PEACE KEEPER

狐目ねつき

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Liebe guard

10話 挑発

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 吹き抜けの天井。汗臭さは感じられず、心地良い風がそよいでいる武術場。
 しかし、対峙するアウルと団士二人から漂う空気感は、爽やかさとは無縁のものだった――。


 普段、学士達の前では飄々と振る舞っていたサクリウス。
 学士を相手にここまで啖呵を切られてしまっては、彼も団士としての面子がある。無視を決め込む訳にもいかなかったのだ。

 一方のアウルは大胆不敵。
 団士二人をこれでもかと言う程に挑発していた。

 そのやり取りを見ていた他の学士達。
 彼らはかねてよりサクリウスとワインロックに対し憧れを抱き、崇拝の対象としていた。
 そんな二人に対し不遜な態度を続けるアウルを決して許しはせず、背中へと罵詈雑言の嵐を飛ばす。
 勿論、ピリムとライカはその野次に参加はしなかった。


「あーもう、うるさいなあ。みんなもこの二人にムカつかないの?」

 アウルが振り向き嫌々とそう言うと、レスレイが群れの中から学士を代表するかのように前へと出てきた。

「アウルくん、遠慮なく言わせてもらうよ。君は卒業後の進路についてあまり深く考えて無い。だから理解は出来ないかもしれないけど、僕や彼らの様に軍への入隊願望がある者にとって、親衛士団であるサクリウス様とワインロック様は神のような存在なんだよ」

「ふうん、それで?」

 興味が無さそうに聞き返すアウル。レスレイは更に続ける。

「大体、アウル君は普段からこのゼレスティアの平和が誰のおかげで維持できてると思っているんだい? 僕が説明しなくてもそれは理解しているだろう? けど、理解した上で御二人に向かって君が不遜な態度をこれ以上続けるというのなら、僕達は君を許さないぞ……!」

 そう言い終え、丸いレンズの奥から睨み付けてくるレスレイ。
 だがアウルは言葉を選ばず、忌憚なく言い返す。


「……言いたいことは良く分かったよ。じゃあ、まずはレスレイから相手をしてくれるんだよね? それならいいよ、来なよ」

 団士二人に向けてた身体を翻し、アウルはバンブレードの剣身をレスレイへと向ける。

「……っ!」

 先程のライカとの試合を見物してたレスレイは、当然アウルの実力を知っていた。その為、向けられた剣に対し及び腰となってしまう。他の学士も同様に狼狽えた姿を見せる。



「――ビビるこたねえよ、レスレイ。コイツは俺がやる! 下がってな!」

 臆することなくそう言い、レスレイを押し退ける様に威勢良く飛び出してきたのはパシエンスであった。

「さっきから黙って聞いてりゃ、ライカート如きを相手に圧倒したからって随分と調子に乗ってんじゃねえかアウリストぉ!」

 アウルがサクリウス達相手に揉め事を起こし、その場にいた全員の注目がそちらに向かったことで結果的にトーナメントは中止になってしまった。
 その為、パシエンスは鬱憤を溜め込んでいた。
 そしてその鬱憤を、目の前のアウルで晴らそうとたった今意気込んだのだ。



「えーと……。ごめん、また名前忘れちゃった。お前で……いいのか?」

「パシエンスだパシエンス! お前絶対わかってて言ってるだろ!」

 舐め切った態度を崩さない相手に、パシエンスは憤慨。跳躍の勢いそのままに斬りかかる――。

 脳天に迫り来る剣。
 先程と同様、アウルは冷静に柄で刀身を弾き対処する。

「ハッ! またか! なら……これでどうだっ!」

 しかし、パシエンスも動じない。
 それどころか弾かれた遠心力を利用し、そのまま側頭部目掛けて横に薙いだ。

「何だと……!?」

 ――が、しかし。その驚く声を洩らしたのはアウルではなくパシエンスだった。
 当たると確信していた剣撃は、アウルの頭頂を掠めるように空を切っていたのだ。
 前に屈んで回避していたアウルはそのまま懐に入り込み、柄頭でパシエンスの腹部を突く。

「あ……が……っ!」

 鳩尾を強打されたことによって、呼吸筋とも呼ばれる横隔膜が急激にせり上がり、パシエンスがその場で苦しみ悶える。

「パシエンス君―――!」

「大したダメージじゃない筈だからそんなに心配は要らないよ。奥にでも運んであげて」

 慌てて駆け付けてきたレスレイはその言葉を信じ、呻くパシエンスの肩を貸す。
 その場を後にした二人と入れ替わるように、今度はピリムとライカの二人がアウルの元に駆け寄った。

「ねぇアウル、アンタちょっと調子に乗りすぎてんじゃないの? こんなことしてたら後で教士達に何言われるか分かったもんじゃないわよ……?」

 レスレイ、パシエンスとは違いアウルの身を案じながら咎めるピリムだったが、アウルは冷静に返す。

「わかってるよ。でも少しだけ続けさせて。俺の実力がどれほどなのか試したいんだ」

「え? それってどういう……」

「良いんだよピリム! ちょっと耳貸せっ」

 ポカンとするピリムであったが、アウルの本来の目的をライカから耳打ちされると、渋々と同調をしてくれた。


「んじゃ、俺達は大人しく見てるからよ、アウル。健闘を祈るぜ!」

「ああ、任せて!」

 二人は親指をピッと立てる仕草を向け合った。



「さて、と。待たせたね……」

 再びくるりと振り返り、サクリウス達に向き直ったアウル。

「んー、別に待ってねーよ?」

「そう。じゃあ、どっちが相手してくれるの?」



(面倒くせーなぁ……。いくらピースキーパーの血を引いてるからって学士相手に戦いたくねーんなけどなぁ。ワインはどうなんだ?)

 と、思考したサクリウス。
 横目で隣にいるワインロックの様子を窺う。

「っjfひghgyfydkfkgkdぁっfkふswxgyfzrztgほkのいびヴvyふsdxkxqpdーどdっfkヴvyctcdrdhーいcds~~」

(あーー、ダメだこりゃ。完全にスイッチ入っちゃってら)

 アウルへの怒りによる、凄まじい文字数で紡がれた言葉。恐らくは唯の暴言なのだろうが、それはもはや呪詛と呼ぶに相応しかった。

(こうなっちまったら、ワインロックこいつはもう手加減なんてしてくれねーだろうしなー。しゃーねえ、オレがやるしかないか……)

 少しの溜め息を吐き、先程投げられたバンブレードを拾い上げ、サクリウスはアウルの前に立つ。

「オレがやるよー。ワインロックじゃ指導にならないしなー」

 彼のその物言いに反応を示したアウル。目の色が変わる。

「へえ、"指導"? 随分な言い草だね」

「んー? 気に障ったかー? こーいうつまんない皮肉に一々突っ掛かってくる辺り……やっぱりまだまだガキだなー」

 皮肉に皮肉を重ね、煽るサクリウス。

「……この野郎」


 効果は覿面てきめんだったようだ。
 少年は握る剣に力を込め、そのまま勢い良く斬りかかっていった。
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