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緩和及第
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忘れたわけじゃない。そもそも最初から『なかった』ことになったというのが事の真相に近い。
「おさらいしておこう。ツバサのことは覚えてる?」
「忘れてはいない。俺の弟のような存在だ。」
「そうか。その親父さんから、依頼を受けた記憶はあるか?」
「・・・ない。」
「そう、お前は『俺と会っていない』世界のアキラなんだ。そもそも俺自体が存在しない可能性もあるが。」
「パラレルワールドってやつ?おじさんからちょっと聞かされたけど。」
「まあ、そんなところだ。正確にはもっと違うんだけど。」
実際のところは、敵が開発した『次元転換装置』のせいで、世界そのものが置き換わったというのが正しい。装置は何度か発動し、その度にアキラやツバサが世界から『弾き出され』て、最終的にアルティマに流れ着いたんだろう。アキラやツバサが事実上何人もいるのはそのせいだ。
つまり、50年くらい前にこの世界に来たツバサと、今目の前にいるアキラと、今のガイ自身は、それぞれが別の世界から来た人物ということになる。ツバサとガイはそれぞれ別のアキラを自分の目で看取っているはずだから。
「っていうか俺何回死んでるんだよ。」
「それはお前が無鉄砲すぎるのがいけない。」
「よく知ってるじゃないか。」
「何回も一緒に戦ってるからな。」
多分、今回単独でこの世界に転移してきていても、道中でポックリ逝ってておかしくなかった。ケイがいてよかったとしか言いようがない。
「そのケイは一体どこに行ったのか。」
「自分の目的のために独自に動いてるんじゃないかな。それがなにかは知らないけど。」
『哀の最果て』、どんな場所で、何があるのか、見当もつかない。本当にあるのかも知らないし、どんな目的で行こうとしているのかもわからない。犬のおまわりさんよりも全然わからん。
わからないと言えば、ガイたちがいなくなった後の地球がどうなったのか、その結末は誰も知らない。
ただガイが覚えているのは、恐獣や翼獣が地上であふれかえり、最後の次元転換装置が作動した瞬間だけだった。
「まあ話を戻そう。この先スペリオンとして戦う機会が来るかどうかだが、おそらくYesだろう。」
「あんなでっかい恐竜、いや怪獣がいるからだな。」
「だが、そんな怪獣退治ならいざしらず、人間同士の争いに俺はそこまで首突っ込まないからな。そこは理解してくれ。」
「それは大丈夫だ。俺も人間同士の戦争に手を貸すつもりはない。生きるのに手いっぱいだし。」
「それと、融合してもお互いの心の内にまで干渉しないということを取り決めておこう。」
「そんなことまで出来るのか?」
「文字通り一心同体になれるからな、お前にできることは俺にも出来るようになる、逆も然り。」
「わかった。ところで、このニンジン美味そうだぞ。」
「野生のニンジンなんて食えるのか?」
「毒が無ければ焼いて食える。」
そんな話を、食糧を探しながら二人はしていた。これから地中海を越えることになるので、備蓄は十分にしておきたく、手分けして採集しているとうわけだ。
この後、シャロンが得体のしれないキノコを持ってきたのを全員で全力で阻止した。
☆
出発だ。地中海を船で渡り、サメルへ向かう。
「地中海は四方を大陸に囲まれた、あたかも湖のような姿をしているけど、しょっぱい。」
「本当に『海』なんだな。」
さざ波の音と、それに伴った潮風を感じながら、デュラン先生が軽く授業をする。が、誰も聞かずに浜辺で遊んでいる。聞いてるのはアキラとガイだけ。
「気楽なもんだな、学生ってやつは。」
