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ヴィヴィアンの恋と革命
(20)籠城開始
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スカーレットは埋葬虫とドクムギマキの一家に声をかけた。
「私とマルド商会に来てくれる子は、こちらに来てちょうだい。一緒に魔導転移するわ」
「クロシデムシ一門からは、わしら三人がお供しますじゃ」
ノラオとノラジとノラヨが、スカーレットの傍らに立った。
ドクムギマキは全部で十羽だったが、そのうち五羽が、スカーレットの肩や頭にとまった。
「ヴィヴィアンとタバサは、私たちが戻るまで、絶対にウィステリア邸から出ないこと。それから家の中でも一人にならないで、必ず誰かと一緒にいるのよ」
「分かった」
「ビビ様と一緒におりますだ」
「俺も事が済むまで、あるじのそばから絶対離れねえ」
「わしらもしっかり見守りますぞい」
ノラサブの手のひらの上で、番の卵たちがぴょんぴょん跳ねた。
「何かあれば、すぐに連絡するのよ」
「うん、スカーレットもみんなも、気をつけて」
スカーレットたちが転移で去るのを見送ると、ヴィヴィアンは、きりりとした表情で宣言した。
「では私たちも、籠城戦を開始しよう」
居残り組は力強く頷き合った。
「リラ、どの部屋が一番安全かな?」
──地下五階の第一工房ヒュポゲウムが、守りに最適です。
「分かった。リラ、移動お願い」
──了解です。
居残り組がヒュポゲウムに移動した直後、ウィステリア邸宅の地上階が瞬時に姿を消して、近隣の人々の度肝を抜くのだけれども、ヴィヴィアンたちがそれを知るのは、だいぶ後になってからだった。
王都警察部隊の本部に飛んだスカーレットは、害獣対策課のアーサー・メルリヌスを呼び出した。
「ヴィンフィル医師、今日はどうしたっすか?」
「緊急に魔導害虫の討伐を依頼したいの」
「またあの黒いアレが湧いたっすか? 呪力が虫に変異したとかいう」
「いいえ、肉蠅よ」
スカーレットが声を潜めて言い放つと、アーサー・メルリヌスから、飄々とした空気が一瞬で消えた。
「場所は?」
「マルド商会長に、数匹憑いているわ」
「発見はどういう経緯で?」
「ヴィヴィアン・ウィステリアの使い魔たちが見つけたのよ」
ドクムギマキを肩にとまらせたノラヨが、進み出た。
「この子らの索敵の魔術で炙り出したですじゃ」
「ぢゅん!」
鋭く囀るドクムギマキを見て、アーサー・メルリヌスは僅かに微笑んだ。
「いい仲間たちがいるな。君らの索敵に引っかかった肉蠅は何匹だった?」
「ぢゅぢゅぢゅん!」
「十匹か。他にも潜んでる可能性は」
「ぢゅん!」
アーサー・メルリヌスには、ドクムギマキの言葉が分かるらしかった。
「現場でも索敵に協力してくれるよな」
「ぢゅぢゅん!」
「分かった。埋葬虫の君らもよろしくな」
「心得ましたじゃ」
彼らの会話を、スカーレットは感心して眺めていた。
「さすが害獣対策課ね。話が早いわ」
「まあ慣れっすよ。で、マルド商会長は自宅っすかね」
「そのはずよ。場所は分かるわね」
「王都の地図は完璧に頭に入ってるっす」
「他の人員は出さないの?」
「ビンフィル医師的に、この話は広まらない方がいいんでしょ?」
「まあね」
「シャルマン隊長も都合よく入院中だし、なんなら報告書もナシで行けるっすよ」
「…いろいろ察してるってことね」
スカーレットが探るように言うと、アーサー・メルリヌスが暗い声で答えた。
「肉蠅には、個人的に因縁があるんでね」
「私とマルド商会に来てくれる子は、こちらに来てちょうだい。一緒に魔導転移するわ」
「クロシデムシ一門からは、わしら三人がお供しますじゃ」
ノラオとノラジとノラヨが、スカーレットの傍らに立った。
ドクムギマキは全部で十羽だったが、そのうち五羽が、スカーレットの肩や頭にとまった。
「ヴィヴィアンとタバサは、私たちが戻るまで、絶対にウィステリア邸から出ないこと。それから家の中でも一人にならないで、必ず誰かと一緒にいるのよ」
「分かった」
「ビビ様と一緒におりますだ」
「俺も事が済むまで、あるじのそばから絶対離れねえ」
「わしらもしっかり見守りますぞい」
ノラサブの手のひらの上で、番の卵たちがぴょんぴょん跳ねた。
「何かあれば、すぐに連絡するのよ」
「うん、スカーレットもみんなも、気をつけて」
スカーレットたちが転移で去るのを見送ると、ヴィヴィアンは、きりりとした表情で宣言した。
「では私たちも、籠城戦を開始しよう」
居残り組は力強く頷き合った。
「リラ、どの部屋が一番安全かな?」
──地下五階の第一工房ヒュポゲウムが、守りに最適です。
「分かった。リラ、移動お願い」
──了解です。
居残り組がヒュポゲウムに移動した直後、ウィステリア邸宅の地上階が瞬時に姿を消して、近隣の人々の度肝を抜くのだけれども、ヴィヴィアンたちがそれを知るのは、だいぶ後になってからだった。
王都警察部隊の本部に飛んだスカーレットは、害獣対策課のアーサー・メルリヌスを呼び出した。
「ヴィンフィル医師、今日はどうしたっすか?」
「緊急に魔導害虫の討伐を依頼したいの」
「またあの黒いアレが湧いたっすか? 呪力が虫に変異したとかいう」
「いいえ、肉蠅よ」
スカーレットが声を潜めて言い放つと、アーサー・メルリヌスから、飄々とした空気が一瞬で消えた。
「場所は?」
「マルド商会長に、数匹憑いているわ」
「発見はどういう経緯で?」
「ヴィヴィアン・ウィステリアの使い魔たちが見つけたのよ」
ドクムギマキを肩にとまらせたノラヨが、進み出た。
「この子らの索敵の魔術で炙り出したですじゃ」
「ぢゅん!」
鋭く囀るドクムギマキを見て、アーサー・メルリヌスは僅かに微笑んだ。
「いい仲間たちがいるな。君らの索敵に引っかかった肉蠅は何匹だった?」
「ぢゅぢゅぢゅん!」
「十匹か。他にも潜んでる可能性は」
「ぢゅん!」
アーサー・メルリヌスには、ドクムギマキの言葉が分かるらしかった。
「現場でも索敵に協力してくれるよな」
「ぢゅぢゅん!」
「分かった。埋葬虫の君らもよろしくな」
「心得ましたじゃ」
彼らの会話を、スカーレットは感心して眺めていた。
「さすが害獣対策課ね。話が早いわ」
「まあ慣れっすよ。で、マルド商会長は自宅っすかね」
「そのはずよ。場所は分かるわね」
「王都の地図は完璧に頭に入ってるっす」
「他の人員は出さないの?」
「ビンフィル医師的に、この話は広まらない方がいいんでしょ?」
「まあね」
「シャルマン隊長も都合よく入院中だし、なんなら報告書もナシで行けるっすよ」
「…いろいろ察してるってことね」
スカーレットが探るように言うと、アーサー・メルリヌスが暗い声で答えた。
「肉蠅には、個人的に因縁があるんでね」
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