悪役令嬢は、昨日隣国へ出荷されました。

ねこたまりん

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業務日誌(二冊目)

(7)試行と検証

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「私に出来ること……そうだ!」

 ローザは寝台に腰を下ろして、詠唱を始めた。


「我は請い願う…我が最愛の家族たち全員の現し身を型取りて実体と成し、彼らを精到に守り抜く同胞となすことを」


「え?」

 マーサの前にマーサが、リビーの前にリビーが現れた。

「ローザ様、これは一体…」

「みんなを守ってくれる仲間を増やしてみた」

 ローザの言葉に、マーサそっくりの人形が強く頷き、リビーの人形も自信に満ちた笑みを浮かべた。

 そこへネイトが転移してきた。

「やっと飛べたぜ、お嬢! って、なんだこりゃ、俺!?」

 ネイトの前にも、ネイトそっくりの人形が現れた。

「一応全員の分を作れたはず。これでみんな、今より少し安全になったかも」

「ローザ様ったら…」

 本物のリビーが、呆れたように笑った。

「大好きな家族が倍になるのは、幸せも倍になるって…単純に考えたんだけど、まずかった?」

 ネイトは自分の人形としばし見つめ合い、何かを察したようだった。

「お嬢、こいつの戦闘能力って、俺の八割くらいだろ?」

「多くてもそのくらいだと思う。さすがにオリジナルに迫る人形は作れないみたい」

「十分だぜ。細かい技量はあとから確認するとして、いま使える戦力はいくらでも欲しいからな。で、さっそくだが、あっちから大勢攻めてきてるぞ」

 リビーが険しい顔を廊下に向けた。

「ネイト、あれって、デミグリッド国の兵士なの?」

「近衛だと思うぜ。ここのバカ王が、お嬢を誘拐して液体魔力を作らせるつもりだったらしくてな」

「え、うちに入ったコソ泥って、王様だったの?」

「その手下だけどな。いまごろ執事長が国の根幹から滅ぼしにかかってるだろうよ」

「アルダス、無事だといいけど…」

「心配いらないって、お嬢。ここに向かってる団体を片付けたら、部屋を城に戻すから、もうちょっと待っててくれ」

「ネイト、私も行くよ。一気に片付けよう!」

「二人とも気をつけて!」

 ネイト二人とリビー二人が部屋から飛び出してまもなく、凄まじい剣戟の音や爆発音が響いてきた。

 するとアレクシス皇子の人形が、にっこり笑いながら、戸口に向かって無詠唱で防音の魔術を発動した。

 それから、ふと気づいたというように、戸口近くで倒れていた家臣を肩に担いで、廊下に出ていった。

 ローザの部屋に、深夜らしい静けさが戻った。

「まあ、魔法も使えるんですね、アレ…王子のお人形は」

「すごいよね。作った私もびっくりしてる」

「もしかして、あの王子人形も、アレクシス皇子殿下の能力の八割ほどをお持ちなんでしょうか」

「そうかもしれない……もしかして私、作るべきじゃないものを、作っちゃったのかな」

 想定外の産物だったとはいえ、ローザは自分の浅慮を恥じる気持ちになっていた。

 他人にそっくりで、しかも強大な戦力になりうる人形を、本人に無断で作成するのは、筋が通らないことのような気がしたのだ。

「私たちの人形は問題ありませんよ。皆、ローザ様のお気持ちを十分に分かっていますからね」

「マーサ…」

「それにローザ様、その皇子のお人形を手放せますか?」

「手放せない。作りたくて作って、私のために生まれてきてくれたものだから、ちゃんと大切にしたい」

「なら、お手元で大切になさいませ。生まれたばかりなのに、ローザ様をちゃんと守ってくれた、よいお人形なのですからね」

「うん。アレクシス皇子殿下には、きちんとお話してみて、もし持ってちゃダメって言われたら、殿下に処分をお願いしようと思う」

「そうなさいませ。でもきっと、ダメとはおっしゃいませんよ」

 マーサは、皇子の秘書が持ち込んで来た「着せ替え」の山を思い出して、心の中でため息をついた。

(ローザ様はご覧になってないけど、城の空き部屋が二つは埋まりましたからね。アレ本人が引っ越してくるつもりじゃないかって、血相変えてた者もいたくらいですから)

「それにね、マーサ。自分のお人形を持つのって、初めてだから」

「ええ、そうでしたね…」

 ローザの養父母は、引き取った養女に「無駄な物」を一切与えない人々だった。

 皇子人形へのローザの思いを知ったマーサは、人形がアレクシス皇子と瓜二つであることは、完全に意識から除外しようと心に決めた。

「そうだ、マーサ」

「何でございましょう」

「ここの王様って、うちから液体魔力を盗んで、何をするつもりだったのかな」

「マーサには分かりかねますが、どうせ、ろくなことじゃございませんよ」

「貧乏で困ってるってわけじゃなさそうだよね。家来の人、豪華な服着てたし」

「城に戻りましたら、皆が報告してくれるでしょう」

「そうだね。ちゃんとはっきりさせて、二度とこんなことがないようにしないとね」

「ええ」

 みんなを守るためにもと、ローザが心に誓う傍らで、マーサは、自分の主が平和に暮らすためにもと、強く心に誓うのだった。






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