「アキラの世界では、どういう風にしていたのかなこういう時。」
「修学旅行なんてこんなもんでしょどこでも。」
「俺は学校行ってないからわからん。」
子供は子供らしく波打ち際ではしゃいでいる。
「浜辺なんて珍しくも無いだろう?学園の裏が海だったし。」
「でもよ、見ろよこの砂。珍しい形をしてるぜ。」
「星の砂だな。」
よく見て見れば砂の一粒一粒が星の形をしている。星の砂という、その神秘的な名前とは裏腹に、貝の一種の死骸というのが実態である。真実とは時に呆気ないものである。
「旅の記念に持ってかえろっと。」
「気楽なもんだなあ。」
「絶対みんなで無事に帰るって願掛けだよ!ガイこそ、お土産とか用意しないの?エリーゼにさ。」
「なんでエリザベスが出てくるんですかね。」
「何?カノジョ?」
「違う。」
「『まだ』、ね。」
「ひゅーひゅー。」
「茶化すな。」
遠い地に置いてきた、夢中な彼女に思いを馳せる。心なしか顔が赤くなっている。
「それにしても砂浜か、足腰を鍛えるにはちょうどよさそうだな。」
「そういえば、あの毎朝の健康体操もアキラの発案だよね?」
「ん?発案というか、伝承だな。俺が物心つくころにはもう毎日やってたぞ。」
「そんなにか。それで、どれぐらい鍛えられてるんだ?」
「ふっふっふっ、なら喰らってみるか俺の一撃。」
「ガイがな。」
「はっ?」
「ふっ。」
「べっ!」
アキラが小さく息を吐いたら、ガイはそのままのポーズで吹っ飛ぶ。しばらくして海面に水柱が上がる。
「こんなもんだ。力のスイッチの入れ方を、体で覚えるんだ。」
「すっげぇ!」
「怒りのスイッチが入っちまったな。」
「やっべ逃げよ。」
脱兎するアキラを、ガイは追いかける。そうこうしてクラス全員で砂浜ランニングがはじまった。
確かにコイツはアキラに間違いない。間違いないのだけれど、少し性格が違う。まあ性格なんて、しばらく会わなかっただけでも変わって見えるものだが、世界が違えばこうも変わるものなんだなと、ガイは少し遠いところが見えた。
「おさらいしておこう。ツバサのことは覚えてる?」
「忘れてはいない。俺の弟のような存在だ。」
「そうか。その親父さんから、依頼を受けた記憶はあるか?」
「・・・ない。」
「そう、お前は『俺と会っていない』世界のアキラなんだ。そもそも俺自体が存在しない可能性もあるが。」
「パラレルワールドってやつ?おじさんからちょっと聞かされたけど。」
「まあ、そんなところだ。正確にはもっと違うんだけど。」
実際のところは、敵が開発した『次元転換装置』のせいで、世界そのものが置き換わったというのが正しい。装置は何度か発動し、その度にアキラやツバサが世界から『弾き出され』て、最終的にアルティマに流れ着いたんだろう。アキラやツバサが事実上何人もいるのはそのせいだ。
つまり、50年くらい前にこの世界に来たツバサと、今目の前にいるアキラと、今のガイ自身は、それぞれが別の世界から来た人物ということになる。ツバサとガイはそれぞれ別のアキラを自分の目で看取っているはずだから。
「っていうか俺何回死んでるんだよ。」
「それはお前が無鉄砲すぎるのがいけない。」
「よく知ってるじゃないか。」
「何回も一緒に戦ってるからな。」
多分、今回単独でこの世界に転移してきていても、道中でポックリ逝ってておかしくなかった。ケイがいてよかったとしか言いようがない。
「そのケイは一体どこに行ったのか。」
「自分の目的のために独自に動いてるんじゃないかな。それがなにかは知らないけど。」
『哀の最果て』、どんな場所で、何があるのか、見当もつかない。本当にあるのかも知らないし、どんな目的で行こうとしているのかもわからない。犬のおまわりさんよりも全然わからん。
わからないと言えば、ガイたちがいなくなった後の地球がどうなったのか、その結末は誰も知らない。
