PEACE KEEPER

狐目ねつき

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15話 会談終了

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「状況を整理しよう」

 と、ピースキーパーさんが提案した後、ビナルファさんとアルネイラを除いた七人で状況整理という名の話し合いが行われた。

 俺やスレイズ、メスバーは話に交わる必要が無いとされ、会談の時と同様少し離れた位置で傍聴するに留まった。

 何十人もの信頼の置ける部下を失った騎士団長は、俺が想像していた以上に動揺が激しかったらしく、話し合いには殆ど口を出さなかった。
 代わりにピースキーパーさんがリーダーシップを発揮し、状況整理の後は掃討作戦の部隊編成の見直しや半年後に控えた作戦決行日までの各々のするべきこと、などを拗れる事なくまとめ上げてみせたのだ。

 ちなみに予定されていた会食は当然、中止。
 話し合いが終わりを迎えた後、彼等はそれぞれに命じられた役割へ取り掛かることに。

 セルヴス、アビアーノ、ヴァシル、ジョルジオス、メスバーの五人は、ガストニア国内で警備任務に従事している騎士達を召集し、宮殿内の後始末と亡くなった騎士の遺族への報告に加え葬儀と恩給の手続きを迅速に行うよう命じられた。

 恐らくこの五人が一番激務だろう。
 少なくとも二日は完徹必死なんじゃないか。

 ピースキーパーさんは騎士団長とまだ話す事があると言い、シングラルさんと共に宮殿を後にした。
 場所を変えて何を話すのか若干気になるところだが、流石に着いていくわけにはいかない。

 そして、俺とスレイズの二人は――。


◇◆◇◆


「おー、レノリアスにスレイズ。お前らなんでここにいんの?」

 朝に来た時と変わらず、宝飾がキラキラと輝く扉を開き応接間に入ってきたのはビナルファさんだった。

「お、お疲れ様です」
「お疲れ様です!」

 俺の会釈に被せる様にスレイズが大きな声で挨拶する。
 俺達二人の本日最後の役割は、診療所へ向かったビナルファさんの帰りを待ち、報告をするといった簡単なものだった。

「あれ? ヴェルスミスと旦那は?」

 応接間を見回しながら、彼が訊いてくる。

「はっ、お二人は騎士団長とまだお話があると告げ、宮殿を後にしました」

「ええ、マジかよ。俺置いてかれたってわけ?」

 スレイズからの報告に、彼は顔をしかめる。

「……まいっか、堅苦しい話はもう懲り懲りだしなぁ。いやー、しかしホントに疲れたっ!」

 そう言うと彼はドアから離れ、窓際に置いてある皮張りのソファーベッドへと溶けるように寝転ぶ。

「本当にお疲れ様です。それで早速お聞きしたいのですが……アルネイラ様のご容態の方は……?」

 スレイズが恐る恐ると尋ねた。
 彼女の安否はもちろん俺も気になっていたところだ。
 二人揃って固唾を呑み、返答を待つ。

「失血死一歩手前だったけど、輸血も間に合って命に別状はない、とさ。今は病院のベッドでスヤスヤ寝てるだろうな」

 頬杖をつきながら寝そべる彼がそう告げると、俺とスレイズは安堵し胸を撫で下ろす。

「本当にありがとうございます、ビナルファさん。下級騎士の俺達ですが、騎士一同を代表してお礼を言わせてください」

 スレイズの礼と共に、俺も頭を下げた。

「いいよ礼なんて。当然の事したまでだっての。ホラ、頭上げろよ」

 そう諭され、俺達も素直に面を見せる。
 そして今度はピースキーパーさんから任されていたもう一つの報告をするべく、俺は口を開く。

「……あの、実はピースキーパーさんからビナルファさんへ指令の伝言を預かっているんですが、伝えてもよろしいでしょうか?」

「あ、無理。疲れてるから今度にして」

 ええ~?
 マジかよ、流石にこの返しは想定してなかったぞ。
 どんだけ緩いんだゼレスティア軍は。

「…………」

 俺とスレイズが困った顔を見合わせていると、ビナルファさんは横になっていた身体を起こす。

「ぶはっ……冗談だっつうの。で、なに?」

 途端に肩の力が抜けた俺とスレイズ。
 軽く咳払いし、気を取り直して伝令を伝える。

「では改めて伝えさせていただきます。"ビナルファ・ヴァイルスは負傷離脱したアルネイラ・ネーレスの代役として、掃討作戦が完了するまでの期間、ガストニア国内へ滞在し騎士団に尽力するよう務めよ"。とのことです」

