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Youth with sword and armor
04話 扉の先には
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平らに均された石で出来た床。
鉄靴がそれを踏み、無機物同士のぶつかる音が響く。
宮殿の2階、礼拝の間から出てすぐの長い廊下を、俺とスレイズが並んで歩いていた。
その俺達の前方には、五星のセルヴスが先導して先を往く。
現在俺達が向かっている部屋は『応接間』という、他国の使者や客人を招き入れるための部屋だ。
ちなみに、俺とスレイズが立てていた任務内容の予想は当たっていた。
―――内務の概要はこうだ。
今日の午後、騎士団長とゼレスティア国の使者との会談が礼拝の間で執り行われるらしい。
会談の内容は『ウェリーム大森林』を根城とした魔神族を殲滅すべく大々的にうち出された『大掃討作戦』の作戦会議だという。
ガストニアとゼレスティア、元々は敵国同士だったのが、同盟国となってから初の共同戦線。ゼレスティアの騎士団長――的な役職に就くピースキーパーさんとガストニアの騎士団長は、かつての紛争で何度も剣を交えた間柄らしい。いわゆるライバル関係ってヤツ?
なのでデリケートな会談が予想されるということで、警備は厳重にして執り行うとか。
今日の内務に人員を割いたのはその為だと。
その概要を聞いて、俺とスレイズはてっきり警備の方へ回されるのかと思いきや――。
『――フォルデン、フーバー。二人には応接間で控えている使者達の身の回りの世話をしてほしい』
『――彼等は長旅で疲れているだろうし、丁重におもてなしをしてやってくれ』
『――くれぐれも失礼な言動などはしないように心掛けておけ。頼んだぞ』
……だとさ。
なんだって俺とスレイズの様な平騎士風情に、平気でそんな大役を任せるんだ騎士団長さんは。
いくら俺が退屈な日常に飽き飽きしてるといっても、こんな面倒そうな仕事を望んだつもりはない。
……そういえば、スレイズの方は――と。
隣で歩いている友人を、俺は横目でチラリと見てみる。
「……おはよう、ございます? いや、違うな。本日はお日柄も良く……。これもなんか違うな。お初にお目にかかります? これで……いいのかな……いや、でも……」
呪文でも唱えるかのように、ぼそぼそとした声で挨拶の練習をしているスレイズ。
あかん、完全にアガっちゃってる。
「フォルデン、フーバー」
とそこで、目の前を歩いていたセルヴスの足がピタッと止まり唐突に俺達の名を呼ぶ。
この人は気難しい性格の騎士達が揃う五星の中でも、断トツに無愛想で無口な人物。
尊敬してやまない騎士団長の命令以外は絶対に聞き入れないという。
「「はっ、なんでしょう。セルヴス様」」
同時に足を止め、スレイズと共に返事をする。
セルヴスは振り向かず、そのまま話し始めた。
「二人とも、あまり気負うなよ。不安な気持ちはあるだろうが心配するな」
何を言うかと思えば、激励だった。
騎士団長よりも更に低く重たい声で、俺達二人の不安を和らげようとしてくれたのだ。
「あ、ありがとうございます……! 俺達、頑張ります!」
「……ありがとう、ございます!」
スレイズに続き、俺も礼を述べる。
緊張でガチガチだったスレイズも五星からの心遣いが功を奏したのか、少しだけ表情が柔らかくなる。
かくいう俺もスレイズほどじゃないにせよ、かなり緊張はしてたし正直助かった。
この人、普段の任務じゃ顔を合わせることも無かったし声を聞いたこともなかったけど、実は結構いい人なのかもな。
「……自信を持て。この会談の成功はお前達の双肩に懸かっているといっても過言ではない。よし、行こう」
俺達が安心したのを確認すると、満足げにそう告げ、再び歩を進めるセルヴス。
俺達も彼に続いて歩みを再開させる。
……ん?
今さらりとプレッシャー押し付けられなかったか?
多分、本人に悪気は無いし良かれと思って言ったんだろうけど、人心掌握下手すぎるだろこの人!
