46 / 54
第41話
しおりを挟むさぁ本日、綺麗な秋晴れの中開催されるのは秋の一大イベントの文化祭である。
と言っても三年生である我々は受験や就職の為、下級生とは違い各クラスの出し物は事前に準備した展示物のみとなっており当日は自由参加である。
三年生の参加率は毎年半々という所。
そんな中私は参加組だ。
一ヶ月前は文化祭処では無くK氏対策に一杯一杯となって居た事からすっかり失念していた行事だったが、本年が最後の文化祭である事、そして本日どうしてもやりたい事があった為学校にやってきた。
そして今現在、校門前で夕子を待っている状態だ。
本当は朝から最寄りの駅で待ち合わせのはずだったのだが朝はやる事があると言われ昼前に学校で待ち合わせる事となった。
腕時計を見ると約束の時間を大幅にオーバーしている。
何かあったのでは無いかと心配していると急に目の前の光が遮られた。
何事かと前に目をやれば、そこにはファンシーでファンキーな巨大な熊(着ぐるみ)が現れ私を見下ろして居た。
突然の事に流石に驚きスッと目を逸らす。多分こちらを見ているのは気のせいだ。
周りの様子を伺えば、他の生徒達もこちらを凝視しザワザワとしている。
そこで確認の為もう一度熊を盗み見る。
気のせいでは無くやはり熊は私を見ている。
しかし私は気付かないフリをする。
だが熊はまだ私を見ている。
更に私はまだ気付かないフリをする。
だが熊はーー
・
・
・
「分かった、分かった、分かりました。
ごめんなさい、本当は気づいて居て態と目を逸らしました。
だから無言で圧を掛けないで。
で、なんで熊の着ぐるみなの?ーーーはじめさん。」
微動だにしない視線に耐えられなくなり観念して声を掛けると、熊改めはじめさんは大きく頷いたと思えばすかさずスケッチブックを取り出し何かを書き始めた。
そして書き終えるとそれを私に向ける。
「読めって事?えーっと、
『この着ぐるみは足立に渡された。
今日一日、この格好で学園を巡回をするようにと校長からの指示らしい。
一般客も参加できる為何かしら羽目を外す輩が現れるかも知れないから取り締まりをして欲しいそうだ。
明らかな迷惑人物は教師に、こそこそ隠れてやらかす人物は俺達が対処する。
教師とバレると怪しい人物を炙り出せないので着ぐるみを来て、公の場では声を出さない様言われた。
でもその代わりゆづ葉を連れて歩いても良いと足立が言っていた。』
成る程。夕子の朝からの用事は着ぐるみ準備と校長のお使いだったようだ。
それにしても、うーん、文化祭を二人で回れるのは素直に嬉しいがはじめさんが着ぐるみでしかも筆談というのは、、、味気ない。
だがお世話になった校長からの要望であれば喜んで請け負おう。
ん?あれ?でも夕子はどうするのだろう?
一緒に文化祭を回る約束だったのに。
夕子が他に何か言って無かったかとはじめさんに問えば一通の手紙を渡された。
中を開けると見慣れた夕子の文字と何かの鍵か一つ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ゆづ葉へ
って事で今日一日、私の代わりに叔父さんのお手伝い頼んだよ~。
一応、休憩出来る様に屋上を押さえといたから、中に入っている鍵で自由に使ってね~。優しいでしょ~?
但し、違う『休憩』として使わない事。
ーーー何かあれば私はすぐ分かるんだから、、、覚悟して。
っはい、ではでは私の仕事はこれで終了。
帰りまーす⭐︎
折角の休みに学校なんて1秒たりとも居たく無いからね~。
後はヨロシク♡
夕子
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
グシャ。
おっと、つい力が入ってしまった。
ふーん、ふーん、夕子の“代わり“にお手伝い、ね。
これは後でじっくりと説教をしないといけない案件だな。自分の仕事はちゃんとしないといけないよ?
はぁあの時の夕子はシュンとしおらしくて臆病な小動物みたいだったんだけどね。
成る程、既に立ち直っていらっしゃる様子。切り替えが早いのは良い事だけど、、、ね?
そんな夕子に苦笑いが漏れたが、、、さて、頼まれた仕事はしないとね。
「うん、よーく分かりました。
よし、じゃあ巡回という名の“文化祭デート“を楽しもっか!」
そう言って着ぐるみのはじめさんの手を取り歩き出す。
折角なら楽しまないと。
そうして色んなクラスの出し物を一つ一つ回って行く。
縁日ゾーンでは射的をする。着ぐるみで照準が見えないはじめさんに代わり景品を狙う。標的ははじめさん好みの熊のぬいぐるみ。
一発で撃ち抜きはじめさんの肩に抱きつかせる。熊の親子の誕生だ。
多分気に入ったのだろう、表情は見えないが周りの空気がホワホワしている。
アトラクションゾーンではお化け屋敷へ入る。
精巧に作られたお化け達に感心しながら進みつつ、キャーっとはじめさんにたっぷり抱き着ける空間を楽しんだ。
展示スペースでは我がクラスの黒板アートを改めて見学する。
テーマは『将来の私達』
35人全てのクラスメートの笑顔が描かれている。
そう言えばと黒板の隅に夕子が描いた絵を探す。
その絵は熊耳のはじめさんが不貞腐れているという図だった。
はじめさんと顔を見合わせ、、、そして大笑いした。
へぇ、こんな所に伏線が有ったんだね。
こんな風に私達は文化祭を思いっきり楽しんでいる。
もちろんしっかりと目は光らせることは忘れない。
周りを確認すると確かにちらほら素行が悪い人物は居た。
だが、その本人達に声を掛け
『皆んなが楽しめる様にやりすぎないようにしてね。』
とお願いをすれば皆んなが皆んな素直に聞いてくれた。
皆んな良い人ばかりだ。
更には『一緒に回らないか?』と友好的になって来る人も居るので今回与えたれた仕事に全く苦労は無かった。
ただ、そんな素直な人達を前にすると途端に隣から冷気が出るのは気掛かりだ。
はじめさんは真面目な先生だから人をしっかり見極める為に神経を擦り減らして居るのだろうと推測する。
そして巡回し出して二時間が経った。
流石にそろそろ休憩を挟んでも良いだろうと私達は夕子が提供してくれた休憩場所の屋上に向かう事にする。
屋上に通ずる階段にはバリケードがされ入らないように警告文まで貼ってある。
バリケードを抜け屋上の扉を夕子から預かった鍵で開ける。
扉の向こうには気持ち良い風と綺麗な青空が広って居る。
今日、この屋上での景色は私達だけの物だ。
屋上側から再び鍵を掛け完全に空間を遮断する。
「あぁ、風が気持ちいい。
屋上なんて滅多に来ないからすごく新鮮だね。
あっ、着ぐるみ着てると分からないよね?