「……マジ?」

「マジらしいです……。あ、寝泊まりはここの応接間を使用して良いとの御達しも受けております」

「…………」

 ビナルファさんが明らかに嫌そうな顔を見せている。
 そりゃそうだ。年間通して無駄に暑く、古臭いしきたりがいつまでも染み付いたこんな国に半年間も滞在するなんて嫌に決まってる――。



「……まあ、旅行に来たと思えばいいか」

 ――いいのかよっ!
 ほんと掴み所がない性格だなあ……。
 でも、ビナルファさんが残ってくれるのは俺としては嬉しい限りだ。


 そこで、彼はふと壁に掛かっていた木製の時計を見やる。
 現在の時刻は、短針が間もなく十七時を指すところであった。



「……なあ、これからお前ら二人はどうすんの?」

「ビナルファさんへの報告を終えた段階で今日の任務は終了となりますので、これから退勤します」

 スレイズがそう答えると、彼は表情をニヤニヤとさせながらソファーから起き上がる。

「よし、じゃあ飲みに行こうぜ。お前ら17ならこの国ではもう飲める歳だろ? 付き合えよ」


「「へっ……?」」

 間の抜けた声を二人揃って発してしまう。
 飲みに行くって……これから!?

「いえ、あの、今日はもう外にお出掛けにならない方が……良いのでは? 先ほどの戦闘での疲労も溜まっているでしょうし……」

「今寝たからもう直ったよ。いいから行くぞ」

 いやいや、ちょっと横になっただけじゃん!
 本当に大丈夫なのか……?


「それに、だ。せっかく滞在するんだからお気に入りの店を見付けときたいんだよ」

「今日でなくても、よろしいのでは……?」

「うるせえ行こう」

 嗚呼、ダメだ。もう逃れられない。


 結局、俺とスレイズは半ば無理やり連行される形で、彼に付き合う事となったのだ――。


◇◆◇◆


「乾杯……はできないな」


 蒸留酒ががれたグラスを片手に、ヴェルスミス。

「…………」

 その右隣に腰を下ろし、無言でグラスを口に運ぶのはグレイム。

「……しかし、驚きだな。騎士団長であるお前がこんな色気のない店に通い詰めているなんてな」

 ヴェルスミスの左隣に座り、葡萄酒を嗜みながら、シングラル。

「一度気に入った物には執着するタチでな。それが店でも、人でも、例外はない」

「なるほどな、お前が二代に渡って騎士団長の座に居るのが良くわかったよ」

「ふ、ジョルジオスにも同じ事を言われたよ」

 シングラルからの冗談に苦笑混じりで返したグレイムがグラスを置き、再び同じ酒を注文した。


 ここは、宮殿がある中心街の外れに構えられたバー。
 賑やかさとは無縁な場所に建つこの店は、グレイムがまだ騎士になって間もない頃から営業している彼の行き着けのバーなのだ。

 一つの灯飾もなく、蝋燭が照らすだけの薄暗い店内にはカウンター席しかない。
 店の主人マスターは騎士団最長齢であるジョルジオスよりも更に年配の老人が一人と、他の従業員は居ない。
 国の最高権力を誇る彼がこのような寂れた店に通うとは、誰が思うだろうか。




「で、ピースキーパー。話したい事とは一体なんだ?」

 背もたれが無い木製の丸イスに座るグレイムが、身体を左へと向け尋ねる。

「ああ、色々とあるんだがまずは"彼"について話を聞きたい」

「……彼?」

 グレイムが訝しむと、ヴェルスミスはその名を口にする。



「――レノリアス・フォルデンについてだ」
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