結果として過剰な緊張と重圧を携えたまま、俺とスレイズは応接間へと案内されるのであった。
◇◆◇◆
長い廊下を進むと、曲がり角にぶつかる。
そこを曲がると、3階へと続く階段が目の前に現れた。
一階にある巨大な正面階段とは違い、二人分の幅くらいしかない簡素な階段。
十段余りのそれを昇りきった先に見えるのは、石で囲まれた無機質なこの空間には似つかわしくない、キラキラと輝いた宝飾が為された扉。
他に部屋が無いのを見るに、どうやらこの扉の先が『応接間』となっているらしい。
「フォルデン、フーバー、着いたぞ。何をやってる」
滅多にお目にかかれない宝飾の眩い輝きに見とれていた俺とスレイズが、セルヴスの言葉で現実へと引き戻される。
「ここが応接間だ。中にゼレスティアからの使者達が控えている。騎士団長から言われているだろうが、くれぐれも――」
「「失礼な言動などはしないように心掛けます」」
騎士団長から課せられた心掛けを、被せるように復唱する俺とスレイズ。
「ノックの回数は――」
「「四回。但しニ回とニ回の間に一拍置きます」」
「入室してまず始めに――」
「「一礼、の前に剣と手甲を差し出し敵意の皆無を表明します」」
たった今復唱させられたのは、騎士団における礼儀作法の確認。
ただ部屋に入って挨拶をするだけなのに、どうしてここまで面倒な決まりを守らなきゃならないのか。
ノックの回数なんてどのシチュエーションでも2回で良いだろうし、剣と手甲なんて最初から持ってかなきゃ良い話だ。
毎度の事ながら本当、理解に苦しむ。
学生時代から、呼吸の次に簡単だと思わせられる程に叩き込まれた作法だったので、問い掛けはもちろん全問正解。
二人の回答を聞いたセルヴスは表情こそ崩すことはなかったが、強張らせていた肩肘を少しだけ緩める。
「……殊勝だな。では頼んだぞ」
「「はっ!」」
背筋をピンと伸ばし、右拳を胸に当て一礼。
これが任務開始の合図だ。
均等に並べられた松明で照らされた廊下から、セルヴスの背中が見えなくなるのを確認したところで、隣に立つスレイズに俺は小声で囁く。
「……面倒くさいな」
「仕方ないだろ。任務は任務だ。やるしかない」
お互いの緊張を和らげようと面倒だと言ったのだが、逆効果だったようだ。
若干の憤慨と共に、スレイズが先に階段を昇っていく。
こいつは変に真面目なとこがたまにあるんだよなぁ。
スレイズの後を追い、俺も階段を昇る。
扉の前に辿り着く。近くまで来ると宝飾の輝きがより一層際立って見える。
先に着いていたスレイズが扉へと手を伸ばし、手の甲となる位置を向けた。
「レノ……俺がノックするぞ?」
「任せた」
友人にそれだけを伝え、託す。
俺からの返事を聞いたスレイズが、小さく深呼吸をする。
そして、恐る恐ると――。
コンコン、コンコン――――。
やや甲高いノックの音が、階段中へ反響する。
「どうぞ――」
「――っ!!」
室内からこもって聴こえた、入室を許可する声。
ごくりと生唾を飲み干す。隣にいるスレイズも同様に喉を鳴らす。
お互いに顔を見合わせ小さく頷き合うと、意を決したスレイズが『失礼します』と告げ、ドアを押し開く。
ピースキーパーさんとやらはどんな人なのか。
他の二人はどういった人物なのだろうか。
室内の構造はどうなっているのか。
様々な疑問が頭の中に浮かぶが、それらを整理しきれないまま無情にも扉は開かれる。
照明の光が扉の先から放たれ、思わず目を細めてしまった。
光に目が慣れ始めたところで、広がる室内の光景。
視覚から得た情報が、一斉に俺の脳内へと雪崩れ込む。
――床一面に敷かれたワインレッドカラーの絨毯。
――高価そうな光飾灯。
――恐らくゼルコーバで出来た、高級感漂うイスとテーブル。
――それに座り、テーブルに肘を付く空色の髪の男。
――その奥に立ち、腕を組んだオールバックの筋肉質な男。
――そして窓際に立つ、黒皮のコートを着込んだ金髪の男。
『この人だ』
稲光の様に一瞬で脳裏を過ったその判断。
窓際に立っている人物が恐らく、いや。絶対にピースキーパーさんだろう。
他の二人も漂ってくるオーラから只者では無いことが伝わる。
しかし、この人だけは何かが違っていた。
言葉では言い表すことのできない絶対的な何かが、彼にはあったのだ。
「…………」
息が詰まりそうになる程の重苦しい緊張感が、室内に漂う。
テーブル、部屋奥、窓際からの三者一様の視線と注目を浴びる俺とスレイズ。
冷や汗が額から滲み出てくるが、落ち着いた素振りを無理矢理取り繕い絨毯に両膝をつける。
まずは左手に握っていた鉄剣を、鞘に納めたまま横向きに床へ置く。
次いで、両の手にはめていた手甲を脱ぎ鉄剣の手前に並べて置いた。
これで、俺達に敵意が無いことを示す意思表示が、完了した。
しかし――。
「……ぷっ、ぶははははははっ!!」
堅苦しい空気のこの場には到底相応しくないであろうバカでかい笑い声が、部屋中に響き渡る。
下を向いていた俺とスレイズが反射的に面を上げ、笑い声の聴こえる方向へ視線を移すと、イスに座っていた男が大口を開けて爆笑しているのが目に映った。
なにが可笑しい?
