上 下
66 / 89
ヴィヴィアンの恋と革命

(4)名付けと始業

しおりを挟む
「みんな、食事は好きな時に食堂で食べてね。それと、少なくとも午前中に一回と午後に一回は、必ず一休みして。休まずに働くのは、絶対ダメ」

 ヴィヴィアンは、一人一人の顔を見ながら、念を押した。

「安全第一。無理しない。何かあったら、すぐ相談。私もそうするから」

「はいですじゃ」
「分かりましただ」
「おう!」

 それから、家にも声をかけた。

「おうちにもお願い。みんなを守ってほしい。おうちも、おうちを守ってほしい」

──分かりました、お館様。

「あと、呼ぶのに名前が欲しいんだけど、何か希望ある?」

──私の名前、ですか。

「うん」

──あの、ぜひお館様に決めていただければと…

 ヴィヴィアンは、ちょっと考えてから、案を口にした。

「リラ・ウィステリア……でどうかな」

 じーんじーんじーんじーん

 屋敷全体に、感動で打ち震えるような音が響き渡ったかと思うと、食堂の窓が薄紫色に染まった。

──リラ……古代ラテウム語の薄紫色……なんという高貴な響き。ありがとうございます、お館様!

「気に入ったなら、よかった」

 ヴィヴィアンは、大テーブルの上の鍋が吹いている紫色の湯気を見て思いついたのだけど、なんとなく、それは黙っておくことにした。

「そういえば、姫様のお名前のウィステリアも、紫色の花でしたな。お庭に植えましょうかな」

 園芸担当のノラサブの提案に、ヴィヴィアンは喜んだ。

「うん、いっぱい植えて、お花を咲かせてほしい」

「んだば、お仕事開始だべ!」

「おー!」

 掛け声とともに、皆は自分の持ち場へと移動した。

 
──お館様、始業の音楽など、いかがでしょう。

 リラの言葉とともに、ぽろろん、ぽろほんと、楽しげな竪琴の音がどこからともなく流れてきた。

「いいね、これ。やる気が出そう」

──お気に召したならば、休憩時間やご飯の時間にも、何か奏でましょうか。

「うん、おねがい」


 ヴィヴィアンは、愛用の帆布カバンを肩にかけると、ノラゴの手を引いて、地下五階の空き部屋前へと転移した。

「確かノラオ爺さんたちの部屋が、この階だったよな」

「うん。殺風景で、寂しくなかったかな」

 地下の廊下は、石壁と石畳で出来ていて、薄暗く、空気もかなり冷えていた。

「俺たちは地下にいることが多かったから、暗いところは平気なんだ。それに、みんな一緒にメシも腹一杯食べれるんだ。寂しいどころか、シアワセ太りしそうだぜ」

「そっか」

 やっぱりご飯は大切だと、ヴィヴィアンは改めて思った。

「それに、清掃班の親父とリラが、飾り付けしてくれるみたいだから、ここもきっと明るくなるさ」

「そうだね」

 地下の廊下が、歩くだけで楽しくなると言われるようになるのは、まもなくのことだった。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

彼女はいなかった。

豆狸
恋愛
「……興奮した辺境伯令嬢が勝手に落ちたのだ。あの場所に彼女はいなかった」

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

処理中です...