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ヴィヴィアンの恋と革命

(13)食堂の止まり木

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「話に一区切りついたことだし、食堂に上がって、お茶の時間にしねえだか?」

 タバサの提案に、ヴィヴィアンが頷いた。

「そうだね。一休みしながら、トンチキ壷の件をどうするか考えよう」

──では、皆様を食堂にお送りしますね。

 リラによって、一同は、軽やかな琴の音色が流れる食堂へと転移した。

「ぢゅんぢゅん!」

 ノラサブの肩にとまって移動してきたドクムギマキは、食堂の窓枠に家族たちが整列しているのを見つけると、羽ばたいて何かを訴えた。

「皆が挨拶したがっているから、窓を開けてほしいそうですぞ」

「わかった。家族の分の席を作るね」

 ヴィヴィアンは、食堂の窓を開けると、帆布カバンから枯れ枝を一束取り出して、大テーブルと窓の間の床に置き、詠唱をはじめた。

「折り捨てられた枝たちに我は願う、我が家族の鳥たちの安らぎの止まり木として、この床に根付き聳えることを」

 詠唱が終わると、枯れ枝たちは纏まって一本の木となり、ドクムギマキの小さな足でしっかりとつかめるような小枝を伸ばした。

「ほほう、よい枝ぶりですな」

 ノラサブが止まり木を誉めると、枝の先に小さな蕾がいくつもついた。

 謎茶を入れていたタバサも、嬉しそうに止まり木を見た。

「花もつけるだか。愛らしいだな」

 毒麦の大蛇も止まり木を気に入ったらしく、根本に這い寄ると、そこでとぐろを巻いた。

 窓枠にいたドクムギマキたちは、音もなく滑空して止まり木に移動し、声を揃えてヴィヴィアンに挨拶をした。

「ぢゅん!!!!」

「ようこそウィステリア邸へ。うちの庭なら、トンチキ壷とか肉蠅ニクバエとかに邪魔されずに暮らせると思うから、安心して子育てしてほしい」

「ぢゅんぢゅん!!!」

 みんなが席につき、謎茶や果実水が行き渡ったところで、ヴィヴィアンは状況を整理するために、話し始めた。

「厨房に現れたアーチボルド・セミグリッドの幻影は、口ではタバサを陥れる言葉を伝えながら、真実をタバサに示した。幻影が本物の悪意を持っていたなら、うちには入れなかったはずだから、アーチボルド・セミグリッドの魂は、ハンニバルに操られているふりをして、ここに来たんだと思う」

「やっぱり、そうだっただか……アーチボルド様」

 涙を浮かべるタバサに、ヴィヴィアンは力強く頷いてから、言葉を続けた。


「アーチボルド・セミグリッドの幻影が厨房に現れた頃に、『マルド商会』の一家も来ていた。ノラサブ親父さん、ノラヨ親父さん、一家はここにトンチキ壺を持って来ていたかどうか、分かるかな」

「商会長とやらが、わしと話していたときには、壷を手にしてはいなかったぞい。ノラヨはどうかの?」

「直接手にしてはおらなんだが、壷が入りそうな鞄は持っとったな。あの商会長は、家に入ってからずっと、壷から目を離すことはなかったぞい。あれほど心が囚われていたのであれば、持ち歩いていたとしても、不思議ではないのう」

 その時、止まり木のドクムギマキたちが、一斉に囀りだした。

「ぢゅんぢゅんぢゅんぢゅんぢゅんぢゅん!!!!!」

 ノラサブが通訳した。

「商会長の鞄の中には、壷と肉蠅ニクバエたちが入っとったそうですぞ」

 ヴィヴィアンは、出揃った情報から、一つの推論を導き出した。

「二つ目のトンチキ壷の核に、アーチボルド・セミグリッドの魂が使われている可能性が高いと思う」

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