こちらに不手際があったのだろうか?
疑問符ばかりが俺の頭上に浮かぶ。スレイズも同様の思いだろう。
「いやー! 負けたよ、シングラルの旦那ぁ! まさか本当に置くなんてオレ思わなかったよ!」
トーンが高めな声で、空色の髪の男が後ろに立つ男にそう言う。
「バカ野郎、笑うなビナルファ! 来てくれた二人に失礼だろ」
オールバックの大男が、こちらを向いて笑い飛ばす彼に怒声混じりで嗜める。
「だってさ、だってさ! 旦那の言う通りコイツらマジでノック4回するし、キチンと剣も置くんだもん! オレもう可笑しくって可笑しくって……ぶはははは!」
怒られているというのに反省を微塵も感じさせないビナルファと呼ばれた男は、堪えきれずに再び大声で笑う。
その様を見てたら段々とイライラしてきた。
「だから笑うなって! ……すまんなキミ達、ウチの阿呆が失礼な真似をして」
筋肉質の男がこちらに軽く頭を下げ、謝罪をしてくる。
窓際に立つ男は表情を崩さず、じっとこちらを見続けている。
一体なんなんだよ。訳がわからない。
鉄靴がそれを踏み、無機物同士のぶつかる音が響く。
宮殿の2階、礼拝の間から出てすぐの長い廊下を、俺とスレイズが並んで歩いていた。
その俺達の前方には、五星のセルヴスが先導して先を往く。
現在俺達が向かっている部屋は『応接間』という、他国の使者や客人を招き入れるための部屋だ。
ちなみに、俺とスレイズが立てていた任務内容の予想は当たっていた。
―――内務の概要はこうだ。
今日の午後、騎士団長とゼレスティア国の使者との会談が礼拝の間で執り行われるらしい。
会談の内容は『ウェリーム大森林』を根城とした魔神族を殲滅すべく大々的にうち出された『大掃討作戦』の作戦会議だという。
ガストニアとゼレスティア、元々は敵国同士だったのが、同盟国となってから初の共同戦線。ゼレスティアの騎士団長――的な役職に就くピースキーパーさんとガストニアの騎士団長は、かつての紛争で何度も剣を交えた間柄らしい。いわゆるライバル関係ってヤツ?
