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第三十二話

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 狂風は村長を中心にして、竜巻のごとく立ち上った。

「――くっ!!」
 俺はすんでのところで身体をのけぞらせてかわす。

 狂風の竜巻が鼻先を掠め、俺の【気配遮断スニーク】が解ける。

「そこにいたか」
 村長のその言葉とともに竜巻はふっと消え去り、村長の蹴りが俺を襲った。

 俺ののけぞった身体では回避など出来るわけもなく、それは俺の腹にめり込む。

 そして吹き飛ばす。

「ぐっ!!」
 受け身をとり、すかさず体制を整える。

 ――幸い大きなダメージはなさそうだ。
 どうやらあの魔法の直後は強力な攻撃を繰り出せないらしい。

「あれを避けるとは大したもんだ」
 村長は余裕そうにそう話す。

『近接職でも魔法を使うものがいる』
 そのことを知っていたおかげで、村長の詠唱に素早く反応できた。
 もし、知らなかったら直撃を受けていたかもしれないな……。

 とは言え、俺が劣勢であることに変わりはないか。
 離れていると烈風が飛び、近付くと戦斧と魔法の攻撃。

 ひとまず距離を取り、様子をうかがう。
 するとすかさず烈風が飛んでくる。

「ちっ」
 そう易々と落ち着かせてはくれないか。

 圧縮された風の塊は、空気を切り裂きながら俺へと向かって突き進む。

 ならば――
「【宝貴創造クリエイトコッファー】!」

 ◇◇◇◇◇◇

宝貴創造クリエイトコッファー】が発動。
宝貴の箱ストレージコッファー】の素材〈火打石〉と〈魔石(C)〉を使用し、
 〈爆裂罠(中)〉を生成しました。

 ◇◇◇◇◇◇

 烈風の進路に宝箱を生成。
 そして烈風は宝箱を容易たやすく両断。

 瞬間、爆裂罠が発動。
 宝箱から爆風が広がり、烈風を相殺した。

 すかさず俺は、村長の周囲を不規則に走り回る。
 止まっていては烈風の的になるだけだ。

「ほう。やるのう。だが、逃げてばかりでは勝てぬぞ?」

 それはわかっている……だが、安易に攻撃を繰り出しても弾かれるだろう。
 どうすれば……。

 そう考えている最中も、村長は走り回る俺へと向かって烈風を放つ。
 烈風は床を徐々に破壊し、そして無慈悲にも俺の足場を奪っていった。

 このままでは直に――。

 その時、どこからともなく俺を呼ぶ声がした。
(ヒュージ、私を使って)

 その声は村長でもアンジュでもない。

 ――誰だ? 

 辺りを見渡しても村長とアンジュ以外に人の姿はない。

(――私を使って)
 その声は繰り返しそう呼びかける。

 ――なんだ? 俺にどうしろと言うんだ?

 その時、
「もう終わりにするかのう」

 村長はそう言うと、俺の進行方向に向けて烈風を繰り出す。
 そしてそれを繰り返し、村長は俺の逃げ場を奪っていった。

 まずい……このままでは――。

(私を生成して――。卵に魔石を――)
 再び謎の声がする。

 卵に魔石??
 それで一体なにが起きるというのだ?

 だが、このまま続けてもジリ貧で勝ち目はない。
「――試すしかない、か」

「む? 何を試すのかのう?」
 そう話す村長は相変わらず余裕の表情だ。

 そして、俺は動きを止めて、
「【宝貴創造クリエイトコッファー】!」

 ◇◇◇◇◇◇

宝貴創造クリエイトコッファー】が発動。
宝貴の箱ストレージコッファー】の素材〈魔物モンスターの卵〉と〈魔石〉×全を使用し、
 〈⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎〉を生成しました。

 ◇◇◇◇◇◇

 俺の眼前に宝箱を生成した。

 持っていた魔石の全てを注ぎ込んだ。
 いや、奪われたと言った方がいいのか?

 俺の意思の及ばない生成は初めてであった。
 今までの生成とは明らかに異なる。

 ――この中には何が……?
 何が起きるのか、俺にも全く予想出来なかった。

 そして俺は恐る恐る宝箱に手を当てがう。

 すると、宝箱が開き――中から現れたのは、小さな碧眼の白い竜。

「――は?」
 あまりのことについ、声が出てしまう。

 宝箱から魔物モンスターが現れた??
 宝箱で魔物モンスターが生成出来るなど、想像だにしていなかった。
 幾度となく使ってきたスキルだが、まだ未知の部分があるとは――。

 そして、村長も俺と同様に驚いている様子。
 視線は白竜に釘付けになり、攻撃の手が止まっている。

 俺たちの驚きをよそに、白竜は突然として大きく息を吸い込んだ。
 白竜のお腹に多量の空気が含まれていることがわかる。

 次の瞬間、白竜は村長に向け口を大きく開いた。
 そして村長へ向かって真っ直ぐに火炎が放射された。
 ゴォオオォォオ!! という火炎が走る音を辺りに響かせながら。

「――なっ!?」
 村長はとっさに横っ飛びで火炎を避けた。
 だが、思いもよらぬ攻撃に村長の姿勢は崩れている。

 好機――!

 これを逃せば勝ち目はない。
 そう判断した俺は攻勢にでる。

 とっさに【気配遮断スニーク】を使用し、村長に向かって飛び出した。

 それから一寸遅れ、村長は俺の姿が消えているこなとに気付く。
「しまった――だが、やらせはせぬ! 【狂風魔法ヴァルソルドウインド】」
 再び村長を荒れ狂う風が包み込んだ。

 だがもう遅い――。

 一寸の隙のうちに、俺は村長の真上へと跳躍していた。

 そして、妖精シルフの短剣に魔力を注ぎ込み、一振り。
 妖精シルフの短剣から暴風が放たれる。

 そしてその暴風は村長の魔法と衝突し、相殺。

 村長は俺の姿を探す。
 前後左右を見渡したのち、
「――上か!!」
 村長は真上を見上げてそう言った。

 しかし、その時には既に次の一撃の準備が整っていた。
「――俺の勝ちだ」

 俺は再び妖精シルフの短剣を一振り。
 そして妖精シルフの短剣から放たれた暴風が村長を襲った。
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