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ヴィヴィアンの恋と革命

(12)毒麦と小鳥

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「おいしそうって、このでっかい蛇がか?」

 呆れるノラゴに、ヴィヴィアンは真面目に答えた。

「蛇はかわいいものだけど、毒麦は、おかゆにすると、おいしい麦だよ」

 料理好きのタバサも、毒麦には一家言あるようだった。

「んだ。毒抜きの処理さえしっかりやれば、パンにも菓子にも、酒にもなるだよ。栄養もあるだ」

 そこへ、警備担当のノラオと、園芸担当のノラサブが、揃って顔を出した。

「姫様や、ちとご相談がありますのじゃ」

 ノラサブの肩に、小麦色の鳥が一羽、とまっている。

「この鳥の一族が、お屋敷の庭に移住希望だそうでな」

 続けてノラオも報告した。

「なかなかに魔力の高い鳥たちでのう、姫様に気づいてほしくて、朝からずっと、お屋敷の中をうかがって、一家総出でせっせと毒麦を送っていたそうなのじゃ。廊下で感じた妙な気配は、それじゃった」

 小鳥はヴィヴィアンに向かってさかんに囀り、何かを訴えているようだった。

「ぢゅんぢゅんぢゅんっ、ぢゅぢゅぢゅん!」

「ごめん、熱意は分かるけど、言葉までは分らない。通訳をお願いできるかな」

 ノラサブが、興奮気味の小鳥の言葉を代弁した。

「必ず役に立つから、保護してほしいと申しておりますな」

「保護っていうことは、何かに襲われそうなの?」

肉蠅ニクバエがしつこく巣を狙いに来るので、子作りができないそうなのじゃよ」

 またしても、肉蠅という名が出たことで、工房の中に緊張が走った。

「なあ、そいつら、もしかしたら『マルド商会』の近くに住んでたんじゃねえのか?」

 ノラゴの言葉を肯定したいのか、小鳥は羽ばたきながら激しく囀った。

「ぢゅんぢゅぢゅぢゅんっ!」

「うむ、そうらしい。今朝押しかけてきた連中が、お屋敷に入れずに逃げ帰ったのを見て、ここに越してくると決めたそうじゃ」

「うちの庭なら、悪意のあるトンチキ壷の持ち主も肉蠅も、入り込めないものね」

 ヴィヴィアンの言葉に、毒麦の大蛇も大きく頷いた。

「ビビ様、その賢い鳥っ子は、ドクムギマキっていって、毒抜きしてない毒麦が主食なんだ」

 タバサの説明を聞いて、毒麦は贈り物であると同時に、小鳥たちの保存食糧でもあったらしいと、みんなが納得した。

「なら、庭に毒麦畑も作らないとだね。ノラサブ親父さん、お願いできるかな」

「できますぞ。ということは、鳥一族の移住のご許可をいただけますのじゃな」

「うん。トンチキ壷の餌食になんか、させない」

「ぢゅんぢゅんぢゅーん」

 今度はノラオが通訳した。

「彼ら一家は、魔術での索敵なども得意だそうですじゃ。落ち着いたら、警備班に協力してもらおうかのう」

「頼もしいね」

 ヴィヴィアンは、小鳥と大蛇に向かって、きちんと挨拶をした。

「ドクムギマキさん、大蛇さん。私はヴィヴィアン・ウィステリア。ここにいるみんなは、うちの家族。今日からよろしくね」

「ぢゅん!」

「まずは、みんなで安心して暮らすための準備だね。巣作りに必要なものがあれば、用意するから、言ってね」

「ぢゅぢゅぢゅん!」

 ヴィヴィアンの家族が、また増えることになった。
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