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第一章 姿なき百の髑髏は、異界の歌姫に魂の悲歌を託す

骨肉の争いに疲れた女皇帝は、純白の屍衣を身に纏う(10)娘の思い

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──夫にする男を選ぶ時に……まあ選ぶことが許されるならばだが……何よりも気をつけるべきは、妻の数だと我は思う」

「はい? 妻の数、ですか」

──そうだ。妻が少なすぎるのも、多すぎるのも、危うい。

 皇女の結婚指南は、サラの常識では計り知れないものだった。

「あの、妻というのは、一人の夫に一人いれば十分なのでは?」

──一人だけを相手にするなど、貧乏人の色恋沙汰くらいであろう。それも期間限定でな。

「そ、そういうものですか…」

──そういうものだぞ。だいたい、権門勢家で一人の女だけにうじうじと一途な男など、面倒ごとの種にしかならぬ。事が起きても非情になれず、切り捨てるべきを切り捨てぬとなれば、家門が危うくなることもある。

「はあ…」


──かといって、やたらめったら妻をかき集めるような男などは屑だから、間違って拾うでないぞ。

「それは、分かる気がします」

──我が父などは、何人夫人がいたことやら。我が知るだけで、十人は超えておったな。隠していた者たちや、他人から横取りした妻、婢女の類まで入れれば、数えきれぬほどかもしれぬ。

「うわあ…」

 妻の数がおかしい。皇女の父は、絶倫だったのだろうか。

 サラは聞いているだけで、胃がもたれてくる気がした。

──だが、間違うてはならぬ。数が多いからダメというわけではない。筋を通さず、情けもかけず、心に空いた穴を埋めるためだけに数を増すのがいかんのだ。

「心の穴、ですか」

──そうだ。誰しも心に満たされぬものを抱えておる。あまりに大きな力を持つものは、その力ゆえに、つかむことが叶わぬ儚き幸いがある。触れただけで割れてしまうのだからな。

 話しながら、皇女の姿が、心なしか青みを増した気がした。

──愚かにも、加減を知らずに手を伸ばし、自ら壊して絶望し、さらに愚行を重ねる。そのようにして際限なく増やされ、壊れた道具のように扱われた妻女らが、産み落とされたその子らが、なにをもたらすか、汝には分かるか?

 サラに視線をぴたりと合わせて問う皇女の口調は、静かではあるけれども、冷え冷えとした怒りを含んでいるのを、サラだけでなく、見守っているヒギンズも感じていた。

「虚無の心に呼ばれ囚われた者たちの、救われぬ嘆きの心が、解かれることのない呪いを生む…のでは?」

──さすがは巫女だ。そう、我が父は、自らの弱さが生んだ強大な遺恨に呑まれた。我はそう思うておる。そして我自身もな。

 きん、と作業台の周囲の空気が冷えた。

 危険を感じたヒギンズは、立ち上がってサラの背後に回った。


+-+-+-+-+-+-+-+-

天より智を授かりし皇帝

「うっ……恨まれてる。すっごい恨まれてる。余はあの子に何したっけ。いろいろありすぎて、ちょっと思い出せない…」


?????

「言いがかりで彼女の母親の実家滅ぼしてるでしょーが。ほんと、しょーもねーなあ、兄上は」


+-+-+-+-+-+-+-+-

*天より智を授かりし皇帝……天智天皇

*?????……天武天皇
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