もう誰も居ないし脱いじゃおうよ。」
はじめさんの着ぐるみの頭部分を持ち上げ外すと汗だくの顔が現れる。
「ふぅー。。。着ぐるみというものは案外辛いものなんだな。」
汗を拭いながら長い息を吐く。
相当大変だったのが伝わってくる。
だがやっとはじめさんの声を聞けた事の喜びが勝り、疲れているはじめさんに抱きついてしまった。
「はじめさんだーーー!!
文化祭で一緒は嬉しいんだけど、やっぱり顔も見たいし声も聞きたいよ。
あぁでもやっと会えたことが実感できたよーーー!」
ギュッと力を入れはじめさんの首元に頬擦りして感触を確かめて居るとバッと剥がされる。
「汗臭いから離れて居た方が良い。」
そう言うが全く気にならない。いや寧ろーーー
「はじめさんの匂い大好きだよ。
嗅いでいると落ち着くし。ーーだから離れたくないな。」
そんな私の言葉に渋々ながら許容してくれるお人好しなはじめさん。
《ふふっ耳が赤いのは見逃してあげるね。》
二人並んで壁にもたれ掛かる。
視線は雲一つ無い青空へ。
無言でこの幸せなひと時を味わっているとはじめさんが口を開く。
「足立としっかり話せたのか?」
多分あの日の事を言っているんだろう。
「もちろん、バッチリ。
ーーーはじめさんは夕子の事、知っていたの?」
「俺が知っているのは理事長兼校長が足立の叔父にあたるって事とゆづ葉の事が大好きって事だけだ。
ーーーゆづ葉達が変わらずに居られるなら何も問題無いさ。」
そう言ってこの話題を終わらせるはじめさんの優しさにじんわり来た。
はじめさんの肩に頭を預けあの日の事を思い出す。。。
初めて聞いた夕子の本心ーーー
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
夫を愛することはやめました。
杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。
元婚約者様の勘違い
希猫 ゆうみ
恋愛
ある日突然、婚約者の伯爵令息アーノルドから「浮気者」と罵られた伯爵令嬢カイラ。
そのまま罵詈雑言を浴びせられ婚約破棄されてしまう。
しかしアーノルドは酷い勘違いをしているのだ。
アーノルドが見たというホッブス伯爵とキスしていたのは別人。
カイラの双子の妹で数年前親戚である伯爵家の養子となったハリエットだった。
「知らない方がいらっしゃるなんて驚きよ」
「そんな変な男は忘れましょう」
一件落着かに思えたが元婚約者アーノルドは更なる言掛りをつけてくる。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
【完結】そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。
たろ
恋愛
わたしの愛する人の隣には、わたしではない人がいる。………彼の横で彼を見て微笑んでいた。
わたしはそれを遠くからそっと見て、視線を逸らした。
ううん、もう見るのも嫌だった。
結婚して1年を過ぎた。
政略結婚でも、結婚してしまえばお互い寄り添い大事にして暮らしていけるだろうと思っていた。
なのに彼は婚約してからも結婚してからもわたしを見ない。
見ようとしない。
わたしたち夫婦には子どもが出来なかった。
義両親からの期待というプレッシャーにわたしは心が折れそうになった。
わたしは彼の姿を見るのも嫌で彼との時間を拒否するようになってしまった。
そして彼は側室を迎えた。
拗れた殿下が妻のオリエを愛する話です。
ただそれがオリエに伝わることは……
とても設定はゆるいお話です。
短編から長編へ変更しました。
すみません
浮気中の婚約者が私には塩対応なので塩対応返しすることにした
今川幸乃
恋愛
スターリッジ王国の貴族学園に通うリアナにはクリフというスポーツ万能の婚約者がいた。
リアナはクリフのことが好きで彼のために料理を作ったり勉強を教えたりと様々な親切をするが、クリフは当然の顔をしているだけで、まともに感謝もしない。
しかも彼はエルマという他の女子と仲良くしている。
もやもやが募るもののリアナはその気持ちをどうしていいか分からなかった。
そんな時、クリフが放課後もエルマとこっそり二人で会っていたことが分かる。
それを知ったリアナはこれまでクリフが自分にしていたように塩対応しようと決意した。
少しの間クリフはリアナと楽しく過ごそうとするが、やがて試験や宿題など様々な問題が起こる。
そこでようやくクリフは自分がいかにリアナに助けられていたかを実感するが、その時にはすでに遅かった。
※4/15日分の更新は抜けていた8話目「浮気」の更新にします。話の流れに差し障りが出てしまい申し訳ありません。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる