすごい! 今までの5倍はあるんじゃないかな? これなら一度に沢山の薫製がつくれるよ!」
アレクは驚きつつも嬉しそうな表情を浮かべていた。
そしてこうも続けた。
「ありがとう」
せっかくだからと、俺はこの世界の地理を知るため、牧場から少し離れた山中を散策していた。
山には俺達の生活を豊かにしてくれるもので溢れている。食材や木材もそうだが、先の黒い池のように便利な物が転がっている可能性もある。
そして俺の散策はそんな掘り出し物を探す目的も含んでいた。
さすがに今日は“ゴブリン”には出会わないよな......。
俺はそんな不安を抱きながらも山中を進んでいく。
すると突然、左前方の茂みから葉擦れの音がする。
“ガサッ”
“ガサガサッ”
その音は徐々に徐々にこちらへ近付いてくるのがわかる。
まさか......。
俺の身体が緊張により強張った。
俺は思わず後退りをしてしまう。
“ガサガサガサッ”
葉擦れの音がすぐ眼前まで近付いている。
瞬間、俺の前に黒い影が飛び出してきた。
「ミャー」
鳴き声の主はふわふわと宙に浮いていた。
「なんだ、“テン”か......」
その姿をみて俺は胸を撫で下ろした。
アレクのところのミーアとは毛色や模様が明らかに異なり、“テン”にも多様な種が存在していることがうかがえた。
野良の“テン”なのかな?
俺はそう思いながら“テン”の頭を撫でる。すると“テン”はその身体を捻らせるようにし、更に擦り寄ってくる。
気持ちいい......のかな?
俺も調子が上向きになり、“テン”の顔を更に撫で回した。しかし、ふとした拍子に俺の手が“テン”のお腹へと触れてしまった時、この至福の時間が終幕した。
お腹に触れた瞬間“テン”の様子が豹変し、こちらの手に噛み付いてきたのだ。
明らかな敵意を向ける“テン”。どうやらお腹は“テン”にとっての弱点であるようだ。
「ごめん、ごめん」
俺がそう言うと、“テン”は「ミャー」と言いながら茂みへと帰って行った。
許してくれ......た?
俺は緊張を癒してくれた“テン”に感謝しつつも、気を取り直し散策を再開した。
そして山中をしばらく進むと、緑の一ほとんどない開けた地を見つけた。
ここは......?
俺はそう思いながら周りを見渡す。
辺り一帯にはゴツゴツとした岩がそこかしこに転がっていた。
この場所は岩盤で構成されているようだ。そして奥部には岩壁が剥き出しになっている。
その岩壁には定規で線を引いたか如く、規則的な割れ目が横方向に広がっていた。どうやらこれは板状節理が発達してできたものと推測できる。これは岩壁の元になるマグマが冷却される際に、地面との摩擦により生じるものだ。
俺は岩石の欠片を広いあげ、まじまじと観察した。
これは見事だな。
岩石は板状節理特有の板状を成していた。そしてそれには十分な硬さがあり、重さもほどほどだ。
このような岩石は元の世界では鉄平石と呼ばれており、この世界でみつけたそれとほぼ同一の特徴を有している。
そこで俺はこの石を鉄平石と呼ぶことにした。
この世界では石材の加工技術が発達していないこともあって、ほとんど利用されていないようだ。
先日のミズイガハラでも確認したが、建物は極一部を除きほぼ全てが木材のみを利用したものであった。
材料として石が使えるようになれば、様々なものに応用できるようになる。
そう言えばアレクが薫製窯で困っていたな......。
そう考えた俺は掌大の鉄平石を背負えるだけ背負って山を降りることにした。
--------
牧場に戻ると俺はアレクに声を掛けた。
「アレクさん、薫製窯で困ってましたよね?」
「ああ。そうなんだよ。もっと大きな窯が欲しいんだけど、粘土だとどうしても脆くてね」
アレクは牧場で育てた家畜から、肉の薫製を作っている。冷蔵庫のないこの世界では、保存期間が長い製品の需要が非常に高い。
その需要に応えるため薫製窯の使用頻度はずば抜けて多いのだが、この薫製窯に問題がある。
この世界には石やレンガなどはない。金属の加工技術も優れているとは言えない。そのため、火を用いる窯は粘土を使うことがもっぱらであった。
粘土は耐火性に優れ、形もある程度自由に成形できる。しかし、粘土自体の強度は低く、大きなものを構成するには不適であった。
そのため、1日に大量の薫製をつくるには大量の窯が必要なのである。
そこで俺はある提案をした。
「新しい窯を作ってみてもいいですか??」
「窯を......?」
アレクは不思議そうに応えた。
「はい! 良い材料を見つけてきたんです!」
--------
こうして俺は窯作りを行うことになった。
とにもかくにもまずは材料確保が必要だ。俺はノミとハンマーを持ち、鉄平石の鉱床へと再び向かった。
鉄平石はその硬さの割に加工がしやすい材料で、ノミとハンマーがあれば岩壁からも採掘可能なのだ。
そして俺は採掘と運搬を何度か繰り返し、十分な量の材料を確保した。
次に俺は窯の設置場所に窯よりも少しだけ大きなロの字型の穴を掘った。窯を地面にしっかりと固定するための基礎を施すためだ。
と言っても、建物の基礎のようにしっかりしたものではなく、石を積み上げて埋めるだけであるが。
そして俺はロの字型の穴に石を積み始めた。だが、ただ積むだけでは石が崩れてしまう。
そこで石と石の間には粘土を塗り付け接着剤の代わりとした。
本来であればモルタルなどのセメント系の接着剤を使用したかったが、この世界にはセメントをつくる技術がない。代替品としての利用だ。
あとはこの作業を繰り返していくだけだ。
だが1日のうちに積み上げすぎると、積み上げた石の重みで下の層が崩れてしまう。
そのため、ある程度まで積み上げたら間に塗った粘土が乾いて十分な強さが出るまで待つ必要がある。
結果俺は3日をかけて窯を完成させた。
「アレクさん、完成しました!」
俺は早速アレクに報告した。
「おお、これはすごい! 今までの5倍はあるんじゃないかな? これなら一度に沢山の薫製がつくれるよ!」
アレクは驚きつつも嬉しそうな表情を浮かべていた。
そしてこうも続けた。
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