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ヴィヴィアンの婚約
ヴィヴィアンは遠い昔の話を聞いた
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「スカーレット、食堂に来て。夜食もあるよ」
ヴィヴィアンが玄関に向かって声をかけると、スカーレットが食堂に転移してきた。
「おまたせ。いろいろ片付いたわよ」
「セイモア・グリッドは、目が覚めた?」
「ええ。だいぶ混乱してたけど、問題ないわ。それで、お話は聞けたのかしら?」
「いま、聞いてたとこ。タバサ、スカーレットのことは分かる?」
「なんとなくは…あのクソ壺のいやらしい魔術の切れっ端をひっこ抜いてくださってた、お医者様だべ?」
「うん」
「あなた、タバサというのね」
「タバサ・ガゼルですだ、お医者様」
「私はスカーレット・ビンフィル。ヴィヴィアンの友人よ。よろしくね」
ヴィヴィアンは、スカーレットに夜食と謎茶を勧めた。
「食べながら、話の続きしようか」
「ありがとう。いただくわ……タバサは、壺の中にいた頃のことを覚えているのね」
「覚えてるのは、この二日ばかりのことで、あとはほとんど……ときどき女の人の泣き声がして、それが消えていって…真っ暗なところで、ただただ、その繰り返しでしただ」
「そうだったの…」
痛ましげな顔のスカーレットの傍らで、ヴィヴィアンは、小さな声で詠唱した。
「我は願う、新たなる我が眷属に、永遠に消えることなき、育みの光の癒しを」
詠唱が終わると、タバサの手に光るペンダントが現れた。
「それ、首からかけておいて、暗いのが嫌なときに、握って。すごく明るくなるから」
「……畑の上の、お日様みてえな光だ」
タバサはペンダントを首にかけて、にっこり笑った。
「雇い主様、ありがとうございます。もう寂しくねえだ」
「うん。じゃ、話を続けるけど、話すのが無理なことは、無理だって言ってね」
「この光で、少し思い出したんだども……夏の終わり頃、家族総出で甘芋を掘って、領主様に納めに行ったらば、セミグリッド様の三男坊との縁談があるからって、オラだけ館に引き留められたです」
「セミグリッドっていうのは、ポリグリッド公国の筋の家かな」
「たぶん傍系ですだ。あー、いろいろ思い出した。セミグリッドの三男坊は、狩猟好きの変わりもんで知られてて、嫁の来手がなかったんだども、オラから見たら結構おもしれー男だったんで、ときどき誘われて、一緒に狩りに出たりしてたらば、お館様に『お前ら、結婚しろ』って、ご下命があったです」
「結婚を命じるなんて、横暴な領主だわね。タバサはそれでよかったの?」
身分格差や蔑視を心底憎むスカーレットは、タバサの話に顔をしかめた。
「まあ、びっくりはしたですけんど、親たちは、みそっかすの末っ子に良縁をいただいたって喜んでたし、オラも三男坊様を嫌いじゃなかったから、まあいいかって」
「そっか。無理強いっていうわけではなかったのね。それで?」
「冬支度の始まる前に、祝言をあげて…三男坊様は分家を立てて、オラの実家近くで、狩りをしながら暮らすことになったです」
タバサは、遥か遠い記憶の温みを思い出したのか、ほんのりと笑みを浮かべた。
「晴れた日は、オラも一緒に森に出て、雨が降ったら家でのんびり働いて、時々は大きな街まで遠出もして、面白く暮らしてたんだども…」
言葉が途切れ、タバサの顔から笑みが消えたのを見て、スカーレットは理由を察した。
「何かが、起きたのね。あの壺に関わることが」
「あいつが、来ただ。ハンニバル・グリッド。公国の災厄が」
ヴィヴィアンが玄関に向かって声をかけると、スカーレットが食堂に転移してきた。
「おまたせ。いろいろ片付いたわよ」
「セイモア・グリッドは、目が覚めた?」
「ええ。だいぶ混乱してたけど、問題ないわ。それで、お話は聞けたのかしら?」
「いま、聞いてたとこ。タバサ、スカーレットのことは分かる?」
「なんとなくは…あのクソ壺のいやらしい魔術の切れっ端をひっこ抜いてくださってた、お医者様だべ?」
「うん」
「あなた、タバサというのね」
「タバサ・ガゼルですだ、お医者様」
「私はスカーレット・ビンフィル。ヴィヴィアンの友人よ。よろしくね」
ヴィヴィアンは、スカーレットに夜食と謎茶を勧めた。
「食べながら、話の続きしようか」
「ありがとう。いただくわ……タバサは、壺の中にいた頃のことを覚えているのね」
「覚えてるのは、この二日ばかりのことで、あとはほとんど……ときどき女の人の泣き声がして、それが消えていって…真っ暗なところで、ただただ、その繰り返しでしただ」
「そうだったの…」
痛ましげな顔のスカーレットの傍らで、ヴィヴィアンは、小さな声で詠唱した。
「我は願う、新たなる我が眷属に、永遠に消えることなき、育みの光の癒しを」
詠唱が終わると、タバサの手に光るペンダントが現れた。
「それ、首からかけておいて、暗いのが嫌なときに、握って。すごく明るくなるから」
「……畑の上の、お日様みてえな光だ」
タバサはペンダントを首にかけて、にっこり笑った。
「雇い主様、ありがとうございます。もう寂しくねえだ」
「うん。じゃ、話を続けるけど、話すのが無理なことは、無理だって言ってね」
「この光で、少し思い出したんだども……夏の終わり頃、家族総出で甘芋を掘って、領主様に納めに行ったらば、セミグリッド様の三男坊との縁談があるからって、オラだけ館に引き留められたです」
「セミグリッドっていうのは、ポリグリッド公国の筋の家かな」
「たぶん傍系ですだ。あー、いろいろ思い出した。セミグリッドの三男坊は、狩猟好きの変わりもんで知られてて、嫁の来手がなかったんだども、オラから見たら結構おもしれー男だったんで、ときどき誘われて、一緒に狩りに出たりしてたらば、お館様に『お前ら、結婚しろ』って、ご下命があったです」
「結婚を命じるなんて、横暴な領主だわね。タバサはそれでよかったの?」
身分格差や蔑視を心底憎むスカーレットは、タバサの話に顔をしかめた。
「まあ、びっくりはしたですけんど、親たちは、みそっかすの末っ子に良縁をいただいたって喜んでたし、オラも三男坊様を嫌いじゃなかったから、まあいいかって」
「そっか。無理強いっていうわけではなかったのね。それで?」
「冬支度の始まる前に、祝言をあげて…三男坊様は分家を立てて、オラの実家近くで、狩りをしながら暮らすことになったです」
タバサは、遥か遠い記憶の温みを思い出したのか、ほんのりと笑みを浮かべた。
「晴れた日は、オラも一緒に森に出て、雨が降ったら家でのんびり働いて、時々は大きな街まで遠出もして、面白く暮らしてたんだども…」
言葉が途切れ、タバサの顔から笑みが消えたのを見て、スカーレットは理由を察した。
「何かが、起きたのね。あの壺に関わることが」
「あいつが、来ただ。ハンニバル・グリッド。公国の災厄が」
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