19 / 36
第十九話
しおりを挟む
洞窟の内部に入り、しばらく真っ直ぐに進む。
すると、奥の方から男の話し声が聞こえてくる。
話し声の元へと近付くと、そこはT字の分かれ道。
話し声の主は小太りの男と髭面の男であった。
二人はそれぞれの道の番をしているようで、槍を片手に立っている。
「しっかしよ、こんなところ誰もくるわけねーのに五人も必要なのかね? あと二か月もこんなところにいなきゃなんて退屈しちまうよ」
髭面の男が不満そうにそう話す。
「さあな。だけど、国王さまからのご命令だ、逆らうわけにはいかないだろ」
小太りの男も退屈そうにそう返す。
目標のほかに五人いるということか。アンジュの探知どおりだな。
しかし……国王の命令? どういうことだ?
「噂じゃこの女を生贄に使うんだとか」
「生贄? なんの生贄だ?」
小太りの男は興味津々といった具合でたずねた。
しかしその時、髭面の男の道から誰かが近付いてくる足音が聞こえてくる。
それは洞窟に反響しながら、徐々に近付く。
そして一人の神官風の男が姿を現した。
金髪の長髪で中肉中背、中性的な顔立ち。
「あなたたち、その噂をどこで?」
神官風の男は、二人を舐め回すように見ながらそう話した。
「し、神父さま!! あの女に面会にきた男が話しているのを耳にしました!」
髭面の男は敬礼をして答える。
「そうですか。――ですが、あまり不確かなことは話さないほうが身のためですよ? あなたたちの代わりはいくらでもいるのですから」
神官風の男はそう言うと、二人に向けて笑みを浮かべる。
その笑みは、悪意のかけらも感じさせないほどの、純真無垢な笑み。
そして神官風の男は小太りの男の道へと去って行った。
――なんだ、あの男は……それにあの笑い方、普通じゃない。
それは二人の男も感じ取ったゆなうで、
「…………」
まるで置物のように黙り込んでしまった。
…………しばらくしても固まったまま動かない。
――何か情報を得られるかと思ったが……。
仕方ない、まずは神官風の男が来た道から探ってみるか。
そうして俺は髭面の男が立つ道へと足を進める。
しばらく道なりに進んでいくと、突然として道の先が一際明るく輝く。
あれは――?
さらに足を進めると、そこには椅子や机、それにベッドまでもが配置された部屋が広がっていた。
それはまるで、居室かと見まごうばかり。
ただ一点、鉄格子で入り口を塞がれていることを除いて。
なんだこれは? こんな場所に居室が??
何のために?
するとその時、ベッドから誰かが起きあがり、そのままベッドに腰掛けた。
そこに居たのは赤髪の少女。
その足には自由を奪うように鎖がはめられ、部屋の壁に繋がれている。
起きあがった少女は、何をするでもなく、どこかをボーッと見つめている。
あの赤髪……どこかで見たことが……。
そして俺は気付いた。
あれはナタリー……ナタリー・グランフォリア!
リカルド国王の腹違いの妹だ。
しかし、ナタリー姫がなぜこんなところに?
それに顔からも覇気が消えている。
王城内で、ナタリー姫はやんちゃで有名であったはず。一部の従者から『やんちゃ姫』と呼ばれるほどに。
そのころの面影はかなり薄く、その変貌ぶりにナタリー姫だと即座に気付けなかった。
しかし、これでグレイマン大隊長が『ヘミング峡谷』にいた理由に合点がいった。
あの方とはナタリー姫さまのことか。
あそこまで頑なに語ろうとしないことにも納得できるが……果たしてグレイマン大隊長はこの状況をどこまで把握しているのだろうか。
捕らわれているとわかっていたのならば、グレイマン大隊長の調査部隊だけではなく、近衛兵団や戦闘部隊の精鋭を連れていないのはおかしい。
そんなことを考えていると、俺の来た道から何者かの足音が響く。
足音は徐々に近付き、そして一人の男がランプに照らされた。
執事服に身を包んだ初老の男。
その男の手には、料理の乗った盆。
そして鉄格子の前で立ち止まり、
「姫さま……お食事をお持ちしました。こちらに置いて起きますので……」
執事服の男はそう言うと、盆ごと鉄格子の前に置いて立ち去った。
その瞳から涙を溢しながら。
どうやらこの洞窟にいる全員が、ナタリー姫が捕らわれているこの状況を望んでいるわけではない……ようだな。
しかし、どうしたものか。
ここで鉄格子を破壊するのは簡単だ。
だが、ナタリー姫を捕らえているやつらがどこの誰だかわからない以上、下手に騒ぎを起こすのは避けた方がいいだろう。
それにナタリー姫の変貌ぶりをみると、ナタリー姫自身に何かされているのは明白。
仮に精神を抑え込む薬などが使われていたのなら、下手に動かすのは危険だろう。
ならばここは一度、戻って情報を整理するのが得策か――。
そうして俺は、洞窟の入り口へと急ぎ引き返したのであった。
すると、奥の方から男の話し声が聞こえてくる。
話し声の元へと近付くと、そこはT字の分かれ道。
話し声の主は小太りの男と髭面の男であった。
二人はそれぞれの道の番をしているようで、槍を片手に立っている。
「しっかしよ、こんなところ誰もくるわけねーのに五人も必要なのかね? あと二か月もこんなところにいなきゃなんて退屈しちまうよ」
髭面の男が不満そうにそう話す。
「さあな。だけど、国王さまからのご命令だ、逆らうわけにはいかないだろ」
小太りの男も退屈そうにそう返す。
目標のほかに五人いるということか。アンジュの探知どおりだな。
しかし……国王の命令? どういうことだ?
