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第十七話

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 それから俺たちはグレイマン大隊長を回復薬で回復させ、そして自分たちの状況について説明し合った。

 と言っても、俺からは王命でクビにされて冒険者をやっている、ということしか話すことはなかったのだが。

 そしてグレイマン大隊長はというと……真剣な顔つきでこう話す。
「私はある方を探してこの地を訪れた」

「ある方??」
 騎士団が捜索するということは、身分の高いもの……もしくは重犯罪者か?

「……それは機密事項ゆえ、話すことはできない」

「そうか。しかし……すまなかったな。俺たちがもう少し早く駆けつけていれば……」
 全ての騎士たちの息を確認したが、生き残ったのはグレイマン大隊長だけであった。

 グレイマン大隊長の話によると、皆、あのミノタウロスにやられてしまったのだという。
 上流を目指しながら捜索を進めていると、どこからともなく突然として現れ、そして瞬く間に九名が犠牲になってしまったそうだ。

「いや、クライス殿が責任を感じることはない。皆、覚悟のうえで志願した者たちだからな」

 覚悟? どういうことだ?
『ヘミング峡谷』程度の迷宮ダンジョンに騎士団が死をも覚悟していたというのか?
「――なんらかの脅威が潜んでいることを知っていたというのか?」

「……すまない。それも機密事項だ」

「そうか」
 そもそもグレイマン大隊長が直々に出向いていること自体、異例だ。
 それほどの事態が起きている……ということなのだろうな。

「それで、この娘は何者だ?」
 グレイマン大隊長はそう話すと、怪訝けげんそうな顔でアンジュを睨みつけた。

「ああ、すまない。紹介が遅れたが、この子はアンジュ。見た通り耳長エルフ族で、いまは俺と組んで冒険者をやっている。若いが信頼に足る人物だ、俺が保証する」

「アンジュ・ミストリアです」
 アンジュは貴族のようにお辞儀をする。

 そして今度はグレイマンが敬礼をしながら、
「エミリア・グレイマンだ。疑ったわけではないのだが、任務の性質上、そうせざるを得ないのだ。すまないな」

 グレイマン大隊長は、アンジュが俺の連れであることがわかると少し安心し様子だった。

「いえ。仕方のないことです。お気になさらず」

「それはそうと、あの短剣はなんだ? あれは随分と強力な魔導具だったように見えたが、クライス殿はあんなものまで生成できるのか?」
 グレイマン大隊長はそうたずねた。

「ああ。効果が強力すぎる魔導具は、生成する数を極々少数に絞っていたがな。それに俺がそういったアイテムを生成できることは王城でも一部の者しか知らないはずだ。おそらく、リカルド国王も知らないだろうな」

 なぜ? 
 グレイマン大隊長はそう言いたそうな表情で俺を見つめる。

 そして俺はこう続けた。
「仮に、グランフォリア王国の騎士たちが皆、強力なアイテムで武装していると他国に知れ渡ればどうなると思う?」

 しかし、この問いにグレイマン大隊長は首を傾げたまま固まってしまう。

「――世界から孤立する……でしょうか?」
 代わりにアンジュがおずおずと答えた。

「ああ、その通りだ。強力な力を恐れた周辺国同士が同盟を組み、脅威を排除……つまりはグランフォリア王国を滅ぼそうとするだろう。そしてそれは武力行使のみならず、経済的にも攻め立てられる」

 この説明が合点がいったのか、グレイマン大隊長は納得した表情でこう言った。
「――なるほど。いくら強力な武装をしていようとも、ジリ貧……いつかは衰退し、滅ぼされることになるということか」

「ああ。そうだ。と言っても、この考えは三〇〇年前の国王の受け売りだがな」

「先生! 私からも質問いいですか!」
 今度はアンジュが手を挙げる。

「なんだ?」

「通常、弱体魔法の効果は一種類につき一つが限度のはずです。ですが、先ほどのミノタウロスには先生の宝箱の弱体効果も生じているようでしたが……?」
 首を傾げながらアンジュはそうたずねた。

「確かに、ミノタウロスの動きが二段階で遅くなったように感じたな」
 グレイマン大隊長はそう言いながら頷いてみせる。

「ああ。アンジュの言うとおり、俺の宝箱の弱体は魔法とは別枠だ。つまりは魔法と重ね掛けができる」
 この時、俺はあることを思い出した。
 ミノタウロスが弱体効果を解除した後の出来事を。

 そして俺はこう続ける。
「――そういえば、ミノタウロスの斧を俺が受けた時、アンジュは俺の真後ろにいたな? 俺は『絶対に前に出るな』と言っておいたはずだが?」
 ミノタウロスへ攻撃を加えるなら最適な位置だが、そこはミノタウロスからの攻撃にめ巻き込まれかねない危険な位置だった。

「うっ……ご、ごめんなさい」
 アンジュはシュンとし、俯いてしまう。

「まあアンジュが無事でよかった……それに、あの風弾には助けられた――ありがとう」

「――はいです!!」
 そう答えるアンジュの顔は、一転して笑顔で溢れていたのであった。
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