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ヴィヴィアンの婚約

ヴィヴィアンは長い一日を終えた

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「おやすみなさいまし、雇い主様」

「おやすみ。またあした」

 タバサは出来たてのピンク壺と夜食を持って、屋敷模型の自室に触れ、転移した。

「あら便利ね、これ」

「家族と部屋が増えたから、作ってみた」

「食堂やエントランスは、部屋と双方向で行き来できると良いかもね」

「だね。明日みんなが起きたら、やってみる」

「それにしても、あんたの婚約詐欺騒ぎが、こんなことになるとはね…」

 スカーレットは、昨日からの怒涛の出来事を振り返って、深々とため息をついた。

「たった一日で、家族が十人増えるとは、私も予想だにしなかった」

「十人…ああ、埋葬虫の番ちゃんたちも、いたわね」

「うん。元気に育ってくれると嬉しい」

「大丈夫よ、きっと……ハンニバル・グリッドについては、早めにイルザお姉様たちにも相談しないとね」

「あれは、あちこちで悪い病気の元になってるかもしれないから、なんとかしてぶっ飛ばそう」

「そうね。明日も忙しくなりそうだわね…」

「私は、家でピンク壺を作ってるから、何かあれば呼んでほしい」

「分かったわ。無理せずにね。外出するときは、必ず連絡して……あと、しばらくは家の中でも、できるだけ一人にならないで」

 スカーレットは、ヴィヴィアンの周囲に気遣わしげな目を向けながら、注意事項を付け加えた。

「明日も、何かありそう?」

「たぶん。私の先読みは、直前にならないと、はっきりしないから、なんとも言えないんだけど」

「でも、スカーレットが何かあるっていう時は、必ず何かある。いい事かもしれないし、悪い事かもしれないけど、きちんと気をつける」

「お願いね」

「あ、そうだ。イルザ様にあったら、古代ポリグリッド公国がどこにあったのか、聞いてほしい」

「タバサのいた国のこと?」

「うん。もしかしたら、そこに行かなくちゃいけなくなるかもしれないから」

「おおごとになりそうね……分かったわ。じゃ、帰るわね」

「おやすみ、スカーレット。今日もありがとう」

「おやすみ、ヴィヴィアン」


 スカーレットの転移を見送ってから、ヴィヴィアンは食堂の片付けを済ませて、居間に移動した。

 居間の壁に貼り付けられた、特大カレンダーには、一日ごとに、四種類の丸いしるしがついている。

 虹色の丸は、仕事を頑張った日。

 黄色い丸は、とても楽しいことのあった日。

 赤い丸は、何らかの事件に遭遇した日。

 黒い丸は……覚えていられないほど酷い何かが起きた日。

「昨日のしるしをつけ忘れてた。一月二十日、闇の日……婚約詐欺事件…赤丸」

 スカーレットへの相談が遅れて、こっぴどく叱られたことは、記憶に新しい。

「警察部隊の人に『普通の人』って言ってもらった…黄色」

 災禍だの惑乱だのと言われないことは、ヴィヴィアンにとっては、とても嬉しいことだった。

「病院で蛇鞭を作った…虹色」

 しゃべる鞭を創生できたことは、ヴィヴィアンの固有魔法が成長した証でもあった。

「ユアン・グリッドをぶっ飛ばした…黒丸」

 ぶっ飛ばした記憶が飛んでいることに、ヴィヴィアンは気づいていたけれども、思い出すつもりはなかった。

 その記憶がいつか必要になったら、スカーレットか、ユアン・グリッド本人に聞いてみようと、ヴィヴィアンは思った。



「そして今日は、一月二十一日、光の日……」

 ヴィヴィアンは、まず虹色の丸を四枚貼り付けた。

「ギル・グリッドとタバサを壺から呼び戻して、布団叩きとピンク壺を作った。お仕事、頑張った」

 それから、黄色い丸を十枚、花のような形に貼り付けた。

「一緒に暮らす家族がいっぱいできた…あと、何かあったかな」

 セイモア・グリッドとの「対話」のことを思い出したけれど、ヴィヴィアンとしてはほとんど働きを見せられなかったので、しるしに相当しないと判断した。

「これでおしまいかな。やった、今日は赤丸と黒丸がなかった!」

 ヴィヴィアンは居間の明かりを消して、寝室に飛んだ。


「おやすみなさい」




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