なのでデリケートな会談が予想されるということで、警備は厳重にして執り行うとか。
今日の内務に人員を割いたのはその為だと。
その概要を聞いて、俺とスレイズはてっきり警備の方へ回されるのかと思いきや――。
『――フォルデン、フーバー。二人には応接間で控えている使者達の身の回りの世話をしてほしい』
『――彼等は長旅で疲れているだろうし、丁重におもてなしをしてやってくれ』
『――くれぐれも失礼な言動などはしないように心掛けておけ。頼んだぞ』
……だとさ。
なんだって俺とスレイズの様な平騎士風情に、平気でそんな大役を任せるんだ騎士団長さんは。
いくら俺が退屈な日常に飽き飽きしてるといっても、こんな面倒そうな仕事を望んだつもりはない。
……そういえば、スレイズの方は――と。
隣で歩いている友人を、俺は横目でチラリと見てみる。
「……おはよう、ございます? いや、違うな。本日はお日柄も良く……。これもなんか違うな。お初にお目にかかります? これで……いいのかな……いや、でも……」
呪文でも唱えるかのように、ぼそぼそとした声で挨拶の練習をしているスレイズ。
あかん、完全にアガっちゃってる。
「フォルデン、フーバー」
とそこで、目の前を歩いていたセルヴスの足がピタッと止まり唐突に俺達の名を呼ぶ。
この人は気難しい性格の騎士達が揃う五星の中でも、断トツに無愛想で無口な人物。
尊敬してやまない騎士団長の命令以外は絶対に聞き入れないという。
「「はっ、なんでしょう。セルヴス様」」
同時に足を止め、スレイズと共に返事をする。
セルヴスは振り向かず、そのまま話し始めた。
「二人とも、あまり気負うなよ。不安な気持ちはあるだろうが心配するな」
何を言うかと思えば、激励だった。
騎士団長よりも更に低く重たい声で、俺達二人の不安を和らげようとしてくれたのだ。
「あ、ありがとうございます……! 俺達、頑張ります!」
「……ありがとう、ございます!」
スレイズに続き、俺も礼を述べる。
緊張でガチガチだったスレイズも五星からの心遣いが功を奏したのか、少しだけ表情が柔らかくなる。
かくいう俺もスレイズほどじゃないにせよ、かなり緊張はしてたし正直助かった。
この人、普段の任務じゃ顔を合わせることも無かったし声を聞いたこともなかったけど、実は結構いい人なのかもな。
「……自信を持て。この会談の成功はお前達の双肩に懸かっているといっても過言ではない。よし、行こう」
俺達が安心したのを確認すると、満足げにそう告げ、再び歩を進めるセルヴス。
俺達も彼に続いて歩みを再開させる。
……ん?
今さらりとプレッシャー押し付けられなかったか?
多分、本人に悪気は無いし良かれと思って言ったんだろうけど、人心掌握下手すぎるだろこの人!
結果として過剰な緊張と重圧を携えたまま、俺とスレイズは応接間へと案内されるのであった。
◇◆◇◆
長い廊下を進むと、曲がり角にぶつかる。
そこを曲がると、3階へと続く階段が目の前に現れた。
一階にある巨大な正面階段とは違い、二人分の幅くらいしかない簡素な階段。
十段余りのそれを昇りきった先に見えるのは、石で囲まれた無機質なこの空間には似つかわしくない、キラキラと輝いた宝飾が為された扉。
他に部屋が無いのを見るに、どうやらこの扉の先が『応接間』となっているらしい。
「フォルデン、フーバー、着いたぞ。何をやってる」
滅多にお目にかかれない宝飾の眩い輝きに見とれていた俺とスレイズが、セルヴスの言葉で現実へと引き戻される。
「ここが応接間だ。中にゼレスティアからの使者達が控えている。騎士団長から言われているだろうが、くれぐれも――」
「「失礼な言動などはしないように心掛けます」」
騎士団長から課せられた心掛けを、被せるように復唱する俺とスレイズ。
「ノックの回数は――」
「「四回。但しニ回とニ回の間に一拍置きます」」
「入室してまず始めに――」
「「一礼、の前に剣と手甲を差し出し敵意の皆無を表明します」」
たった今復唱させられたのは、騎士団における礼儀作法の確認。
ただ部屋に入って挨拶をするだけなのに、どうしてここまで面倒な決まりを守らなきゃならないのか。
ノックの回数なんてどのシチュエーションでも2回で良いだろうし、剣と手甲なんて最初から持ってかなきゃ良い話だ。
毎度の事ながら本当、理解に苦しむ。
学生時代から、呼吸の次に簡単だと思わせられる程に叩き込まれた作法だったので、問い掛けはもちろん全問正解。
二人の回答を聞いたセルヴスは表情こそ崩すことはなかったが、強張らせていた肩肘を少しだけ緩める。
