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業務日誌(二冊目)

(9)撤収作業

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「お嬢、マーサ、お待たせ! 近衛兵は全員倒したぜ。つっても気絶させただけだが」

「お帰り! みんな無事でよかった」

「私とネイトが二人ずついるんだもの、楽勝ですよ、ローザ様」

「俺も俺の強さに驚いたぜ」

「皇子人形もすごかったけどね」

「ああ、なんだかんだで、半分は皇子が持ってったもんな」

 皇子の人形は、愛おしそうにローザを見ながら微笑んでいた。

「それにしても、数は多かったけど、戦意低かったよね、彼ら」

 リビーの言葉に、人形たちも頷いていた。

「バカ王に嫌気がさしてたのかもな。さっき料理長たちも飛んできて、調って言ってたから、事実も分かると思うぜ」

「ここの王様の目的って何だったのか、ネイトたちは知ってた?」

「あー、それなー」

 ローザの問いに、ネイトは少し言い淀んた。

「お嬢の液体魔力を盗ろうとした直接の理由は、隣国に攻め込むためだったんだろうけど、なんかおかしいんだよな。いくらなんでも計画が杜撰すぎるっていうか」

「他にも理由がありそうなの?」

「何とも言えねえ。バカ王がバカ過ぎただけかもだけど、それにしちゃ、うちの城に攻め込んで来た奴らは、やけに用意周到だったろ?」

「だよね。まんまとローザ様を部屋ごと奪われたし」

 リビーはローザを闇の向こうに見失った時のことを思い出して、悔しそうに顔を歪めた。

「…あんな思い、二度としたくないわ」

「リビー、ごめんね、心配かけて」

「ローザ様が謝る必要なんてありませんよ。悪いのは、悪いことした奴なんだから」

 マーサは、ローザの顔に疲労が出ているのを見逃さなかった。

「ネイト、そろそろ引き上げられない? 部屋ごとが無理なら、ローザ様だけでも安全にお戻りいただきましょう」

「いや、部屋ごと帰ろう。うちの城の安全確認は済んでるって防衛班が言ってたし、ここよりは安全だろ。揺れるといけねーから、お嬢は念の為に寝台に居てくれ。みんなも廊下側から離れて、お嬢の側へ」

「わかった。お願いね、ネイト」

 みんながローザのベッドを囲むように立つと、ネイトは慎重に詠唱を始めた。

「我が敬慕する主の住まう部屋に請う、元の城に速やかに帰還し、主とそのしもべの寧静なる暮らしを守れ」

 ローザの部屋は、無事に城内に戻された。

「お嬢、よかった!」

 城に残っていた防衛班や侍女班の皆が、出迎えてくれた。

「みんな無事? 怪我とかしてない?」

「無事ですよ。なにしろ人員が倍になりましたからね」

「侵入者に踏み荒らされた部屋や花壇なんかも、全部修復終わってますよ」

「よかった…」

 マーサとリビーは、ローザを就寝させるために、テキパキと動いていた。二人の人形も、以心伝心でそれを補佐している。

「ローザ様のお部屋はドアが壊れていますし、今夜は客間のほうでお休みください」

「ありがとうマーサ。でもみんなが戻って来るまで、起きていたいな。アルダスやゲイソンたちからも、話が聞きたいし…」

 そのとき、皇子人形が、すっとローザの脇に寄ってきて、耳元で囁くように言った。

「お顔の色がすぐれません。皆を心配させないためにも、お休みになったほうがいいですよ」

「ひゃあっ、しゃべった!」

「しゃべりますよ。そして、これからはいつも一緒です、ローザ」

 ローザの顔が真っ赤になったのを見てとって、マーサは畳み掛けるように言った。

「ほらほら、またお熱が出てきたようですよ。さ、お部屋を移りましょうね」

「う、うん」

「お休み、お嬢!」

「ゆっくり休んでくださいね!」

「ごめん、ありがとう、みんな」 


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