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風が吹く

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 「今日の授業はここまで!」
 「「「ありがとうございましたー!」」」

 今日も今日とて学校が終わった。ガイは特に予定もないので、また図書館にでも行こうと思ったところで、隣の席から声をかけられた。

 「ねえガイ、君は普段なにやってるんだい?」
 「何って、何?」
 「趣味や、今関心のあるものは何?」
 「関心か・・・。」

 おしゃべり好きのパイル。社交性が高く、どこかお人よしところもあるので、学級委員を務めている。

 「そうさな、俺にはこの世界のあらゆる物が新鮮に見える。それをひとつひとつ知っていくのが楽しい。」
 「そう、では星はどう?」
 「星か、星の並びは元の世界ともそう変わらないな。北斗七星は北斗七星だ。」

 この世界にやってきて、まず気づいたのが星の姿だった。それらは多少数が変わってこそいたが、ほぼ同じだった。まずはそこに安心を覚えた。地球の名前を忘れられても、地球は地球だった。

 「で、それが何か?」
 「僕がルージアから来たとは言ったかな?ルージアにはなーんにもなかったから、星を見るのが日課だった。」
 「占いでもしてたの?」
 「星の世界を考えていた。空を超えた先にある、宇宙についてさ。」
 「宇宙か・・・。」

 大地が平面であると信じてそうな世界観には、似つかわしくない単語だ。アルティマは一つの陸塊なので、平面だとしてもあまり違和感ないかもしれないが。

 「俺も宇宙には行ったことないかな。月や火星に基地が建設されてるのは知ってたけど。」
 「ガイのいた世界はすごかったんだな・・・。」


 「星の世界だけじゃなく、国を出てみれば目新しいものはたくさんあった。そこが君と同じかもって思ったんだ。」
 「たしかにな。」
 「さらに思ったんだ。このクラスの人たちって、どこかしら似ているところがあるんじゃないかって。」
 「ほう?」
 「似た者同士で相性が合うでしょ?クラス一同、手をつなぐみたいにその性質同士が惹きあってるんじゃないかな。」
 「吹き溜まりだけど、なんだかんだ仲いいもんな。」

 最初は孤立しがちだったシャロンも、最近はその輪の中に打ち解け始めている。

 「そうなったきっかけが君だと思うのだけれど。」
 「そりゃちょっと買い被りすぎだな。」
 「この学園どころか、この世界全体で見ても、違う観念を持った人間というのは珍しいとい思うよ。まるでダイス氏のように。」
 「そういわれてみると、そうかもな。」

 ガイは席を立つと、パイルに向きなおる。

 「じゃ、俺は図書館に行ってくる。」
 「ああ、また明日?ね。」

 興味深い話だった。パイルは目がいいらしい。それは視力という点でも、観察眼という点でも。じっくりと見られていると心の内まで見透かされそうだ。一歩引いて物を見たがるという点では、ガイと似ているのかもしれない。

 「来ましたわね!さあさあこちらへ!」
 「そんなに引っ張らなくても行くよ。」

 図書館ではまたエリーゼと落ち合う。ここでエリーゼから話を聞くのが日課だ。

 「今日はどんな話をしてくれるんだ?また光の人の話?」
 「今日は・・・あなたの話が聞きたいですわ。」
 「俺の?どんな話だ?自慢じゃないが俺は人に話せる面白い話は持っていないぞ。」
 「ドロシーから聞きましたわ。あなたの昔のことを。その続きがどうしても気になってしまいましたの。」
 「あの話の続きか・・・。」

 「続きも何も、あの後アキラの家に厄介になって、それからしばらくしてみんな居なくなって、俺はここに来ただけだ。」
 「そこはどうしても話したくないんですのね。」
 「自分があまり思い出したくないんでな。俺はあまりに何も知らなかった。そのせいで、死ななくていいやつまで死んでしまった。」

 それよりもっと未来を見ていたい。過去を忘れられるような、明るい未来が欲しい。

 「けれど、その友達のことは忘れたくないのでしょう?」
 「どうしてそう思う?」
 「以前話をしていた時のあなたは、楽しそうでしたから。まるで昔話をしてくれたおじいちゃんみたいに。」
 「ノスタルジーに浸る老人のようだった?」
 「そうではありませんわ。とても懐かしそうで、その頃が楽しかったように思えますわ。」

 そう、言いきられてしまった。まだであって間もない人間に、自分の過去を肯定されてしまった。

 「・・・なら、きっとそうなんだろうな。」
 「でしょう?だから聞かせてください。」
 「また今度な。面白い話を思い出したら。」
 「それで構いませんわ。私がおばあちゃんになっちゃう前に思い出してくださいね。」

 冗談めかしてそういうエリーゼに、ガイも微笑みかけた。

 (ツバサ・・・お前は本当に幸せだったんだな。こんないい孫に恵まれて、家族に囲まれて・・・。)

 エリーゼの話す、おじいちゃんの昔話の中に、ガイにまつわる話は無かった。俺のことを恨んでいるだろうか?そんな一抹の不安も覚えたが、考えないことにした。

 「おっ、やっぱここにいた!剣教えてくれよガイー!」
 「「図書館では静かに。」」
 「へいへい、2人とも仲いいよな。お邪魔しちゃったかな?」

 そこへ大声でやってくる空気の読めないドロシー。

 「そういえばさ、そのアキラの武術の中に杖術ってあったか?」
 「ステッキ護身術ならあったな。」
 「そうか、それも教えてくれないか?」
 「ドロシー、あなたまさかおじいちゃんの杖で?」
 「ああ、じいちゃんも昔やってたって聞いたし。」
 「ダメよ、貰ったものなんだから大切にしないと。」
 「大切に使うさ!ただこのままだとオレがヨボヨボになるまで出番無いじゃないか。」
 「あなたはまったく・・・。」

 そういえば最近一つ気づいたことがある。エリーゼは普段、凛々しくも厳しい生徒会長という立場だが、ドロシーと居るとただの姉になる。そしてガイと居ると、歳相応よりも幼いような少女になる。それがガイには嬉しかった。

 そしてもう一つ。なぜかガイはエリーゼのことをもっと知りたいと思ってたまらない。はやく図書館に行きたくてたまらない。エリーゼの顔をもっと見ていたいと思うようになっていた。

 その理由、ガイが理解するのはまだ先のことで、ひと悶着起こすのもまた先となった。
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