「……殊勝だな。では頼んだぞ」
「「はっ!」」
背筋をピンと伸ばし、右拳を胸に当て一礼。
これが任務開始の合図だ。
均等に並べられた松明で照らされた廊下から、セルヴスの背中が見えなくなるのを確認したところで、隣に立つスレイズに俺は小声で囁く。
「……面倒くさいな」
「仕方ないだろ。任務は任務だ。やるしかない」
お互いの緊張を和らげようと面倒だと言ったのだが、逆効果だったようだ。
若干の憤慨と共に、スレイズが先に階段を昇っていく。
こいつは変に真面目なとこがたまにあるんだよなぁ。
スレイズの後を追い、俺も階段を昇る。
扉の前に辿り着く。近くまで来ると宝飾の輝きがより一層際立って見える。
先に着いていたスレイズが扉へと手を伸ばし、手の甲となる位置を向けた。
「レノ……俺がノックするぞ?」
「任せた」
友人にそれだけを伝え、託す。
俺からの返事を聞いたスレイズが、小さく深呼吸をする。
そして、恐る恐ると――。
コンコン、コンコン――――。
やや甲高いノックの音が、階段中へ反響する。
「どうぞ――」
「――っ!!」
室内からこもって聴こえた、入室を許可する声。
ごくりと生唾を飲み干す。隣にいるスレイズも同様に喉を鳴らす。
お互いに顔を見合わせ小さく頷き合うと、意を決したスレイズが『失礼します』と告げ、ドアを押し開く。
ピースキーパーさんとやらはどんな人なのか。
他の二人はどういった人物なのだろうか。
室内の構造はどうなっているのか。
様々な疑問が頭の中に浮かぶが、それらを整理しきれないまま無情にも扉は開かれる。
照明の光が扉の先から放たれ、思わず目を細めてしまった。
光に目が慣れ始めたところで、広がる室内の光景。
視覚から得た情報が、一斉に俺の脳内へと雪崩れ込む。
――床一面に敷かれたワインレッドカラーの絨毯。
――高価そうな光飾灯。
――恐らくゼルコーバで出来た、高級感漂うイスとテーブル。
――それに座り、テーブルに肘を付く空色の髪の男。
――その奥に立ち、腕を組んだオールバックの筋肉質な男。
――そして窓際に立つ、黒皮のコートを着込んだ金髪の男。
『この人だ』
稲光の様に一瞬で脳裏を過ったその判断。
窓際に立っている人物が恐らく、いや。絶対にピースキーパーさんだろう。
他の二人も漂ってくるオーラから只者では無いことが伝わる。
しかし、この人だけは何かが違っていた。
言葉では言い表すことのできない絶対的な何かが、彼にはあったのだ。
「…………」
息が詰まりそうになる程の重苦しい緊張感が、室内に漂う。
テーブル、部屋奥、窓際からの三者一様の視線と注目を浴びる俺とスレイズ。
冷や汗が額から滲み出てくるが、落ち着いた素振りを無理矢理取り繕い絨毯に両膝をつける。
まずは左手に握っていた鉄剣を、鞘に納めたまま横向きに床へ置く。
次いで、両の手にはめていた手甲を脱ぎ鉄剣の手前に並べて置いた。
これで、俺達に敵意が無いことを示す意思表示が、完了した。
しかし――。
「……ぷっ、ぶははははははっ!!」
堅苦しい空気のこの場には到底相応しくないであろうバカでかい笑い声が、部屋中に響き渡る。
下を向いていた俺とスレイズが反射的に面を上げ、笑い声の聴こえる方向へ視線を移すと、イスに座っていた男が大口を開けて爆笑しているのが目に映った。
なにが可笑しい?
こちらに不手際があったのだろうか?
疑問符ばかりが俺の頭上に浮かぶ。スレイズも同様の思いだろう。
「いやー! 負けたよ、シングラルの旦那ぁ! まさか本当に置くなんてオレ思わなかったよ!」
トーンが高めな声で、空色の髪の男が後ろに立つ男にそう言う。
「バカ野郎、笑うなビナルファ! 来てくれた二人に失礼だろ」
オールバックの大男が、こちらを向いて笑い飛ばす彼に怒声混じりで嗜める。
「だってさ、だってさ! 旦那の言う通りコイツらマジでノック4回するし、キチンと剣も置くんだもん! オレもう可笑しくって可笑しくって……ぶはははは!」
怒られているというのに反省を微塵も感じさせないビナルファと呼ばれた男は、堪えきれずに再び大声で笑う。
その様を見てたら段々とイライラしてきた。
「だから笑うなって! ……すまんなキミ達、ウチの阿呆が失礼な真似をして」
筋肉質の男がこちらに軽く頭を下げ、謝罪をしてくる。
窓際に立つ男は表情を崩さず、じっとこちらを見続けている。
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