「噂じゃこの女を生贄に使うんだとか」
「生贄? なんの生贄だ?」
小太りの男は興味津々といった具合でたずねた。
しかしその時、髭面の男の道から誰かが近付いてくる足音が聞こえてくる。
それは洞窟に反響しながら、徐々に近付く。
そして一人の神官風の男が姿を現した。
金髪の長髪で中肉中背、中性的な顔立ち。
「あなたたち、その噂をどこで?」
神官風の男は、二人を舐め回すように見ながらそう話した。
「し、神父さま!! あの女に面会にきた男が話しているのを耳にしました!」
髭面の男は敬礼をして答える。
「そうですか。――ですが、あまり不確かなことは話さないほうが身のためですよ? あなたたちの代わりはいくらでもいるのですから」
神官風の男はそう言うと、二人に向けて笑みを浮かべる。
その笑みは、悪意のかけらも感じさせないほどの、純真無垢な笑み。
そして神官風の男は小太りの男の道へと去って行った。
――なんだ、あの男は……それにあの笑い方、普通じゃない。
それは二人の男も感じ取ったゆなうで、
「…………」
まるで置物のように黙り込んでしまった。
…………しばらくしても固まったまま動かない。
――何か情報を得られるかと思ったが……。
仕方ない、まずは神官風の男が来た道から探ってみるか。
そうして俺は髭面の男が立つ道へと足を進める。
しばらく道なりに進んでいくと、突然として道の先が一際明るく輝く。
あれは――?
さらに足を進めると、そこには椅子や机、それにベッドまでもが配置された部屋が広がっていた。
それはまるで、居室かと見まごうばかり。
ただ一点、鉄格子で入り口を塞がれていることを除いて。
なんだこれは? こんな場所に居室が??
何のために?
するとその時、ベッドから誰かが起きあがり、そのままベッドに腰掛けた。
そこに居たのは赤髪の少女。
その足には自由を奪うように鎖がはめられ、部屋の壁に繋がれている。
起きあがった少女は、何をするでもなく、どこかをボーッと見つめている。
あの赤髪……どこかで見たことが……。
そして俺は気付いた。
あれはナタリー……ナタリー・グランフォリア!
リカルド国王の腹違いの妹だ。
しかし、ナタリー姫がなぜこんなところに?
それに顔からも覇気が消えている。
王城内で、ナタリー姫はやんちゃで有名であったはず。一部の従者から『やんちゃ姫』と呼ばれるほどに。
そのころの面影はかなり薄く、その変貌ぶりにナタリー姫だと即座に気付けなかった。
しかし、これでグレイマン大隊長が『ヘミング峡谷』にいた理由に合点がいった。
あの方とはナタリー姫さまのことか。
あそこまで頑なに語ろうとしないことにも納得できるが……果たしてグレイマン大隊長はこの状況をどこまで把握しているのだろうか。
捕らわれているとわかっていたのならば、グレイマン大隊長の調査部隊だけではなく、近衛兵団や戦闘部隊の精鋭を連れていないのはおかしい。
そんなことを考えていると、俺の来た道から何者かの足音が響く。
足音は徐々に近付き、そして一人の男がランプに照らされた。
執事服に身を包んだ初老の男。
その男の手には、料理の乗った盆。
そして鉄格子の前で立ち止まり、
「姫さま……お食事をお持ちしました。こちらに置いて起きますので……」
執事服の男はそう言うと、盆ごと鉄格子の前に置いて立ち去った。
その瞳から涙を溢しながら。
どうやらこの洞窟にいる全員が、ナタリー姫が捕らわれているこの状況を望んでいるわけではない……ようだな。
しかし、どうしたものか。
ここで鉄格子を破壊するのは簡単だ。
だが、ナタリー姫を捕らえているやつらがどこの誰だかわからない以上、下手に騒ぎを起こすのは避けた方がいいだろう。
それにナタリー姫の変貌ぶりをみると、ナタリー姫自身に何かされているのは明白。
仮に精神を抑え込む薬などが使われていたのなら、下手に動かすのは危険だろう。
ならばここは一度、戻って情報を整理するのが得策か――。
そうして俺は、洞窟の入り口へと急ぎ引き返したのであった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる