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幕間 山田先生の独白(裏側3)

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本郷の体調が復調してからと言うものの、本郷の人垂らしは更にパワーアップした。
その度に俺はあたふたしてしまい口調を荒げてしまっているのだが、その姿すら可愛いと揶揄われ参っていた。


だがそんな振り回されている状態を悪くないと思っている自分も居る。
もうとっくに本郷に落ちているんだなと自覚、いや認めるのに時間は掛からなかった。


俺の見た目、偏見に囚われずそのままの自分を見てくれた。俺自身が自分を否定していたのにも関わらず卑下せず堂々とすれば良いと肯定してくれた。

本郷ゆづ葉は自分にとってかけがえのない存在となった。
だがこの気持ちは伝えるつもりはない。


俺は教師、本郷は生徒だ。導くべき対象にそんな気持ちは抱いてはいけない。

まあ肝心の本郷自身は俺を男としては見ていないだろうから元々論外だ。
彼女はただ自身が可愛いと思うモノを愛でているだけである。
そんな存在に好意を持たれては迷惑でしかないだろう。


そんなことを考えながら花壇の雑草を取っていると姪の結城が現れた。
結城は元々女子校側に入学する予定だった。だが姉妹校と合併する事で、その姉妹校で教師をしていた俺の生徒になってしまった。
なので学校内では生徒と教師の適切な距離を取ろうとしている。だが困ったことに中々結城は分別をつけてくれないでいる。



「やっほーお兄ちゃん、家の鍵持ってきてくれた?」


今日家の鍵を忘れて出てしまっていた為、急遽俺から鍵を借りよう連絡して来たのだ。
朝は夜勤明けだった姉さんが家に居たから良かったものの不用心だ。
もう子供じゃなんだから気をつけろと言いながら鍵を渡す。


「ごめーん。以後気をつけまーす。」


これは反省してないなと呆れ顔をしていると結城の手が伸びてきて頬を触った。



「お兄ちゃんはまだまだ子供だね。ほらご飯粒つけてるーーー、ふふっ!」



「ぐっ。はぁ、分かった分かった。俺もしっかりします。だから学校では先生と呼びなさい。」


「はーいお兄ちゃん。」と言って結城は去っていった。分かって無いな。


それにしても俺はまだまだ子供か、確かにそうかもな。なんせこの年になって初恋ってやつをしてるんだからな。


初恋は叶わないという。まあ叶えるつもりは元々ない。
叶わないながらも少しでもこんな日々が続いてくれれば良いと思っていた。
だがその願いは突然終わりを告げる。


ある時から本郷は俺を避け出したのだ。
朝も花壇には現れず、ホームルーム中でさえ視線を合わせようとしない。
話しかけようとすれば逃げられる。
原因は不明。分かっているのは俺を避けているということと、日に日に顔色が悪くなっている事。


また以前の様に強制的に保健室に連れて行けば良いと思いつつ一歩踏み出せない自分が居る。
これ以上踏み込んで良いのかわからないんだ。それにーー拒絶されたら、との恐怖もある。

そうしているうちに時間だけが過ぎていった。
そしてそれは起こった。


担当クラスの男子が社会科準備室に飛び込んでくる。
本郷が体調不良で早退しそれを心配した友人の足立も早退したと言う。そして足立から俺に封筒を渡してくれと頼まれたそうだ。


それを受け取りすぐに読む。
そして俺は走り出した。いてもたってもいられない。


手紙にはーーー


本郷が不治の病だと書かれていた。


《くそ、自分のことばかりで本郷の事を考えてなかった。拒絶されたからってどうしたんだと言うんだ。本郷の為を思うなら自身の保身なんて考えず強引にでも問いただせば良かったんだ。》


車を飛ばし本郷家へ着くと本郷自身が出てきた。
本郷の顔が赤くなったり青くなったりしていたので焦って救急車を呼ぼうとした。
そして病人が出てくるなと言うと、

ただの寝不足だから救急車は必要ない。病人が居るのを分かっててインターホンを押した人に出てくるなと言われたく無いと逆に叱られた。


確かに体調は悪く無さそうだが、寝不足?足立からの手紙の内容では不治の病だと。。


そう伝えるととりあえずリビングで落ち着いて話そうと通された。
そして一息ついたところで足立の手紙を渡した。


すると本郷は片手を額にのせ大きなため息を吐いてから、内容を否定した。手紙は本郷を心配した足立が大袈裟に書いただけで大丈夫だと。

冷えきっていた心に熱が戻る。良かった。本郷は大丈夫なんだと、膝に手をつきそれを噛み締める。
すると本郷の口からから思いもよらない言葉が飛び出た、、


「はじめ先生、いえ、はじめさん。あなたが好きです。」


咄嗟に体調が悪くて変なことを言い出したと思いヒヤリとする。
だが本郷はキッパリ否定した。そして俺に惚れたと、一緒に過ごすうちにのめり込んで行った語る。
ーーーーそれを聞き冗談ではなく本気なのだと自覚すると、、顔が熱くなった。
だがすぐに自分の立場を思い出す。
教師と生徒。ここは否定、拒否しなければならない。
口を開こうとして本郷が遮ってきた。

「生徒と教師じゃなく私個人、はじめさん個人で気持ちはどうなのか、です。
そんな肩書きで言い訳されるよか真実を話してくれた方が何倍もマシですよ。、、、はじめさんは想う人又は恋人が居るん、ですよね?だから私の気持ちは困ると、迷惑だと。
そうはっきり言われた方が諦めがつきますよ。」

恋人??何か勘違いがあるみたいだが、、、それよりも本郷が納得できる答えを出さなくてはならないようだ。
教師と生徒という肩書きを抜きにしてーーーー本心気持ちを伝える。
そしてそれから、、、全てを諦める。
本郷の未来の為に潔く諦めよう。


「ーーー俺は、、、お前を好ましく思っている。ーーー」


全てを話した。
俺自身を真っ直ぐ見てくれて、そばにいてくれて嬉しかったこと。
そして心配のあまり教師としての立場を逸脱してここにまで来てしまったことも。


すると本郷は嬉しさ半分疑問半分の微妙な顔をした。そして俺に恋人が居るから気持ちの区切りをつけようとしていたと言い出した。

確かにさっきも恋人云々言っていたが全く心当たりがない。そう伝えると


「花壇で、、女生徒と話していました。親密な感じにはじめさんの頬に触れていたし、はじめさんも満更でもない顔で、、付き合っているんですよね?」


と言われ訳が分からない。
だが記憶を探る。花壇で会うのは本郷と後はーーー


「もしかして結城のことか?」


そう言うと本郷は肯定した。
まさか結城と話しているところを見られて勘違いされるとは。
確かに頬に米粒がついて取られたことがあったな。
俺は結城が姪だと説明した。山田結城。正真正銘俺の姪だと。


そうして誤解を解くと本郷の表情が一変した。何だろう、背中がゾクリとする。
肉食獣に対峙する草食動物の気分だ。


その謎めいた感覚は間違っていなかった。
怒涛の勢いで告白され、そして求婚された。
待て、さっきまで気持ちだけ伝えたいって言ってただけだろ??
なんでこうなる?
断ろうとする度に言葉を被せてくる本郷。


『私の未来の為を思うならこのまま付き合いましょう。
露見しないよう努力する。』


そう言われ揺らぐ。
すると本郷は顔を両手で押さえ途切れ途切れ言葉を紡ぐ。


ーーー嫌いなら、、そう言ってくれーーと。


泣いてる。
その瞬間俺は全力で本郷のことを好ましく思っていると告げた。
《本郷を泣かせたくない。大切にしたいんだ。》
そして付き合うことも承諾した。

顔をあげ満面の笑みの本郷。目元はーー濡れていない!!?
んっ?!!泣いていない!!
騙された!そう思い慌ててさっきの言葉を取り消そうとしたが、嘘偽り無い言葉にOKして答えてくれたんですよね?と凄まれればグゥの音も出ない。

だから観念して今まで抑えていた気持ちを吐露した。


「俺の負けだ。認める。俺はお前のそんな強気で強引で、でも相手の事を想いやれる所に初めから惹かれていたんだ。それに弱っているのを隠そうとする所も放って置けない。
お前の気持ちに応える為に取ってつけた訳じゃないぞ。言っておくがお前よりずっと前からこの気持ちを自覚していた!
それを言うつもりは無かったがな。
だがこうなったからには俺からも言おう。本郷、いや、ゆづ葉、、、付き合ってくれ。
もしこの関係が世間に認められなかったら責任はゆづ葉じゃなく俺が背負う。
そんな時が来たとしても、もうゆづ葉を離す気は無い。誰かに邪魔されそうになったら掻っ攫うからな。」


と。
すると本郷は見たことも無いぐらい真っ赤になった。しかも言葉を全く紡げないなんてーーこいつこんな可愛い所もあったんだな。とついポロっとでてしまった。


その後何故か本郷に押し倒された。
熱い視線に息を呑む。雰囲気に呑まれ自然とお互いの顔が近づきーーーバゴーンと突然の衝撃に星が飛ぶ。


視界が戻ると射殺さんばかりに鋭い目をした足立が居た。背筋にヒヤリと汗が流れたが、すぐ目元が緩みその視線を本郷に向けた。なんでも、本郷が心配で帰ってきたそうだ。


それにしてもさっきは危なかった。
あのままだと多分、、止まらなかったと思う。
止め方に問題はあるものの足立には感謝する。



「と紆余曲折ありましたがーーーーこれがことの顛末になります。
今話しました本郷ゆづ葉と結婚を前提に付き合うことになりました。」


俺は正座をしながら姉に本郷と付き合うことになった経緯を話し終えた。

長く語った。
緊張して要らぬ事も話した気がするが、生徒と付き合う事に覚悟がある事をどうしても姉に伝えたかった。

すると今まで黙って聞いていた姉が口を開く。


「なるほど。はじめの真剣な気持ちは理解した。そして覚悟もあると。
あんたが、あの家族以外心を開かなかったあんたが許せる相手を見つけた事は本当に嬉しいよ。」


そう言う姉は優しい微笑みを見せている。心から喜んでくれている様だ。


「だがーー」


一瞬で鬼のような表情!!!


「大事なお嬢さんに、しかも未成年の子に先走ってキスしようと手を出そうとしてんじゃない!!!!
先ずは相手の親御さんに誠意を見せてからだろうが!!!!それでも節度持ったお付き合いをしな!!この馬鹿弟!!!」


とグーで殴られた。
姉は正しい。
殴られて気合が入った。
誠意を持って本郷の両親に挨拶に行こう。教師が生徒に惚れてしまったんだ。どんな結果になろうとも受け止める。
俺は本郷ゆづ葉に誠実でありたいから。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

長くなってしまいました。
山田先生心の中饒舌でした。


次回から本編つづきです。
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