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第二十二話
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時は一週間ほど遡り――
俺はいま、王都の街並みを散策している。
通りには露店が開かれ、活気のある声が響いている。
ラザリーとは一月後に状況を報告し合うことになり、密談は終了した。
本当であれば、すぐに『ヘミング峡谷』へと戻りたいところなのだが、転移の間を使用すると利用者の履歴が残ってしまう。
どこに敵が潜んでいるのかわからない以上、足跡はなるべく残さないほうが賢明。
そのため、馬車でミズイガルム村まで向かうことにしたのだ。
王都からミズイガルム村への馬車は定期便。
幸い、今日が運行日ではあったが、出発の時間まではまだ少しある。
ということで、散策をしているのだった。
と言っても、ただ歩いているだけではない。使えそうな素材を探しているのだ。
この露店の集まる通りには、他国を含む大陸各地から珍しい素材が集まっている。
『九鼎大呂』のころは、宝箱の中身の幅を広げるために重宝した。
――まあ、そのおかげで、俺の懐は寂しいものだったのだけどな……。
そんな中、ある露店が目についた。
他の露店は賑やかな中、その露店にだけ露骨に人がいない。
「お兄さんお兄さん! 珍しいものがあるんすよ! ちょっとだけでいいから見ていかないっすかい??」
露店の店主と思われるキツネ目の男が、大きく手を振りながら俺に声を掛けてきた。
誰もいないのはさすがに怪しいが……。
俺は聞こえない振りをして通り過ぎようとした。
すると、
「魔物の卵があるんすよ! どうっすか!? 面白いでしょ!?」
キツネ目の男は露店から身を乗り出すようにして、俺の気を引こうとする。
だが、魔物の卵とやらが本物であれば面白い。
十中八九、偽物だろうが見るだけ見てみるか。
俺はキツネ目の男の露店に近付き、
「どれが魔物の卵だ?」
「みんな信じてくれなくて買ってくれねーんすよ。それどころか、他の品物まで偽物と疑われちまって……それで、どうっすかね? 安くするんで買っていただけませんかね? 金貨五〇枚でどうっすか!?」
キツネ目の男は両手で大切に抱えるように、それを取り出した。
それはまるで石のような質感で、楕円形をしている。
「…………そもそもこれはどこで? 魔物の卵と言えば、魔物研究所ですら滅多に手に入れられないものと聞くが」
しかも、そのほとんどは偽物であったらしい。
魔物研究の専門機関ですら入手が極度に困難なものを、一介の商人が本物を手に入れられるはずがないのだ。
「そ、それはですね……拾ったんすよ。それで、噂で聞いていた魔物の卵にそっくりだなーって思いやして……」
キツネ目の男は歯切れ悪くそう答える。
「つまり、魔物の卵に似た石というわけだな?」
「い、いえ! これが魔物の卵であることは間違いねえんす。夢で……夢でみたんす! これが本物だって!」
「夢で?」
キツネ目の男は俺の耳元で、内緒話をするかのようにささやく。
「あんまり大きな声で言いたくはないんすが、ここまで話を聴いてくれたお兄さんにだけお話するっす……実は、あっしのユニークスキル【夢見】でみたんす。あっしのスキルは夢で色々なことが出来るんす。予知夢だったり、物の鑑定だったり……自分で内容のコントロールを出来ないのが玉に瑕っすけど」
「ほう。ではその【夢見】でこれが魔物の卵だと鑑定された……と?」
「そんなとこっす!」
少々符に落ちないところがあるが……この自称魔物の卵からは何やら不思議な感じもする。
まるで引き寄せられるような……。
しかし、『九鼎大呂』のころの蓄えでギリギリ……か。
おのれの蓄えの少なさに乾いた笑いが出てしまうな……。
とは言え、今の俺には臨時収入がある。ラザリーからも活動費の援助が受けられたのだ。
蓄えがなくなろうとも、当面の活動に不安はない。
――ならば、物は試しだ。
魔物の卵でどんなものが生成出来るのかにも興味がある。
「わかった。信じよう」
俺の言葉に、キツネ目の男は満面の笑みを浮かべる。
「――だが、それではこちらだけがリスクを負うことになる」
「た、確かにそうっすが……」
先ほどの笑みから一転、不安そうな表情を浮かべるキツネ目の男。
「だから……そうだな、二割。今回支払うのは二割分だ。残りの八割はこれが本物だったときに支払いにくる」
初めてあった、しかも商人の話を鵜呑みには出来ない。
この通りの露店たちには散々痛い目に遭わされてきたのだから。
「せ、せめて四割にしてもらえねえっすか!?」
「……三割だ」
「わかりやした! あっしもお兄さんのこてを信じるっす! でも残りはすぐに支払いにきて欲しいっす。絶対本物っすから!!」
「ああ、わかった。俺はヒュージ。ヒュージ・クライスだ」
「マージ・トゥーランっす!」