ただガイが覚えているのは、恐獣や翼獣が地上であふれかえり、最後の次元転換装置が作動した瞬間だけだった。
「まあ話を戻そう。この先スペリオンとして戦う機会が来るかどうかだが、おそらくYesだろう。」
「あんなでっかい恐竜、いや怪獣がいるからだな。」
「だが、そんな怪獣退治ならいざしらず、人間同士の争いに俺はそこまで首突っ込まないからな。そこは理解してくれ。」
「それは大丈夫だ。俺も人間同士の戦争に手を貸すつもりはない。生きるのに手いっぱいだし。」
「それと、融合してもお互いの心の内にまで干渉しないということを取り決めておこう。」
「そんなことまで出来るのか?」
「文字通り一心同体になれるからな、お前にできることは俺にも出来るようになる、逆も然り。」
「わかった。ところで、このニンジン美味そうだぞ。」
「野生のニンジンなんて食えるのか?」
「毒が無ければ焼いて食える。」
そんな話を、食糧を探しながら二人はしていた。これから地中海を越えることになるので、備蓄は十分にしておきたく、手分けして採集しているとうわけだ。
この後、シャロンが得体のしれないキノコを持ってきたのを全員で全力で阻止した。
☆
出発だ。地中海を船で渡り、サメルへ向かう。
「地中海は四方を大陸に囲まれた、あたかも湖のような姿をしているけど、しょっぱい。」
「本当に『海』なんだな。」
さざ波の音と、それに伴った潮風を感じながら、デュラン先生が軽く授業をする。が、誰も聞かずに浜辺で遊んでいる。聞いてるのはアキラとガイだけ。
「気楽なもんだな、学生ってやつは。」
「アキラの世界では、どういう風にしていたのかなこういう時。」
「修学旅行なんてこんなもんでしょどこでも。」
「俺は学校行ってないからわからん。」
子供は子供らしく波打ち際ではしゃいでいる。
「浜辺なんて珍しくも無いだろう?学園の裏が海だったし。」
「でもよ、見ろよこの砂。珍しい形をしてるぜ。」
「星の砂だな。」
よく見て見れば砂の一粒一粒が星の形をしている。星の砂という、その神秘的な名前とは裏腹に、貝の一種の死骸というのが実態である。真実とは時に呆気ないものである。
「旅の記念に持ってかえろっと。」
「気楽なもんだなあ。」
「絶対みんなで無事に帰るって願掛けだよ!ガイこそ、お土産とか用意しないの?エリーゼにさ。」
「なんでエリザベスが出てくるんですかね。」
「何?カノジョ?」
「違う。」
「『まだ』、ね。」
「ひゅーひゅー。」
「茶化すな。」
遠い地に置いてきた、夢中な彼女に思いを馳せる。心なしか顔が赤くなっている。
「それにしても砂浜か、足腰を鍛えるにはちょうどよさそうだな。」
「そういえば、あの毎朝の健康体操もアキラの発案だよね?」
「ん?発案というか、伝承だな。俺が物心つくころにはもう毎日やってたぞ。」
「そんなにか。それで、どれぐらい鍛えられてるんだ?」
「ふっふっふっ、なら喰らってみるか俺の一撃。」
「ガイがな。」
「はっ?」
「ふっ。」
「べっ!」
アキラが小さく息を吐いたら、ガイはそのままのポーズで吹っ飛ぶ。しばらくして海面に水柱が上がる。
「こんなもんだ。力のスイッチの入れ方を、体で覚えるんだ。」
「すっげぇ!」
「怒りのスイッチが入っちまったな。」
「やっべ逃げよ。」
脱兎するアキラを、ガイは追いかける。そうこうしてクラス全員で砂浜ランニングがはじまった。
確かにコイツはアキラに間違いない。間違いないのだけれど、少し性格が違う。まあ性格なんて、しばらく会わなかっただけでも変わって見えるものだが、世界が違えばこうも変わるものなんだなと、ガイは少し遠いところが見えた。
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