――こうして俺は金貨一五枚を代償に、魔物の卵? を手に入れた。
俺はいま、王都の街並みを散策している。
通りには露店が開かれ、活気のある声が響いている。
ラザリーとは一月後に状況を報告し合うことになり、密談は終了した。
本当であれば、すぐに『ヘミング峡谷』へと戻りたいところなのだが、転移の間を使用すると利用者の履歴が残ってしまう。
どこに敵が潜んでいるのかわからない以上、足跡はなるべく残さないほうが賢明。
そのため、馬車でミズイガルム村まで向かうことにしたのだ。
王都からミズイガルム村への馬車は定期便。
幸い、今日が運行日ではあったが、出発の時間まではまだ少しある。
ということで、散策をしているのだった。
と言っても、ただ歩いているだけではない。使えそうな素材を探しているのだ。
この露店の集まる通りには、他国を含む大陸各地から珍しい素材が集まっている。
『九鼎大呂』のころは、宝箱の中身の幅を広げるために重宝した。
――まあ、そのおかげで、俺の懐は寂しいものだったのだけどな……。
そんな中、ある露店が目についた。
他の露店は賑やかな中、その露店にだけ露骨に人がいない。
「お兄さんお兄さん! 珍しいものがあるんすよ! ちょっとだけでいいから見ていかないっすかい??」
露店の店主と思われるキツネ目の男が、大きく手を振りながら俺に声を掛けてきた。
誰もいないのはさすがに怪しいが……。
俺は聞こえない振りをして通り過ぎようとした。
すると、
「魔物の卵があるんすよ! どうっすか!? 面白いでしょ!?」
キツネ目の男は露店から身を乗り出すようにして、俺の気を引こうとする。
だが、魔物の卵とやらが本物であれば面白い。
十中八九、偽物だろうが見るだけ見てみるか。
俺はキツネ目の男の露店に近付き、
「どれが魔物の卵だ?」
「みんな信じてくれなくて買ってくれねーんすよ。それどころか、他の品物まで偽物と疑われちまって……それで、どうっすかね? 安くするんで買っていただけませんかね? 金貨五〇枚でどうっすか!?」
キツネ目の男は両手で大切に抱えるように、それを取り出した。
それはまるで石のような質感で、楕円形をしている。
「…………そもそもこれはどこで? 魔物の卵と言えば、魔物研究所ですら滅多に手に入れられないものと聞くが」
しかも、そのほとんどは偽物であったらしい。
魔物研究の専門機関ですら入手が極度に困難なものを、一介の商人が本物を手に入れられるはずがないのだ。
「そ、それはですね……拾ったんすよ。それで、噂で聞いていた魔物の卵にそっくりだなーって思いやして……」
キツネ目の男は歯切れ悪くそう答える。
「つまり、魔物の卵に似た石というわけだな?」
「い、いえ! これが魔物の卵であることは間違いねえんす。夢で……夢でみたんす! これが本物だって!」
「夢で?」
キツネ目の男は俺の耳元で、内緒話をするかのようにささやく。
「あんまり大きな声で言いたくはないんすが、ここまで話を聴いてくれたお兄さんにだけお話するっす……実は、あっしのユニークスキル【夢見】でみたんす。あっしのスキルは夢で色々なことが出来るんす。予知夢だったり、物の鑑定だったり……自分で内容のコントロールを出来ないのが玉に瑕っすけど」
「ほう。ではその【夢見】でこれが魔物の卵だと鑑定された……と?」
「そんなとこっす!」
少々符に落ちないところがあるが……この自称魔物の卵からは何やら不思議な感じもする。
まるで引き寄せられるような……。
しかし、『九鼎大呂』のころの蓄えでギリギリ……か。
おのれの蓄えの少なさに乾いた笑いが出てしまうな……。
とは言え、今の俺には臨時収入がある。ラザリーからも活動費の援助が受けられたのだ。
蓄えがなくなろうとも、当面の活動に不安はない。
――ならば、物は試しだ。
魔物の卵でどんなものが生成出来るのかにも興味がある。
「わかった。信じよう」
俺の言葉に、キツネ目の男は満面の笑みを浮かべる。
「――だが、それではこちらだけがリスクを負うことになる」
「た、確かにそうっすが……」
先ほどの笑みから一転、不安そうな表情を浮かべるキツネ目の男。
「だから……そうだな、二割。今回支払うのは二割分だ。残りの八割はこれが本物だったときに支払いにくる」
初めてあった、しかも商人の話を鵜呑みには出来ない。
この通りの露店たちには散々痛い目に遭わされてきたのだから。
「せ、せめて四割にしてもらえねえっすか!?」
「……三割だ」
「わかりやした! あっしもお兄さんのこてを信じるっす! でも残りはすぐに支払いにきて欲しいっす。絶対本物っすから!!」
「ああ、わかった。俺はヒュージ。ヒュージ・クライスだ」
「マージ・トゥーランっす!」
――こうして俺は金貨一五枚を代償に、魔物の卵? を手に入れた。
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